第267話 ネズミ

 核融合炉が停止したことにより、船内は暗闇に包まれていた。予備電源ぐらいはあると思うが、いっこうに回復しない。


 まあ、僕らにとっては、都合がいいけどね。


 ロボットスーツには暗視装置が装備されているので、暗闇に関係なく動ける。しかし帝国兵たちは、僕達が近くを通っても気がつかない。


 おかけで無駄な戦闘は避けられた。


 電源が回復したのは、甲板まで後少しというところまで来たとき……


「北村さん。出口です」


 芽衣ちゃんの指さす先に、僕達がドローンに追い立てられて入ってきた扉があった。


 外にドローンはいるだろうか?


 通信機でミールを呼び出してみた。


「ミール。ドローンは今、どこにいる?」

『カイトさんが入っていった入り口の前に陣取っています』


 なに? では扉を開いた途端に狙撃される。


「芽依ちゃん。他の出口から出よう」

「はい」


 艦橋ブリッジを挟んで反対側の出口を僕達は目指した。途中で出会った帝国兵をぶっ飛ばしながら……


 扉の前でもう一度、ミールを呼び出す。


「ミール。ドローンは、まださっきのところにいるかい?」

『それが、艦橋ブリッジを挟んだ反対側に移動しました』

「なに?」


 それでは、今この扉の前に? 僕達の動きが読まれている? 


「芽依ちゃん。監視カメラの類は?」

「さっきから、気をつけているのですが、見あたりません」


 すると、どうやって? 巧妙に隠されたカメラがあるのか?


「きゃあああ!」


 突然芽依ちゃんが悲鳴を上げる。


「どうした!?」

「ネ……ネズミ!」

「え?」


 芽依ちゃんの指さす先に、でっかいネズミがいた。


 芽依ちゃんも、やっぱり女の子だね……ネズミを怖がるなんて……ネズミ?


 僕はネズミの画像をミールに送った。


「ミール。この動物を、見た事あるかい?」

『さあ? そのぐらいの大きさの動物なら見た事ありますが、これと同じ動物は見たことありませんね。でも、なんか美味しそう』


 やはり、そうか!


「ワイヤーガンセット ファイヤー」


 ネズミにワイヤーガンを撃ち込んで引き寄せた。


「北村さん! ワイヤーガン消毒して下さい! ペストに感染しちゃう!」

「芽依ちゃん。こいつはネズミじゃない」

「え?」

「そもそもこの惑星に、ネズミなんかいない。こいつはネズミに偽装したドローンだ」

「え?」


 ワイヤーガンの刺さったネズミの体からは、電子部品がポロポロとこぼれ落ちている。


「他にもいるかもしれない。外へ出る前に、こいつら退治しよう」

「はい。本物のネズミじゃなければ怖くありません」


 外から、分身達ミールズにも来てもらって、僕達は程なく近くにいたネズミ型ドローンを排除した。後は外のドローンだけ……






「ちくしょう! 北村の奴、どこへ消えやがった」


 矢納さんが、苛立たしく叫びながらドローンを操作していた。


「ヤナ君。まだ見つからないのかね?」


 艦長席でそう言ったのは中年の帝国人。中年太りとは無縁な、引き締まった体つきをしている。整った顔つきをしているが、その目は冷酷な光を湛えていた。


「今、探している。だいたいなんで、ネズミ型のドローンしか無いんだ。この惑星の動物に偽装しないと、ばれるだろう」


 トントン。


「何だよ?」


 肩を叩かれて、矢納さんは振り返った。


 うにゅ!


 その頬に、僕の右手の人差し指がめり込む。


「え?」

「やあ、お久しぶりです。課長」


 しばしの間、呆気にとられていた矢納さんは、悲鳴を上げて床を這って逃げ出した。


「ひええええ! き! き! き!」

「北村」

「な! な! な!」

「なぜ、ここにいる?」


 矢納さんの言いたいことを、僕は代わりに言ってやった。


「そうだ! なぜ、お前がここにいる? いや、なぜここに俺がいるとわかった?」

「なぜもへったくりも、あなたが自分で言ったのでしょ。『レーザー砲は俺が艦橋ブリッジで操作している』って」


 ネズミ型ドローンを片付けた後、僕らは外には出ないでドローンを操縦している矢納さんの方へ行くことにしたのだ。


 艦橋ブリッジに着いた僕は、匍匐前進で矢納さんの背後に回り込み肩を叩いたという次第だ。

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