第255話 急速浮上

 潜望鏡が敵艦隊の姿を捉えたのは、走り始めて十分後のこと。


 しかし、木造帆船ばかりで《マカロフ》の姿は見えない。木造帆船の群れに遮られているようだ。


「姿が見えなくても平気ね。スクリュー音は、ばっちり聞こえているね」


 レイホーが僕の方を振り向く。


「魚雷を撃ったらすぐに浮上するね。お兄さんと芽衣ちゃんは、外で飛び出す準備をしておくね」

「分かった。ありがとう。レイホー」


 僕と芽衣ちゃんは、ロボットスーツのバイザーを閉じる。


「ミール。ミク。僕らが攪乱するから、本体の方を頼むよ」

「任せて下さい。カイトさん」「任せて! お兄ちゃん」


 レイホーが、正面モニター向き直る。


「ロンロン。魚雷発射管一番二番三番オープン」

『了解。四番はいかがします?』

「四番は、後ろから着いてくる痴漢退治に残しておくね」


 痴漢!?


「さっきの水中ドローンか。もう追いついて来た?」

「さっきから、スクリュー音がどんどん近づいてくるね。片付けておかないと厄介ね」

「しかし、後ろに、魚雷は撃てないだろう?」

「お兄さん、大丈夫。方法はあるね。そのために船を軽くしたいから、お兄さんと、芽衣ちゃんが飛び出した後でやるね」


 続いてレイホーは、ミールとミクに視線を向ける。


「あんた達は席について、しっかりシートベルト絞めるね」

「はい……ええっと……ミクちゃん、このシートベルトどうやるのですか?」

「これはね」


 ミクが手伝って、ミールのシートベルトを締める。


「二人とも、目を回さないようにね」


 レイホー、何をやる気だ?


「ロンロン。魚雷発射用意」

『了解しました。目標はすべて《マカロフ》でよろしいですね?』

「当然。雑魚の木造帆船に魚雷なんてもったいないね」

「レイホーさん。この魚雷で《マカロフ》を沈められないの?」


 ミクが不思議そうな顔で質問した。


「ミクちゃん、それは無理。こんな小型魚雷じゃ《マカロフ》の装甲は破れないね。でも、向こうにはそれが分からないから、魚雷がくれば回避運動ぐらいはしてくれる。その隙に浮上して、お兄さんと芽衣ちゃんが出撃するね」

「そっか。じゃあ、《マカロフ》はあたしとミールちゃんで、やっつけるしかないんだね」

「ミク。言っておくが、沈めなくていいぞ。レーザー砲とアスロックランチャーさえ潰せばいいんだから」

「うん。分かった。みんな壊しちゃえばいいのね」

「だから……」


 人の話を聞け! と、僕が言いかけた時、レイホーの号令が轟いた。


「魚雷発射! 《水龍》急速浮上!」


 いかん! もう出撃だ。


「芽衣ちゃん行くよ」

「はい」

「イナーシャルコントロール0G」


 重力を打ち消して、僕と芽衣ちゃんは司令塔を登っていった。


 ハッチの下でしばらく待機。


 水面から出たら、下からの操作でハッチを開く事になっていた。


 その待ち時間数秒が一時間に感じられる。


 ロボットスーツの通信機から、レイホーの声が聞こえてきた。


『水面に出た! ハッチ開くね!』


 ハッチが開いた。


 木造帆船で埋め尽くされた水面に、僕と芽衣ちゃんは飛び出していく。

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