第236話 撃ち合い(過去編)

 暗視双眼鏡を覗くと、砲兵陣地のすぐ横に迫撃砲弾が穿うがったクレーターができていた。


 香子はすぐさま、着弾観測のデータを迫撃砲部隊に送る。


 そのデータを元に修正した次弾は、三門の大砲に直撃して完全に破壊した。


 次はロケット砲の反撃があるはず。


 香子とレイホーは、手すりの外側にカメラをセットして反撃を待った。


 反撃が来たのは、初弾を撃ってから数分後。


 こちらの迫撃砲は、とっくに移動した後。


 やはり、ロケット砲の射手は油断していたようだ。

 

「レイホーさん。ロケット砲の射点は?」

「三時の方向、距離四百、廃墟ビルの二階ね」


 レーザー銃の暗視スコープを、そっちへ向ける。


 窓ガラスを失った廃墟ビルの中で、ロケット砲の射手たちが次弾を装填している最中だった。


 香子は射手の一人に狙いをつける。


 頭部に照準を合わせて引き金を引いた。


 途端に射手の頭が炎に包まれる。


 射手は、そのまま崩れるように倒れた。

 

「人を撃つのは初めてじゃないけど、やはりいい気持ちはしないわね」


 嫌悪感を堪えつつ、次の射手を狙おうとしたとき、ビルの中は突然爆炎に包まれた。


 香子はスコープから目を離して、横を向く。


 レイホーがレーザー銃を構えていた。


「レイホーさん。何を撃ったの?」

「ロケット砲の砲弾があったから、それを狙って誘爆させてやったね。省エネ省エネ」

「なるほど、それなら……」


 香子は、砲兵陣地の方にレーザー銃を向けた。


 大砲は破壊されたが、まだ火薬の樽が残っている。


 それにレーザーを照射した。


 帝国軍の陣地が爆炎に包まれる。 


「次は、ここに反撃がくるわ」


 フッ化重水素レーザーの波長は三・八μm。これは肉眼では見えないので、普通ならレーザー銃の射点は特定できない。


 しかし照準に使っているレーザーサイトは可視光線のため、これを使うと射点を特定されてしまうのだ。


「レイホーさん。カメラだけ残して、一度エレベーターに隠れるわよ」

「あいさ」


 ドームの頂上にある装甲板は、エレベーターが昇ってくると直径五メートルの部分がエレベーターの屋根と一緒に持ち上がるようになっていた。遠くから見ると、ドームの上にキノコが生えたかのように見える。


 香子とレイホーは、エレベーター内に駆け込み下降ボタンを押した。


 キノコがドームの中に引っ込み一体化する。


 その直後、ドームの頂上に向かってロケット弾が飛んできた。


 しかし、いくらロケット弾でも、核攻撃にすら耐えられるドームには歯が立たない。


 一方、エレベーターの中では、レイホーがPC画面で外部カメラの映像を見ていた。


 カメラ本体はすでに破壊されているので、これは録画だ。


「今の攻撃、四時の方向、距離三百。廃墟ビル屋上」


 エレベーターを再び、ドームの上に出した。


 廃墟ビルの屋上は、ドームよりやや低い高さ。


 そこで、六人の兵士がロケット砲に次弾を装填しているところだった。


 香子とレイホーは、兵士ではなく砲弾に狙いをつける。


 引き金を引いた。


 屋上が爆炎に包まれる。


 爆炎が治まった後、屋上に動いている者はいなかった。


 それを確認すると、香子たちは再びエレベーターに引っ込む。


 エレベーターがドームに引っ込んだ直後、別の方向から来たロケット砲弾がドームに命中した。


「この手は、もう読まれていると思うわ」


 香子はロケット砲の射点を、迫撃砲部隊に伝えて攻撃してもらった。

  

「香子さん。ドローンの新手が現れた」


 すぐさま、香子は芽衣を迎撃に向かわせた。


「香子さん。通信機貸して。次に新手が現れたら、私が直接伝える。その方が早いね」

「そうね。お願いするわ」


 香子は、通信機をレイホーに渡した。


 そうしている間に、別の方向から撃たれたロケット砲が、迫撃砲の射点を攻撃。


 しかし、ロケット砲が着弾した時点では、迫撃砲部隊は移動した後だった。


「香子さん。上から攻撃する?」

「いえ。今度はドローンで攻撃してもらうわ」


 ドーム内にいるオペレーターに伝えて、ロケット砲の射点を攻撃してもらった。


「ロケット砲は、かなり潰したわね。もうほとんど残っていないと思うわ」

「香子さん。なんで、分かる?」

「帝国軍のロケット砲や自動小銃は、プリンターで作ったもの。その原料はリトル東京から盗み出したマテリアルカートリッジ。盗まれたカートリッジの量から、この作戦に使われると思われる量を想定するとロケット砲は残っていても、せいぜい三門ぐらいね」

「なるほど」

「そうなると、そろそろあいつが出てきそう」

「雷神女か?」

「そうよ」 


 その時、廃墟ビルの間から光球が飛び出してきた。

 

「来た!」


 光球は、まっすぐドローンに向かう。


「ドローンを上昇させて! 急いで!」


 オペレーターに伝えたが、間に合わなかった。


 光球が命中して、ドローンは真っ直ぐ落下していく。


 地面に激突して、爆発。


 その爆炎の中から、美しい顔に猟奇的な笑みを浮かべた女が出てきた。


「エラ・アレンスキー」


 香子が呟いた直後、エラはバリケードに向かって光球を放った。

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