第113話 ロボットスーツVSロボットスーツ

『かかってこい』と言ったのだが、奴はなかなか、かかってこない。


 互いに、ファイティングポーズのまま睨み合っている状態だ。


 たが、少しずつ、互いの間合いが縮まっていた。


 残時間二百五十秒


 カルルの奴、こっちのバッテリー切れを狙っているのか?


 そう思った瞬間、奴が仕掛けてきた。


 一気に間合いを縮め、連続してジャブを放ってくる。


 咄嗟にガードを固め、ジャブを防いだ。


 しかし、ジャブに気を取られ過ぎて、いつの間にか僕に隙ができていた。


 その隙を狙い、奴は右ストレートを放ってくる。


 顔面にまともに食らった。


『ヘルメットに打撃。損傷軽微』


 衝撃は、ほとんど吸収されたようなので痛みはなかったが、センサーの一部が死んだようだ。


 休む間もなく、カルルはアッパーカットを放ってきた。


 スエーバックで躱す。


 アッパーが空振りになって、カルルの姿勢が崩れた隙を狙い……


「ブースト!」


 ボディに、ブーストパンチを叩き込んだ。


 カルルは吹っ飛び、見張り塔にぶつかり壁にめり込んだ。


 大丈夫かな? 見張り塔は……


「くそ」


 悪態を突きながら、カルルは壁からはい出してくる。


「スペックの違いを見せてやるぜ。アクセレレーション」


 加速機能のコマンドもこっちと同じか。


「アクセレレーション」


 こっちも加速機能を発動。


 しかし……速い……


 あっという間に背後を取られた。


 背中に衝撃。


 前方回転受け身で衝撃を和らげる。


 高校時代に習った柔道が役に立った。


「言っただろ。パワーも速度もお前の三倍だと……」


 バイザーに、損傷を受けた個所が表示される。


 またセンサー類が一部死んだ。


 残時間百八十秒


 後三分……


「いくぞ!」


 カルルが向ってきた。


 こっちも、加速機能を使うが……


 ダメだ。


 やはり奴の方が速い……


 また背後を取られた。


 ベッドロックをかけられる。


 残時間百五十秒。


 身動きが取れない


「海斗さあん!」


 ん?


 声の方に視線を向けると、二人の分身達ミールズが僕の外部電源を持ち上げていた。


「これ。預かっておきますね」

「ああ……ありがとう」

「アホのカルル!」


 三人の分身達ミールズが、カルルの外部電源を持ち上げていた。


「ああ! 俺の外部電源!」


 分身達ミールズは、外部電源を持って屋上の縁へいく。


「これどうする?」「いらないよね」「捨てちゃえ、捨てちゃえ」 

「やめろう!」


 慌ててカルルは僕を放して、分身達ミールズの方へ向かう。


「せえの!」「ぽい」


 外部電源を下に投げ捨てた。


「ああ! なんてことしやがる」


 チュッドーン!


 爆音が聞こえてくる。


 地面にぶつかった外部電源が爆発したようだ。


「このクソアマ!」


 完全に頭に血が上ったようだ。


 カルルは僕を忘れて分身達ミールズを追い回している。


 分身達ミールズは反撃しないで、キャー! キャー!言いながら逃げ回っていた。


 さてはあいつ、外部電源のスペアを持っていないな。


 カルルは、ドーマンセーマンのカードをかざした。


「やい、これを見ろ」


 だが、分身達ミールズは掌で目を隠している。


「そんなの見なきゃ、平気だもんねえ」「ばーか! ばーか!」


 歯ぎしりして悔しがるカルル。


 その背後から……


「ブースト」


 僕はブーストパンチを背中に叩きこんだ。


「どわわわ!」


 カルルは十メートル先の壁に、大の字になってめり込んだ。 


 残時間百秒


 そろそろ、限界かな? いや、まだのようだ。


 壁から這いだしたカルルが、こっちへ向かってくる。


「ジャンプ!」


 僕は高々と飛び上がった。それを見たカルルも、ジャンプして追いかけてくる。


「バカめ! ジャンプ力も、こっちが上なんだよ」


 うん。そうだと思った。


 だから、やったんだよ。


 僕は背中からショットガンを抜いた。


「そんな物は、効かないと言っているだろう」

「知ってる。これはブレーキさ」

「なに?」


 空中でカルルと交差する寸前、僕は上に向かってショットガンを撃った。


 ショットガンの反動で僕の上昇速度は落ちて、カルルは頭上を通り過ぎる。


 さらにショットガンを連射して、僕は地表に降りた。


 カルルは、まだ空中にいた。


 空中で軌道を変えるのに使えるような銃を、奴は持っていない。


 さらに、奴のスーツを見ていたが、ホバー機能らしきものが見当たらなかった。


 パワーとスピードが三倍だろうが、一度地面から足が離れてしまったら最後、奴は地表に降りるまで何もできないのだ。


 カルルは、空中で手足をむなしくバタバタさせていた。


 僕を追いかけてジャンプしたのが奴のミス。


 カルルの着地予想地点に先回り。落ちてきたカルルを……


「ブースト」


 カルルの足が地面に着くより先に、ブーストパンチで吹っ飛ばした。 


 再び、壁にめり込む。


 残時間五十五秒。


 そろそろかな?


「もう、許さんぞ」


 カルルは壁から這いだしてきた。


 しぶといな……


 次の瞬間、カルルは爆炎に包まれた。


『私の事を忘れていませんか? アホのカルル・エステスさん』


 Pちゃんの声。


 いつの間にか、僕とカルルの間に、菊花二号がホバリングしている。


「うるさい! アホは余計だ!」

『アホをアホと言って何が悪いのです。ご主人様のロボットスーツに対抗するためとは言え、そんな欠陥品を身に纏うなんて。アホでなければ、自殺願望ですか?』

「欠陥品?」


 カルルは、怪訝そうに言う。


『それは、日本のロボットスーツに対抗するために、S社が開発したロボットスーツですね。実戦で欠陥が露呈して、パイロットが死にかけたという曰く付きです』

「実戦? なにを言ってる? これは実戦配備が間に合わなかった……」

『間に合っていますよ。日本側の記録では。ただ、あまりにも恥ずかしい負け方をしたので、かの国では実戦投入には間に合わなかったと発表していたのです。そのせいで、いつの間にか一般には、幻の超兵器のような印象が出来上がっていたようですね。あなたも、その印象に騙されたのでしょう』

「おい……このロボットスーツ……本当は、戦場でどうなった?」

『戦闘中、最初のうちは優勢だったのですが、突然パイロットが……』

「うぎゃああああ!」


 カルルは、突然悲鳴を上げて苦しみだした。


『悲鳴を上げて苦しみだし、戦闘不能になったのです。というか、すでになっていますね』


 だから、使わない方が身のためだと言ったのに……


 人の話聞かないから……


「カイトさん」「これを」


 分身達ミールズが外部電源を持ってきてくれたのは、残時間が五秒を切った時だった。


「ありがとう。ミール」

「それにしてもカイトさん。いったい、カルルはどうしたのです?」

「どうこうもないよ。ロボットスーツのパワーとスピードは、人間の身体が耐えられる、ぎりぎりの数値に設定してあるんだ」


 そのぎりぎりの数値を割り出すために、僕のオリジナルは実験材料にされたわけだが……


「そんな事も知らないでスペックを上げてしまったら、装着している人間の身体がもつわけがない。今頃、カルルは関節の一つや二つ外れて……」


 僕の説明が終わる前に、分身達ミールズは消えてしまった。


 時間切れか。


 ロボットスーツも電池切れ。


 カルルにとどめを刺すのは、充電後だな。


 だが、外部電源を装着したとき、警報が鳴った。


『クエンチ警報、内部電源はクエンチの危険があるため、充電を停止します』


 アチャー! 今回はかなりダメージ食らったからな。


 バイザーには、エラーマークが嫌と言うほど出ている。


 エシャーのお父さんが降りてきたのは、そんな時だった。


 結局、のた打ち回るカルルにトドメを指すことなく、僕は城から離脱した。


 別に情けをかけたわけじゃない。もう余力がなかっただけだ。


 なのに、なぜか僕はホッとしていた。

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