第100話 痴漢冤罪

『あれ? あれ?』


 カルルの声は、なんか拍子抜けしていた。


『エッチ! 痴漢! 変態!』


 ミールの叫び声! 続いて物を投げつけるような音……


 向こうで、何が起きているんだ?


『すみません! 部屋を、間違えました』


 居丈高なカルルが、低姿勢で謝っている?


 そのまま、ドアが閉まる音。


 続いてカルルが走る足音が聞こえる。


 ミールから通信が入った。


「ミール! 何があった?」

『うえーん! カイトさん』


 ミールが泣いている!


『変な男に、着替えを覗かれました』

「なにい!」 


 カルルが入った時、ちょうど、着替え中だったのか。


『ミールは、もうお嫁にいけません。エグ……エグ……』


 こ……こういう時どうやって慰めれば……


「だ……大丈夫だよ」


 根拠はないけど……


『どう大丈夫なのですか?』

「ええっと……」


 それを聞かれても困るのだけど……


『そうか! カイトさんが、ミールをもらってくれるのですね』

「え……? ちょ……! ま……」

『あ! ベジドラゴンが飛べるようになったようです。それでは、この話は後程ゆっくりと……』


 な……なんでこうなる? 


 カルルから無線が入った


『北村海斗。よくもやってくれたな』

「何のことだ?」

『とぼけるな! 俺を罠にかけたくせに』

「罠?」

『さっきのミサイルは、レーザー誘導弾ではなかったな』

「だから、そう言ってるじゃないか」

『着弾のタイミングがずれているので、なんか変だなと思っていたが……』


 いや、その時点で気づけよ……


『おまえは、最初から俺が城にいる事に気が付いていたな。それで、俺を誘き出すためにレーザー照射をやったな』


 全然違うのですけど……


『一見、見張り塔から着弾地点にレーザー照射されているように見えた。そのせいで俺は、見張り塔にお前がいると勘違いしてしまったが実は逆だ。お前は着弾地点から見張り塔にレーザーを照射して、あたかも自分がそこにいるかの様に見せかけたのだろう』

「あのなあ……なんのために、僕がそんなややっこしい事を、しなきゃならないんだよ?」

『決まっている。見張り塔の女子更衣室に俺をおびき寄せ、俺に痴漢の濡れ衣を着せて、帝国内における俺の社会的信用を失墜させようという魂胆だろ』

「誰がするか! そんなしょうもないこと……ていうか、失墜するような信用が、お前にあったのか?」

『あるぞ。俺は帝国軍の高官たちから、頼りにされているんだ』

「おまえの技術と知識を頼りにしているだけだろ。たぶん利用価値が無くなったら、捨てられるだろうな」

『なにを根拠に……』

「おまえが裏切り者だから」

『なに?』

「たとえ自分の側についても、裏切り者って嫌われるんだよな。三国志の曹操も、自分の側に寝返った者を、戦が終わった後で『この裏切り者め!』って処刑していたじゃないか。おまえもそうなるかもね」

『うるさい! そのぐらい分かっている。だからこそ、帝国軍に信用されようと、今まで努力してきたというのに……俺に痴漢の冤罪なんか……』


 ムカムカ!


「やかましい! 元を正せば、お前が勘違いして突っ走ったせいだろう! こっちも、いい迷惑なんだよ! おまえがミールの着替えを覗いたせいで……」

『ミール?』


 あ! しまった! こいつ、部屋にいた女の子がミールだと気が付いてなかったんだ。


『今、ミールとか言ったな?』

「なんの事かな?」

『そうかそうか。あの猫耳と猫尻尾、てっきりコスプレかと思っていたら、ナーモ族だったのか』

「ち……違う。あれはコスプレだ」

『東京ビックサイトじゃあるまいし、コスプレ女がそうそういてたまるか!』

「おまえも、あそこによく行ってたのか?」

『おうよ。毎年夏も冬も欠かさず……話を逸らすな!』


 くそ!


『ミールと分かったからには捕まえないと。じゃあな』


 通信が切れた。


 ヤバイ!


 ミールを呼び出す。


『カイトさん。結婚式はいつにしましょう』

「それどころじゃない! カルル・エステスが君を捕まえに向かっている」

『え? カルル・エステスって?』

「さっきの痴漢野郎だ。早く逃げてくれ」

『わっかりました!』


 通信が切れた。


 これを最後に、ミールとの交信は途絶えた。

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