第90話 スライムが服の中に侵入してエロい事に

「えい!」「えい!」「えい!」


 地下道の前方で、ミールの分身達ミールズが黄色い声を張り上げながら、巨大スライムめがけて塩を投げつけていた。


 スライムも、たまらず後退していく。


 時折、触手を延ばして分身をからめ取ろうとするが、分身の着ている服にも塩を塗りたくってあったので、服に触れた瞬間、熱湯にでも触れたかのにように触手を引っ込ませていた。


「こいつを作る必要は、無かったかな?」


 液体窒素噴霧器を手に取ってみた。


 塩だけでは不安なので、念のためプリンターで作っておいたのだ。


「カイトさん。右からスライムが!」


 右の岩壁の隙間からスライムが染み出してくるところだった。


「うおお!」


 咄嗟に噴霧器を岩壁に向けてトリガーを引く。


 噴霧器から、液体窒素が霧状に吹き出して、スライムに降り注いだ。


 たちまちの内に、スライムは凍り付いていく。


 やはり作っておいてよかったか。


「こんな狭い隙間からも出てくるのか? 油断も隙もないな」


 ミール(本体)の方を見ると、床から忍び寄ってきたスライムに液体窒素を吹き付けていた。



 前回の偵察から、再び地下道に入るまで二日かかってしまった。


 地下道の入り口から、タンクの場所までたどり着いて戻ってくるのに必要な塩の量を計算したところ、五十キロ近く必要と分かったのだ。


 塩湖から持ってきた塩は、もうほとんど残っていない。


 近くにある岩塩鉱山まで行って調達してくるのに、それだけ時間がかかってしまったのだ。


 岩塩鉱山から戻ってくる車の中で、ミールはアンダーの分身を操って城内に送り込んでいた。内部の様子が少しでも分かればと思ったのだが、あまり成果を上げられないうちに分身を見破られてしまった。まあ、それはたいしたことではない。これは今回の計画の複線だったのだから……


『ご主人様、電波が弱くなってきました』


 通信機から聞こえるPちゃんの声には、多少ノイズが混じっていた。


 ディスプレーに表示されている電波状態を見るとアンテナが二本になっている。


 この表示は僕が日本にいた頃の携帯の表示と変わらない。


「分かった」


 ミールの方を向いた。


「ミール。ちょっとだけ、ここで待っていてくれ」

「はーい」


 僕は、電波状態を見ながら地下道を引き返す。


 アンテナが三本になったところで、ショルダーバックから電波中継器を取り出して地下道の壁に設置した。


 ミールの待っているところへ戻ってみると……


「はううう!」


 妙な声を上げてミールが蹲っている。


「ミール! どうした!?」

「カイトさん……スライムが……」

「なに?」


 噴霧器を構えて、周囲を見回した。


 しかし、スライムは何処にもいない。


「ああん……ダメ! そんなところに……ああ!」


 ミールがいっそう苦しみ……いや、なんかちょっと違うような……


「ミール……スライムは何処?」

「ふ……服の中に……」

「なにい!」


 ど……どうすればいいんだ? 服を脱がす? いや……そんな破廉恥な……いや、これはミールを助けるためであって、エッチなつもりでやるのでは……そうだ!


 僕は塩を掴んでミールに差し出した。


「ミール、服の中に塩を入れるんだ」


 これなら、脱がさなくてもなんとかなる。


「違います。カイトさん。服の中に潜り込まれたのは分身の方です」

「え? 分身? なら平気では……」

「それが、分身の感覚を遮断する前に、服に潜り込まれて……服には塩を塗っておいたのに……中は無防備でした」

「え?」

「あああ! そんなところ……いや、やめて」

「感覚を、遮断できないの?」

「やろうとしているのですけど、精神を集中できなくて……六体の分身の、どれに入られたのかが……分からなくて……ああ! いや!」


 ゴクリ! 


「よし、僕が行って直接……」


 分身達のところへ行こうとしたら、ミールに腕を掴まれた。


「あたしから離れないで下さい!」

「え……でも……」


 ミールは僕に抱きついてきた。ロボットスーツごしなので体温は伝わってこないが……


「ああ! 触手が入ってくる」


 どこに?


 いかん! 想像するな! 想像するな! 想像するなああ!


 しばらくして、ミールは落ち着いてきた。


 分身の感覚を遮断できたようだ。


「カイトさん。もう大丈夫です。感覚を遮断できました」

「そ……そうか……よかったな……」

「今、想像していましたね?」


 ミールにジッと見つめられ、僕は慌てて目を逸らした。


「想像って……何を……」

「もちろん、恥ずかしくて、口には出せないような事をです」

「してない」

「どんな事を想像したのですか?」

「してないよ」

「じゃあ、あたしの目を見て言ってください」

「見ているぞ」


 いや、本当は視線そらしているけど、ヘルメットのバイザーで見えないはず。


 ミールが僕の首に手を伸ばしてきた。


 カチ


 え? カチって? あ! バイザーが開いた。


 バイザーの開閉スイッチを、いつ間に覚えたのだ?


「ほら、視線を逸らしていますね」

「うぐ……」

「さあ、白状して下さい。どんな事を想像しました?」

「し……してない」

「変ですね。健全な殿方はこういう時、エッチな事を想像するのが普通ですけど……カイトさん、まさか同性愛?」

「んなわけあるか! 僕はノーマルだ!」

「じゃあ、想像しましたね?」

「いや、その……」

「さあ、どんな事を、想像したのです?」


『ご主人様、ミールさん』


 突然、通信機からPちゃんの声が響いた。


「なんですか! Pちゃん。いいところなんだから、邪魔しないで下さい」

『いいえ、そうじゃなくて、お二人のいるところに、特大スライムが向かっているのを、ドローンが見つけたのですけど……』

「え?」「え?」


 直後、横穴から触手が伸びてくる。


「きゃあああ!」


 僕とミールは、スライムに液体窒素を浴びせまくった。





 タンクのところにたどり着いた時には、塩の三分の一は使い切っていた。


 ダモンさんが使った入り口は、すぐに見つかる。


 岩の扉を開いてみると、岩の階段が続いていた。


 扉の向こうに、ミールの分身たちを見張りに残して僕とミールは石段を上がって行く。


 石段を登り切った先に木製の扉があった。


 扉を少しだけ開いて、ファイバースコープを差し込んでみる。


 ファイバースコープは、何かにぶつかってしまい映像が見えない。


 思い切って扉を開いた。


 これは?


「本棚のようですね」


 本棚だった。ただし、本棚の後ろ側。


 そうか! これは、本棚を横にずらすと、秘密の抜け穴が出てくるという、よくある仕掛けだ。


 僕らは秘密の抜け穴の方からやって来たから、本棚の後ろに出てしまったのだ。


「確かにダモン様の執務室には、大きな本棚がありましたね。その後ろに出ちゃったのかしら?」


 ミールは本棚に手を触れた。


 その途端、本棚が横にずれていく。


 ヤバイ!


 まだ、本棚の向こうをチェックしていないのに……


 本棚を抑えようとしたがもう遅い。


 本棚は完全にずれてしまい、その向こうに呆気にとられているダモンさんがいた。

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