第52話 憑代

「シャー!」


 分身は、大口を開け、牙をむいて飛び掛かってきた。


 僕は左腕突き出してわざと噛ませる。


『噛みつかれました。磁性流体装甲リキッドアーマー第一層貫通、第二層で食い止めました』

「ブースト」


 左腕に刺さった牙を残して、分身は吹っ飛んでいく。


 牙はすぐに消えてしまった。


 

 一方で、分身の口には新しい牙がニュキッと生えてくる。


 こっちの装甲は、どんどんダメージが蓄積していくというのに……


『ご主人様。AA12をドローンから投下しました。受け取って下さい』


 上を見ると、パラシュートで何かが降りてくるのが見える。


「パッテリーパージ」



 残時間二百八十秒



 こっちから、分身に向かって駆け出した。


 分身も、僕に向かってくる。


 ぶつかる寸前……


「ジャンプ」


 僕は大きく跳躍した。その下を分身が通り過ぎる。


「ホバー」 


 圧縮空気を噴出して軌道修正。


 空中で、AA12コンバットショットガンをキャッチした。


 今のところ、プリンターで出力できる最強の銃。


 着地と同時にフルオート射撃を分身に叩き込む。



 やったか?



 身体の半分以上は、吹き飛んだようだが……消えない?


「ミール。半分以上削ったのに、消えないぞ」

『すみません。半分以上というのは、あたしの分身を基準に言ったのです。暴走中の分身は、それでは足りません』

「なんだって?」

『暴走中の分身は、能力者が死ぬまで生命力を容赦なく吸い取りますので』


 能力者……さっきの女性兵士か。


『ご主人様。今からでも遅くありません。あの女殺しちゃいましょう』

『Pちゃん。そうしたいのは山々ですが、それは事態を悪くするだけです』

『どういう事です?』

『人は死ぬ瞬間に、膨大な生命力を放出します。分身がそれを吸収したら、どんな事態になるか予想できません。最悪の場合は、大爆発を起こして辺り一帯が吹き飛びます』

『グヌヌ……あの時、殺しておけば……』

『カイトさん。こうなったら、憑代を破壊するしかありません』

「憑代?」

『分身の中核のようなものです。あたしの場合、さっきも見せましたが、木札を使っています。暴走中の分身でも、何か本人の思い入れのある品を、憑代にしているはずです。それを破壊すれば、分身は消えます』

「しかし、どうやって見つける?」

『分身をデジカメで見たとき、出現消滅を繰り返していましたね。あれを見ているときに気が付いたのですが、憑代だけは消えていなかったです』

「分かった。やってみる」


 分身を見るとかなり再生が進んでしまったが、首の再生ができてないので動けないようだ。


 デジカメ画像をバイザーに表示。


 出現消滅を繰り返す分身を拡大してみた。


 この中に消滅しない部分があるはず。


 あった!


 胸のあたりに、短剣が。


 あれを破壊すれば……


『銃撃を受けました。貫通なし損傷なし』



 なに!?



 銃撃の来た方を見ると、数名の帝国兵が銃を構えている。


 しまった! もうダサエフ達が来てしまった。

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