第14話 未確認飛行物体
「シャトルの、サブコンピューターから連絡が入りました。シャトルに
UFO? この場合、宇宙人の乗り物じゃなくて、正体不明の飛行体という事でいいんだろうな? そもそも、この惑星では僕の方が
「ナーモ族の、飛行機とかじゃないのか?」
「いいえ。ナーモ族だけでなく、この惑星には飛行機を飛ばすような機械文明を持っている種族はいません」
「じゃあ、ベジドラゴンとかレッドドラゴンとかじゃないの? あんだけ大きければ、レーダーに映るだろう」
「この
「じゃあ、どうやって見つけたの?」
「レーダーの
「逆探知か?」
「そうです。生物なら
「ドローンだと?」
そうだった! 僕の乗ったシャトルは、ドローンに撃墜されたんだ。
すっかり忘れていた。
「僕を、探しにきたのかな?」
「その可能性は、高いですね」
「しかし、なぜ今頃? シャトルが落ちて三日目だぞ。なんで、すぐに来なかったんだ?」
「来なかったのではなく、来られなかったのですよ」
「どういうことだ?」
「シャトルは、マッハ二十以上の速度で大気圏に突入します。攻撃を受けた時は、かなり速度が落ちていたと推測できますが、それでもマッハ一~マッハ三の速度はあったでしょう。攻撃を受けた地点から、不時着地点まで数百キロから千キロは離れたと推測されます。通常のドローンでは、そんな長距離は追ってこられません。一度、地上に降りて、車など別の移動手段で追ってきたのでしょう」
つまり、三日かかって、やっと追いついたってことか。
さて、僕の取るべき選択肢は?
『逃げる』『隠れる』『戦う』
空を飛ぶから相手からは、逃げられない。
遮蔽物のない塩の平原に、隠れる場所はない。
相手の戦力もわからないのに、戦うは無謀。
よって三つの選択肢はすべて却下。
『
論外。
『偵察する』
うん。これだな。
敵を知り己を知れば百戦殆うからずだ。
「Pちゃん。マルチプリンターで、ドローンは作れるかい?」
「作れます」
「よし、こっちからもドローンを飛ばそう」
「しかし、下手にドローンを飛ばすと、こちらの位置を特定される危険があります」
「小型のドローンを、低空で飛ばすというならどうだ?」
「シャトルの不時着地点まで、二百五十キロ離れています。小型のドローンでは、そこまでの航続距離がありません」
「そうか……」
「カイト、ドローンテ、空トブ、玩具ノコト?」
エシャーはドローンを見た事があるのかな?
「そうだよ。知ってるのかい?」
「リトルトーキョーデ見タ、一緒ニ飛ンダ、楽シカッタ」
そうだ!
トレーラーから、プリンターを引っ張り出した。
意外と小さいな。
こんな物で、どうやってこんな大きなトレーラーを作ったんだ?
と思っていたら、折り畳み式になっていたようだ。
Pちゃんが操作すると、バスタブぐらいの大きさだった金属隗が、ガシャガシャと音を立てて、トレーラーがすっぽり入るぐらいの、中空の直方体が組みあがった。
この中で、物体を再生するらしい。
「ご主人様、ドローンのカタログを出しました。どれがいいか、選んでください」
プリンターのコントロールパネルのディスプレーに、様々なドローンの写真が表示されている。
僕の時代にあった物から、もっと未来に開発された物まで様々。
ヘリコプタータイプがもっとも多いが、固定翼のプロペラ機や、オスプレイの様なVTOLやジェット機もある。
航続距離優先の飛行船タイプもあった。
それにしても、未来の技術なら実現していても良さそうな物が見あたらない。実現しなかったのかな?
「重力制御って、結局実現しなかったの?」
大気圏突入の時にGを相殺できなかったという事は、実現しなかったって事だろうだと思うが……
「実現していますよ。もちろん、地球にはそれを応用したドローンもあります」
「じゃあ、なんでこの中にないんだ?」
「重力制御システムは、基本的にコピーができないのですよ」
「なぜ?」
「ご主人様の時代にあったプリンターは、トナーを吹き付けて積み上げていく装置でしたね。このマルチプリンターは、原子を一つ一つ積み上げていく装置です」
それは、ここへくる途中で聞いていた。
そのために、このコピー機には水素からビスマスまで八十三種の元素を、純粋な状態で入れた
この惑星で、元素カートリッジは大変な貴重品。だから、一個たりともシャトルに残しておけないというので、トレーラーを作ったのだ。
「ですから。このコピー機はバリオン物質でできている製品なら、何でも作ることができます」
「じゃあ、なぜ重力制御はダメなんだ?」
「重力制御には、非バリオン物質が必要なのです。一応、重力を制御する装置は作れますが、その中に非バリオン物質を封入しなければ、重力制御効果は得られません」
「非バリオン物質って、プリンターではどうにもならないの?」
「なりません。非バリオン物質を集めるには、巨大なプラントと膨大なエネルギーが必要となります。それと専門知識を持った技術者」
とりあえず、重力制御は不可能ではないが、ここでは使えないって事か。
「じゃあエシャー頼んだよ」
「マカセテ」
エシャーは、弟を連れて飛び立った。
エシャーが首から下げている籠には、さっきプリンターで作った三機のドローンが入っている。
元々、エシャーはお父さんの所へ、リリアの実を届ける途中だった。
だから、ついでにドローンを持っていくことを頼んだのだ。
ただ、こっちのドローンを持っているところを敵のドローンに見られたら、エシャーが攻撃される危険がある。だから、現地に着いたら、シャトルの影に隠れて、こっそりドローンを置いてくるように言い含めておいた。
でも、ちゃんと理解してくれたかな?
エシャーの姿が、塩平線に消えるまで僕は見送っていた。
「翼竜の雌まで手なずけるなんて、ご主人様は女ったらしですね」
すぐ背後で、Pちゃんが怨嗟の籠った声で囁くように言う。
いや……怨嗟が籠っているような気がしただけだ。
ロボットにそんな感情あるわけない。
たぶん、ないと思う。
ないんじゃないかな?
まあ、ちっと覚悟しておこう。
「女ったらしって!? 何言ってるんだ、おまえ!!」
「いえいえ。こんな事はあり得ないと思うのですが、魔法か何かであの翼竜が人化でもしたら、ご主人様のハーレムに、加わってしまうのではないかと……」
「加わるも何も、ハーレムなんかねえよ!!」
「無いけど、これから作るつもりですね」
「つもりもない!!」
「まあ、作ろうとしても、私の目の黒いうちは、させませんけど……」
「だから、作るつもりはないし……、仮にあったとして、なぜお前が邪魔をする?」
「え? いえ、ご主人様が悪い女に騙されるような事あってはならないと……」
まさか、こいつ……焼きもちを焼いてるのか?
ロボットと言っても、二百年の間にかなり進歩しているはずだ。
感情を持ったロボットが、作られた可能性は十分にあるが……
あるいは懐中時計と同じで、こういう状況で焼きもちを焼いたように振る舞うようなプログラムでもあるのかな?
いかん! こんなしょうもない事やってる場合じゃなかった。
「そんな事より、敵のドローンの動きはどうなっている? シャトルは発見されてしまったのか?」
「今のところ、近づいてくる様子はありません。発見は、されていないものと推測できます」
「そうか。ところで、今更聞くのもなんだけど、二百五十キロ先のドローンをコントロールできるの? この惑星にはGPS衛星は、なかったと思うけど……」
「普通は無理ですが、シャトルの近くなら可能です」
「どうして?」
「この惑星には、赤道上空に三機の通信衛星があります。さっきから私がシャトルのサブコンピューターと連絡を取っているのは、そのうちの一つを使っているからです」
「なるほど。しかし、この惑星の静止軌道がどのくらいか知らないけど、かなり遠いだろ? そんな遠くからの
「ですから、シャトルの近くと言ったのです。ドローンのアンテナでは、静止軌道からの
そういう裏ワザを使っていたのか。
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