4-20. おなかがすく小説4選
食欲の秋、読書の秋。文字による飯テロは、時として鮮明な写真より破壊力が高いことがあります。どうしてでしょうね。自分が想像出来る最大限の「美味しそうなもの」を思い描いてしまうせいでしょうか。
目の前にあるのは文字だけのはずなのに、おなかがぐうと鳴りそうになるお話。それはお料理小説でなくても存在します。 今回は、ジャンル問わず私がおなかがすいた小説をご紹介します。
なお、概要は全て各出版社の公式ページより引用しています。
● 台所のおと
幸田 文 著、講談社
―― 概要 ――
台所からきこえてくる音に病床から耳を澄ますうち、料理人の佐吉は妻のたてる音が変わったことに気付く。日々の暮らしを充たす音を介して通じ合う夫婦の様を描く
――――――
まずは、小さな料亭を営む料理人とその妻が登場する小説を。
料理中の「音」に着目した物語で、長々としたシズル感のある食レポ描写は無い。しかし、料理をする音を通して表現される、丁寧に作られるひとつひとつの献立は美味しそうで仕方ない。ほうれん草、胡桃どうふ、くわいのから揚げ……。私は日本生まれ日本育ちなので、やっぱり和食には弱い。
幸田文作品については、こちらのエッセイでも扱っている。彼女の語り口の軽やかさ、静かさは本当に好きだ。
4-11.シニア本はいいぞ【読書感想文詰め合わせ】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892430828/episodes/16816927862911471767
● 狩場の悲劇
チェーホフ 著/原卓也 訳、中央公論新社
―― 概要 ――
殺人事件をめぐる小説原稿に隠された秘密と、読み終えてなお解け残る謎。近代ロシア文学を代表する作家が残した恐るべき大トリック。
――――――
ロシアの貴族はすぐに魚卵を食べる。
ピクニックに行けばキャビア、何かとつけてサーモンといくら。そりゃそうだ、地域的によく採れるものを食べるのは当たり前のことだ。それにしてもずるい。すぐ食べる。
物語は殺人事件についての内容なので、食事のシーンも心温まる描写はされていないのだけど、魚卵好き・海鮮好きにはたまらない食べ物がたくさん出て来るのがロシア文学なのか……と思い知った一冊。
● 16品の殺人メニュー
アイザック・アシモフ 編/東 理夫 訳、新潮社
―― 概要 ――
ママ特製チキン・スープ、自宅の庭に生える珍しい茸のシチュー、自家菜園でとれた野菜サラダ、愛情のこもったラム・レッグのロースト、もちろん年代物のワイン…。みんなおいしくて、完璧な凶器です。ひと味足りないから塩を取ってほしい?それはとても危険!なぜって塩も立派な凶器ですから。名シェフのアシモフが、16品のフルコースの献立にちなんで殺人事件を集めました。
――――――
料理が凶器になる短編を、スープから始まりデザートまで順番に並べた短編集。もちろんどれもこれも美味しそう、そして凶器……。どのメニューも、食べてくれと言わんばかりに手招きしてくる魅力的な物ばかり。凶器なんだろうなと怯えながらも食べたくなってしまうのは、人間の業なんだろうか。
● 千個の青
チョン・ソンラン 著/カン・バンファ 訳、早川書房
―― 概要 ――
故障のため安楽死の危機に瀕した競走馬“トゥデイ”と、下半身が 壊れたまま廃棄が決まったヒューマノイド騎手“コリー”。社会の 片隅で懸命に生きるさまざまな弱者たちに支援され、もう一度レー スの表舞台に戻ってきた彼らの挑戦が、人々の心に奇跡を起こす!
――――――
映画でもそうだが、アジアの作品にはとにかく食事シーンが多い。そして、どれもこれもおいしそうだ。本作は韓国SFで、料理屋が舞台になるシーンもあり家族が集まることもあるので、やはり食卓を囲む姿をよく見かける。
アジア作品の食事はもうおなかがすいてすいて仕方ない。国は違えど、私がアジア人だからだろうか。味が想像出来るからだろうか。トッポキ、海苔巻き、浅漬けキムチ、鶏二羽分のフライドチキン……。ただのカップラーメンにさえ、おいしそうだな……と思いを馳せてしまう。
私は個人的に、写真よりも小説の方が飯テロに合う率が高い気がします。写真ではどうしても撮影者の視点が入ってしまいますが、小説の場合は脳に直接おいしいものの表現が語り掛けて来るからかもしれません。 食欲の秋、読書の秋。それを一度に叶えられるおなかがすく小説、せっかくの秋に色々と探してみると楽しそうですね。
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