5.括るほどでもない小話
5-1.登場人物の香り 〜レモンの葉っぱを千切ったような
映像作品でも、小説でも、直接できない表現。それが、「香り」だ。
私自身は、ここ数年香水が好きで、香りだけでなくその香りのコンセプトなんかも楽しんでいるのだけれど。とにかく、香りというのは目に見えないし触れるものでもなく、人によって受け取り方が変わるので、表現するのが難しい。
多分、自作品でなくても、自分の好きな小説の登場人物がどんな香りをつけているのかな、と想像するのが好きな人もいるだろう。
また、物語によっては、具体的にどのメゾンのなんという香水をつけているか、なんて記載もある。有名どころで言うと、007の小説にはメゾンの名前が登場する。
こういうことに鑑みると、なんやかんやで、物語と香りというのは切っても切れないものなのかもしれない。
さて。とは言え私は、自作品の中でほとんど、「登場人物から香りがする」という表現をしてこなかった。物語の中で、香りの表現に意味を持たせることができなかったからだ。
でも、少し前に書いたものの中で、明確に「香りがする登場人物」が出てくる物語がある。
それが、こちら。
「ティーンズ・イン・ザ・ボックス」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896730865
近未来のハイスクールに通う女の子と、「顔のない少年」の物語だ。この、顔のない少年から、「レモンの葉っぱを千切ったような」香りがする。一応、なぜ彼がこの香りを好きなのか、(物語上で説明はないけれど)理由はある。それは、読んでみるとなんとなく察することができるものなので、ここでは置いておくことにして……。
この香りには、実はイメージしている実在の香りがある。香りの表現に重きを置く場所ではなかったので、物語には「レモンの葉っぱを千切ったような」としか書かなかったけれど、これはセルジュ・ルタンスのフルールドゥシトロニエという香りだ。
柑橘系でありながら、安っぽさやえぐみが無く、純粋なレモンの香りと言うには意味ありげで、少し切なさを覚える香りだ。
この香りを、パーティーやイベントの場面でだけ使う、顔のない少年。一方、主人公の女の子は化粧っけがなく地味で、グミが好物で大人しい子だ。この組み合わせは、香りの面でもなんとなくちぐはぐで、個人的にはとても気に入っている。
余談だが、私は一時期、実在する香りから連想した短編をまとめた「香りの先」という短編集を書いていた。(現在は非公開)
この中の一つの物語で表現したのが、まさにこのフルールドゥシトロニエ。(2つの物語につながりはない。)
短編で表現した寂しさと美しさは、顔のない少年のことではないにしても、なんとなく似ているところがある様な気がしてならない。
小説を書く人が、香りについて全力で表現したらどうなるんだろう。そんなことを、ふと思ったりする。
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