第10話

 


 


結局、ホンニャンは魔王城に帰ってくれなかった。


プーちゃんとパールバティー様に会うと言って聞かないのだ。


「・・・タイチャン説得してよね。」


「もちろん!説得するわ!ありがとう!マユ!!」


結局私が折れるしかなかった。


ホンニャンは私が折れるとぱぁあああっと表情が明るんだ。どうやらそうとう嬉しいらしい。


後で、タイチャンの大目玉が待っているんだけどな。ホンニャンにも私にも。


「ホンニャン様はどこか行きたいところがあるのですか?」


私とホンニャンの話に決着がついたからか、マコトさんが確認するようにホンニャンに尋ねる。


すると、ホンニャンはこくりと頷いた。


「ええ。パパに会いに行くの。」


「パパ・・・?魔王城にいるのではないんですか?」


マコトさんはホンニャンの言う「パパ」という言葉に首を傾げた。


「ホンニャンの父親はプーちゃんなのよ。」


私はマコトさんにそう説明をする。


すると、マコトさんは思い出したのか、ポンと手を叩いた。


「ああ。そうでした。すっかり忘れていました。そうでした。そうでした。プーちゃんも父親だったんですね。あはは。貴重な素材が取れるとしか認識していませんでしたよ。」


どうやらプーちゃんのことを忘れていたようだ。


というか、プーちゃんは貴重な素材としか思われていないような気がする。っていうか、マコトさん、プーちゃんを素材と認識してる発言しているし。


「ね?マコトはパパがどこにいるか知っているの?マユはわからないって言うのよ。」


ホンニャンは期待に満ちた目でマコトさんに問いかける。


だが、マコトさんはポリポリと頬を掻くだけだ。


「僕にもわかりませんねぇ。」


まあ、元々プーちゃんとそんなに仲が良いわけでもなかったしね。マコトさんが知る由もないだろう。あまり期待していなかったから想定通りの答えだ。


「・・・そっか。パパどこにいるんだろう。」


ホンニャンはマコトさんの言葉を聞いてシュンと落ち込んでしまう。


「女王様なら何か知っていませんかね?」


「女王様に事前に連絡せずに会えると思っています?」


もしかしたらプーちゃんに執心していた女王様ならば、プーちゃんの居場所を知っているかもしれない。そう思って呟くと、即座にマコトさんの突っ込みが返って来た。


なんだか、マコトさん随分と冷たくなったような気がする・・・。やっぱり15年も連絡を取らずにいた所為だろうか。


「・・・ホンニャンが来ているって連絡したら飛んでくるんじゃないかな。たぶん。他の予定すっ飛ばして来ると思う。」


「・・・仮にも一国の女王ですよ?そんな私情を優先するでしょうか・・・?」


マコトさんは懐疑的な目で私を見てくる。


いや、でも。あの女王様だよ。ホンニャンがここにいると言ったら絶対飛んでくるでしょ。


「ホンニャーーーーーンっ!!!!」


マコトさんに女王様のことを説明していたら、急にマコトさんの工房のドアが乱暴に開け放たれた。そうして、誰かがホンニャンの名前を叫びながら部屋に駆け込んでくる。


「ああ・・・。ほら、来ちゃったじゃない。」


  


 


「ホンニャーーーーーンっ!!ホンニャーーーーーンっ!!!」


ホンニャンを呼ぶ声は徐々にこちらに近づいてくる。


「ああ、やっぱりきちゃったか。」


多分彼女がやってくるのではないかと思っていたが、本当に来てしまった。


しかし、つい先ほどマコトさんの転移魔法で王都に来たというのに、どうしてもうホンニャンがここにいることを知っているのだろうか。


「え?え?ええっ??女王様っ!?」


「ああっ!ホンニャン!!可愛いホンニャン!!会いたかったわ。」


マコトさんは突如現れた女性に驚きを隠せない。


だって、その女性は女王様だったから。


あれほど、マコトさんは女王様に連絡をしても来るはずがないと言っていたのにもかかわらず、あっさりと女王様が飛んできてしまったからだ。


「おねえさまっ!!!」


しかも、ホンニャンは女王様に会えて嬉しそうに顔を綻ばせている。


思えば、ホンニャンと女王様は姉妹なのにも関わらず何年も会っていなかったからなぁ。それに、女王様はホンニャンのことをとても可愛がっていたし。


ひしっと女王様はホンニャンを抱きしめている。きっと、もう二度と離さないと思っているんじゃないだろうかと思わず邪推してしまう。


それほどまでに女王様の表情が必死に見えた。


「ああ。ホンニャン。ホンニャン。ホンニャン。今日からずっと王宮で暮らしましょうね。何不自由なく暮らせますからね。」


「んー。おねえさまと一緒にいたいですけど、魔王城に帰らないとタイチャンに怒られてしまいます。だから、もうしばらくはここにいますが、時が来れば魔王城に戻ります。」


女王様はすりすりとホンニャンの頭に頬ずりをしながら、ずっと一緒にいようと訴えかけているが、その懇願をあっさりとホンニャンは切り捨てた。


「・・・タイチャン?」


「はい。タイチャンが心配しますので。」


ゆらりと女王様はホンニャンから離れる。そうして、ホンニャンの肩を優しく掴むと、ホンニャンに尋ねた。


ホンニャンは女王様ににっこりと笑って返事をする。どうやらホンニャンは久しぶりに女王様と会えて嬉しくて笑顔をずっと女王様に向けている。だが、女王様はホンニャンに断られたことが意外なようで、表情がなくなってしまっている。


って、ホンニャン。タイチャンが心配しているから帰るんだったら、もう帰ろうよ。きっと、タイチャンもここを嗅ぎつけてきてしまいそうなんだけど。


女王様とタイチャンが顔を合わせたらマコトさんの家なんて吹き飛ばされそうだ。


「なぜ、タイチャンとやらを気にするのだ?もしかして・・・。ホンニャンの・・・。」


女王様は愕然とした表情を浮かべている。まるで、娘に初めての彼氏ができたことを悔しがっている父親のようだ。


「はい。私の大切な魔族(部下)ですわ。彼がいなければ私は(未熟で魔族たちをまとめることも魔族たちを導いていくことも)何もできません。」


「はっ!?なんですって!!ホンニャンに会わないうちに・・・。そ、そんな・・・。」


女王様はホンニャンの言葉をどうやら違うように解釈したようだ。


確かに聞きようによっては、ホンニャンがタイチャンに好意を寄せているように聞こえる。まあ、私はホンニャンとタイチャンのやり取りを間近で見ているから誤解のしようはないんだけど。


ホンニャンのあの言い方だと女王様が勘違いしてしまいそうだ。


 


 


 


 




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