第34話
男の子はギュッと目を瞑るとコーラ味の化粧水を一口飲みこんだ。
ゴクリと男の子の喉が鳴る。
その様子をドキドキとしながら見つめる私。
男の子はコーラ味の化粧水を一口飲みこむと、目をまん丸に見開いた。
「・・・なに、コレ。」
呆然と男の子が呟く。
そうして、目をパチパチと何度も瞬かせた。
「えっと、全部飲んじゃってね。じゃないと効果が薄くなっちゃうから。」
一口飲んだだけで呆然とした表情を浮かべて立ち尽くしてしまっている男の子に声をかける。
一口だけでも効果はあることにはあるが、どうしても効果が薄くなってしまう。
そのため、マーニャたちが何を言っているかわからない場合が出てくるのだ。
容量は決められた分を飲まなければならない。
まあ、飲み過ぎるとどうなるかというのは・・・怖くて検証していないんだけどね。
ただ単に効果が長続きするだけならいいんだけれども・・・。
体調を崩しちゃったりしたらいやないもんね。
うん。決められた容量はきっちり守らないとね。
「こ・・・これは・・・。んぐんぐ・・・くーーーーーーーっ!!ぷふぁぁあああああああ!!!」
私が全部飲むように促すと男の子は一瞬表情を固まらせたが、次の瞬間勢いよくコーラ味の化粧水を飲み込み始めた。
そうして、どこぞの酔っ払いかと思うような満足気な雄叫びをあげて恍惚とした表情でこちらを見てきた。
その頭には黒くふさふさとした猫耳がピコピコと揺れている。
あ、やばいかも。
この子にコーラ味の化粧水なんて渡したらいけなかったのかも。
思わずそんな言葉が頭の中をめぐる。
「お姉さん・・・。いえ、お姉さま。ううん。女神様・・・。これ、もっとください。お願いします。」
「・・・・・・・・・。」
どうしよう。逃げてもいいかな?
男の子はコーラ味の化粧水に感激したのか、うるうると潤む目で私をジッと見つめてきた。
その上、私の呼び名がグレードアップしている。
なに、女神様って。
っていうか、こんな美少年のお姉さまって呼ばれるのってなんだかとっても嬉しいかも・・・。
いいかも「お姉さま」って響き。
いいかも・・・じゅるりっ。
あ、いけない。
よだれが・・・。
思わず口の端から零れ落ちそうになったよだれを手で拭う。
あまりの衝撃に理性を手放しそうになったかもしんない。
いや。まだ手放していないから大丈夫。
そう。大丈夫。
私はまだ犯罪者じゃない。
未成年に手を出すよな犯罪者じゃないから。うん。
「あー、それよりマーニャ達の声がわかるようになったかな?」
うん。ここは意識的に話題をそらせよう。
危ないから。
主に私の理性が。
「女神様・・・僕に化粧水を・・・もっと化粧水を・・・。」
だめだこりゃ。
私の話を聞いていないぞ。
そもそもマーニャたちと会話をしたいということだったから化粧水を渡したのに、どうしてマーニャたちとウキウキわくわくと会話をするのではなくて、化粧水をもっと欲しいと強請ってくるのだろうか。
それに、私のこと女神様って呼ぶし。
できれば、お姉さまの方がよかったな。うん。
「あー、もう一つ化粧水あげたでしょ?」
「はい。女神様。でも、この化粧水は色がちょっと違います。飲んでも大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫よ。だから、早く飲んじゃってちょうだい。」
ここは、もう一つのコーヒー味の化粧水を飲んでもらって、苦さで目を覚ましてもらおうか。
そう思って、もう一つの化粧水を飲むように勧める。
男の子は少しだけ迷いながらも、化粧水を一気に飲み干した。
「・・・っ!!!?ぶはっ!!」
そうして思いっきり吐き出した。
うん。苦かったんだろうな。
お子様にはちょっと辛かったかな。
でも、あれ以上あのウルウルとした瞳で見つめられたら私の理性が危なかったんだもん。
これも男の子のためだと思って許してください。
「悪魔っ!!女神の皮を被った悪魔めっ!!僕が成敗してみせるっ!!」
うわー。
おしりから真っ黒なふさふさした猫の尻尾を生やした男の子がこちらを睨んでくる。
でもね、その耳と尻尾が可愛すぎてぜんっぜん怖くないんだよ。ごめんね。
っていうか、いつの間にか女神さまから悪魔に呼び名が変わってるし。
そんなに衝撃的だったのか・・・?
コーヒー味の化粧水は・・・。
「くふっ・・・くははははははははっ!!!面白いぞ!!面白い!!実に面白い!!」
いなくなってしまったのではないかというくらいに、存在感を消していたお婆ちゃんが男の子の変わりように声をあげて笑っている。
って、笑い方がなんだか怖い。
まるでどこぞの魔王のような笑い方だ。
まあ、魔王に会ったことないけど。
魔王が笑っているように思っちゃったんだよね。なぜか。
「お主、面白いのじゃ。どうだ、ワシの元に来ないか?」
「へ?いえいえいえ、私は今人探し中ですので。」
なぜ面白いからってお婆ちゃんのところに行かなければならないのだろうか。
私より面白い人もっといっぱいいるし。
っていうか、今のはこの男の子のリアクションが面白かっただけで、私はなんもしていない。
だから、お婆ちゃんのところには男の子がいれば問題ないはずだ。
「探し人くらい、ワシが探してやろう。ワシはお主が欲しいのだ。ともに来るがいい。」
「へ??いえ、結構です。それよりお孫さんを連れて帰ってください。必死にこちらを睨んできていますので。」
「ふんっ。あやつなど孫でもなんでもないわ。」
「えっ!!?まおーさま!!僕、解雇!?解雇ですか!?」
「解雇!!お婆ちゃん!!こんな小さな子を雇ってたんですかっ!!?ダメですよ。こんな小さな男の子は遊ぶのが仕事です。」
「はあ!?なんだよ悪魔めっ!僕は小さくないっ!!まだまだ身長は伸びるはずなんだ!!ちんちくりんのチビだなんていうなっ!!」
「身長がまだまだこれから伸びるってことは、まだまだ子供でしょ!!まだ仕事なんて早いわ。まあ、仕事をするのは偉いけど。子供のうちはしっかりと遊びなさい。大人になってからじゃ好き勝手に遊べなくなるんだから。」
「はあ!?僕は子供なんかじゃないしっ!!」
「身長がこれから伸びるんでしょ?大人は身長は伸びないわよ。」
「僕は大人だ!!だから身長はもう伸びないんだっ!!」
「わはははははははっ!!ライチャンがここまで翻弄されるとは!!実に面白い。人間よ、お主の名前を教えてくれぬか?」
どうやら男の子の名前はライチャンというらしい。
ライが名前でちゃんが敬称かな?
それともライチャンという名前なのだろうか。
まあ、そんな細かいことは今は置いておこう。
それよりお婆ちゃんの態度がいきなり尊大になっていることの方が気になる。
さっきまでちょっとボケちゃったお婆ちゃんって感じだったのに。
なに、コレ。
なにがどうなっているのだろうか。
ああ、それにしても目の端に映るライチャンが可愛い。
猫耳と尻尾がこれほど似合う子に初めてあったかも。
写真撮りたい。
この目に焼き付けておきたい。
って!!やばい。ズレた。
今はお婆ちゃんのことが優先事項だ。
「マユと言います。」
「ふむ。マユか。マユか。して、お主の名前を教えてくれぬか?」
「・・・えっ?」
私の声はお婆ちゃんに聞こえなかったのだろうか。
そう思って先ほどより大きな声で名乗る。
「マユと言います!」
「うむ。お主の名前確かに覚えたぞ。しかし、面白いな人間よ。お主の名前を教えてくれぬか?」
ちょっとまて!!
今、覚えたって言ったよね!?
私の名前覚えたっていったよね!!
どうしてまだ名前を聞いてくるの!?
「マ・ユ・です!!」
先ほどより大きな声でおばあちゃんに名乗る。
いや、でも聞こえているようだから大きな声じゃなくてもいいのか。
「うむうむ。マユと言うのだな。実に面白い人間だ。名前を聞いてやろう。さあ、ワシにお主の名前を教えるがいい。」
・・・もう、ヤダ。
ここから逃げてもいいですか?
お婆ちゃんにはライチャンがいるからお婆ちゃんボケちゃってるみたいだけど、無事に帰れるよね?
私、もうここから離れてもいいよね?
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