第24話


「私を・・・助けに・・・来た・・・だと?」


魔物と呼ばれるようになってしまった異世界からの迷い人は喉をひきつらせながら声をだした。


きっと、長年しゃべることをしていなかったのだろう。


言葉がたどたどしい感じを受ける。


『そうだ。助けに来たのだ。』


「私を・・・殺し・・・に、来た・・・違うのか?」


虚ろな目がプーちゃんを見つめる。


『死にたいのか?』


「死ぬ・・・嫌だ。私は・・・だが・・・。」


不老不死と言えどもずっと日の光を浴びていないからなのか、衰弱をしているようだ。


まともに動くこともできないようで、座り込んでいる。


「あの・・・いつからここにいるんですか?」


「いつ・・・?わからない・・・。」


「食事は運んできてくれるんですか?」


「食事・・・?どのくらい・・・食べていないのか・・・わからない。覚えてない。」


この人はここに閉じ込められてから食事も与えてもらえなかったというのだろうか。


それでも生きているとはやはり不老不死というのは本当なのだろう。


『まあ、いい。ここから出るのだ。』


「それは・・・ダメだ。」


『どうしてなのだ?』


男はプーちゃんの言葉を力なく拒否した。


「私は・・・ここに・・・いなければ。」


『なぜなのだ?』


「私は・・・ここに・・・いなければ。」


『だから、なぜなのだ。』


「・・・私は・・・ここに・・・。」


思考力も落ちているのか、男は同じことを繰り返した。


そうしているうちに、意識が遠退いていったのかがっくりと頭を落とした。


「・・・死んだの?」


まるで生気を感じない。


骨と皮ばかりの男を見て、ふいにそんな言葉がでてきた。


『・・・生きておる。見ておれ。復活するぞ。』


「え?ええっ!!?」


プーちゃんがそう言った途端、男の頬に赤みが差した。


そうして、肉付きもよくなっていく。


まるでなにも食べていない人とは思えないほどだ。


『異世界からの迷い人は、死なぬのだ。死の直前に復活をする。ゆえにこの者はここで死ぬほどの苦痛をずっと受けていたのだろうな。気の遠くなるほど、ずっと。』


「そんな・・・。」


プーちゃんが語った内容は衝撃的だった。


異世界からの迷い人は不老不死、だから死なない。


だけれども、復活するのは死の直前。


それまで受けた苦痛は残り続ける。


『・・・精神は治せぬ。治るのは身体の傷のみなのだ。』


「それは・・・つまり・・・。」


『うむ。この者も精神んを病んでいるであろう。だから、我の問いかけにも答えられぬ。』


プーちゃんはいつもより神妙にそう告げた。


復活していく男を見ながら、熱いものがこぼれ落ちた。


『泣くでない。マユが泣くと我も悲しいのだ。』


プーちゃんが狼狽えながら私のまわりをぐるぐると回る。


「プーちゃん・・・。この人を救うにはどうしたらいいの?」


私は浮かんできた疑問を口に出した。


この人を自由にしてしまったら、血のせいで過ちを犯すことがあるかもしれない。


ただ、それはあくまでも仮定の話。


過ちをおかさない可能性もある。


それは五分五分。


だけれども精神を病んでいるとしたらどうなのだろうか。


非常に危うい可能性を秘めている。


だから、女王様は私たちを遣わしたのだろうか。


『マユはどうしたいのだ?』


「私・・・?私は・・・。」


私はどうしたいのか。


どうすべきなのか。


プーちゃんに問いかけられて自分自信にもう一度問いかける。


「彼の意見を聞きたい。彼が何を望んでいるのか。同じ、異世界からの迷い人として。彼の気持ちを知りたい。」


『そうか。ならば、話してみるといいのだ。明確な答えが返ってくるかはわからぬがな。ただ、復活したばかりなのだ。先程よりは意識がはっきりとしているだろう。』


「うん。」


私はプーちゃんに頷いて見せて、男の方を見る。


男の肉体はふっかつして健康的に見えたが、目だけは死んでいるように見えた。


まるで光がないのだ。


虚ろな暗い目をしていた。


「あの・・・あなたはここから自由になりたくないの?」


私は意を決して男に話しかけた。


男には私の声が届いたのか項垂れていた顔をあげ、こちらを見てきた。


虚ろな目が私を見つめる。


その恐怖に背筋がゾクッと震えた。


「私は・・・もう・・・死にたい。辛い・・・苦しい・・・。もう・・・嫌だ・・・。」


「でも!ここから出ればもう辛いことも苦しいこともなくなるはずよ。」


そう。


こんな暗くてじめっとした地下牢にいるから辛いのであって、自由な外に出ればきっと辛くも苦しくもない世界が待っているだろう。


そう男に告げるが男は弱々しく首を振った。


「私は・・・罪を・・・犯した。愛していた・・・女を・・・苦しめてしまった。私には・・・愛しかたが・・・わからなかったのだ。愛した人の・・・心さえわからなかった・・・。」


「一度の過ちくらい誠心誠意謝って許してもらえばいいだけのことよ。そんなことで死を望まないで。」


男は苦し気に顔を歪める。


とても愛していた人のことを思い出したのだろうか。


そうして、その人にしてしまった過ちを思い出したのだろう。


「許してくれるはずなど・・・ない。」


「許してくれるわよ!」


「私はあいつの好きなやつを殺そうとした。あいつの手で殺させようとした。そんなことをした私が許されるはずはない。」


「許してもらえないなんて言わないで。それで死を選ぶのは逃げることと同じことよ。その人にたいして、その人が幸せになれるように尽くしてみなさいよ!!」


いつまでもグダグダとしている姿をみるとどうしても渇をいれたくなってしまう。

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