第117話

 


周囲を見回し、状況を確認する。


周りに人がいないことを確認して、マコトさんに尋ねる。


「これって、もう皇帝陛下から言われていること達成でいいですよね?ちょっと虫がいなかったり近くに水場がなかったりで、今後が心配だけど・・・。」


「そうですね。聞いていた話だと植物が育たないって話でしたし。ただ、この状況は今後の展望が全くないように見受けられます。ここは、僕の魔道具を使用しなければっ!!」


ああ・・・。そっか、マコトさんまでここに来てから魔道具ぜんっぜん使ってないもんね。


でも、どんな魔道具を使う気なんだろう。


ここの土地に足りないのは水場と虫、それに温度くらいだろうか。


このどれを解決させようと言うのだろうか。


「ふふふっ。まずは、簡単な水場の作成からですね。いい魔道具があるんですよ。水脈さえ見つけられれば、水が湧き出るようになる魔道具です。王都だと水脈を見つけようにも、この魔道具を設置できるだけのスペースの確保ができませんでしたからね。」


そう言って、マコトさんはカバンから人一人が寝れるくらいの大きな丸い輪っかを取り出した。


直径150㎝くらいであり、高さは1mくらいの魔道具だ。


これはいったい何に使うんだろうか。


「あちらの世界で言う井戸です。マユさん知っていますか?」


「井戸・・・。ああ、昔見たことがあります。最近は見かけませんよね。」


井戸かぁ。井戸なら水脈さえ見つけられて、穴を掘っていけば水が出てくるだろう。


「懐かしいでしょう。さて、じゃあ水脈をまずは見つけなければなりませんね。」


そう言って、マコトさんは得意そうに二本の細長い棒を取り出した。


L字になっている細長い棒。なんだかどこかで見たような気がする。


二本のL字の棒を片手ずつに持ったマコトさんは、そっと両手を前に突き出した。そうして、目を瞑る。


すると、マコトさんが手に持った二本の棒はグルグルとその場で高速に回り始めた。


・・・。


・・・・・・。


・・・・・・・・・。


いつまでも高速で回り続けるマコトさんが手に持つ二本の棒。


「・・・マコトさん、いつまで続けるんですか?」


いい加減に時間ばかりが過ぎていく。


もうかれこれ30分ほどはこの状態だ。


「・・・水脈が見つかりません。」


「・・・へ?」


「まさか・・・。僕の魔道具が壊れているはずはない。失敗作なはずはない。でも、水脈が全く見つからない土地なんてあり得ない・・・。まさか、僕の魔道具が?そんな馬鹿な。そんなはずはない・・・。ぶつぶつ。」


どうやら、マコトさんの魔道具では水脈が見つからなかったようだ。


自信作の魔道具で水脈が見つからなかったことにショックを受けているのか、マコトさんは何やら小声でぶつぶつ言いだした。何を言っているのかはよく聞き取れない。


水が見つからないことには、井戸が設置できない。


どうしたものかと、思わず宙を見る。


「水・・・水、水・・・水・・・。って!!ああ!!」


水と言えば、スーちゃんは水の精霊だった。


もしかして、スーちゃんなら水脈がどこにあるかわかるかもしれない。


そう思って、早速スーちゃんを呼び出すことにした。


「スーちゃん!ちょっと教えてほしいことがあるの。」


『・・・なぁに?』


寝ぼけ眼のスーちゃんがスゥっと姿を現す。


スーちゃんってばいつ見ても眠そうだ。


「この辺に水脈ってあるかわかる?」


『・・・水脈?ないよ。』


目をゴシゴシと手でこすりながら、スーちゃんが無常な一言を放った。


「僕の魔道具は失敗作なんかじゃなかったんだっ!!流石は僕だっ!僕に失敗作なんてあり得ないんだっ!!」


ただ、スーちゃんの言葉でマコトさんは復活してしまった。


いいのか、悪いのか。


水脈がないってことは井戸が設置できないという訳で、この土地で水が安定して確保できないということになる。それはつまり、野菜を育てるのに必要不可欠な水が確保できないということになり、結果うまく野菜が育たないことになる。


雨が定期的に降ってくれればいいけれども・・・。


状況はあまり芳しくないようである。


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る