第40話
辺りには一株しかなかったはずのヌメリン草の群生が広がっていた。
って、ちょっと待て。かなり可笑しいんだけど。
さっきヌメリン草を見てから山の湧き水を汲んでくるまでに2時間程度しか経っていない。
それなのに、こんなにヌメリン草が繁殖することってあるの!?
あきらかに成長速度おかしいよね?
おかしいでしょ!?
誰かおかしいと言って!!
プーちゃんを見ると、プーちゃんはヌメリン草の良い香りにうっとりと目を細めている。どうやらご満悦のようだ。
プーちゃんからつっこみを受けることはないと確信する。
「・・・はぁ。」
誰かとこのあきらかにおかしい現象を共有したいのに、プーちゃんしかいないから共有できない。もどかしい。
「へ?」
念のため一番近くにあるヌメリン草を鑑定してみる。
実はヌメリン草ではなくって別の草だったりしないかなぁって思って。
プーちゃんの話だと絶滅危惧種って言ってたし。絶滅危惧種がこんなに簡単に繁殖するわけないし。
で、鑑定結果を見て愕然としてしまった。
だって、レア度がレベル1に下がっているんだもの。
「レア度が下がってる・・・。」
『おお!ほんとうだ!!』
思わず呟いてしまえば、私の呟きを拾ったプーちゃんが弾んだ声をあげた。
なぜレア度が下がって嬉しそうなんだろう。プーちゃんは。
普通、レア度が下がったら残念に思うだろう。
っというか数時間でレア度が下がるってどういうこと!?
『これは各地で一気に繁殖したのだな。うむうむ。』
「各地で!?いったい、ヌメリン草になにがあったの!?」
プーちゃん曰く、各地でヌメリン草が大繁殖したらしい。
『マユがヌメリン草に魔力を込めたからであろう?ささ、早く森の湧き水をかけてあげるがいい。』
「私!?私のせいなの!!」
魔力なんて込めた覚えはないんだけど!
はっ・・・。もしかして、ヌメリン草を触って声をかけたときに一瞬光ったのって魔力だったの!?
また私知らない間に魔力使ってた!?
ま、まあ。やってしまったことは仕方がない。
でも、大繁殖したってことは採取しても大丈夫なのかな?
まあ、取りあえず森の湧き水を与えてみようかな。
そこ!現実逃避って言わないでね!!
「今度は絶滅危惧種にならないようにねぇ~。」
なぁんて言いながら森の湧き水をヌメリン草の群生にかけていく。
プーちゃんも同じように自分で汲んだ森の湧き水を雨を降らせるがごとくヌメリン草の群生にむかって盛大にかけていた。
心なしか、ヌメリン草が嬉しそうに揺れているように見える。
森の湧き水をを浴びたヌメリン草の葉が水を弾いてキラキラと光っている。
「綺麗~。」
『うむ。綺麗なのだ。マユ、適度に採取してもよいぞ。もう絶滅はしなそうだしな。』
「うん!ごめんね、ちょっと痛いかもしれないけど葉っぱを採取させてね。」
『いいよ~♪でも、葉っぱは一株につき2枚は残してね。あと、根っこは抜かないでね。』
「わかった。じゃあ、もらうね。」
『どうぞ~♪』
ヌメリン草から色よい返事を貰ったので、一株に葉っぱが2枚は残るように採取していく。
と言っても、いっぱいヌメリン草があるので、かなりの量になっていった。
乳液にどのくらいの量を使うのかはわからないけれど、これだけあれば足りるだろう。
「いっぱいもらっちゃった。ありがとう。」
そう言ってヌメリン草にお礼を言うと
『どういたしまして~。また来てね~。』
と返事が返って来た。
・・・・・・・・・・。
ん?
返事が・・・返って来た?
あれ?
そう言えばさっきから誰かと会話をしていたような気が・・・。
「・・・!!ヌメリン草がしゃべった!?」
『ほほう。ヌメリン草と会話ができるとは面白いのぉ。初めて知ったのだ。』
あ、あれ?
これってもしかして、もしかしなくとも・・・。
『マユの所為であろうな。』
「・・・やっぱし。」
ガクッと項垂れる私であった。
ちなみにプーちゃんに言われてもう一度ヌメリン草を鑑定してみてたらというので鑑定してみて愕然とした。
だって
【一株につき葉を2枚残さずに採取した人は二度とヌメリン草を採取できない。】
なんて、事柄が説明に追加されているんだもの。
これは、もう人の手でヌメリン草を絶滅させるなんて到底不可能なようです。
どうやら森の湧き水をヌメリン草にかけることによって、ヌメリン草は進化したようです。
私の所為ではありません。
うん。私の所為ではありません。
大事なことなので二回言っておきます。
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