第83話


宿の従業員から教えてもらった工房の位置はなんと・・・宿の目の前でした。

と言っても入り口がお店になっていて魔道具を売っているらしい。そのお店の中から工房に行けるとか。

道案内不要なうえ、まさかの宿の目の前でした。って、もしかしてザックさんマコトさんの居場所を知っていたからこの宿をお勧めしたのかな?

ああ、そうだよね。

今にして思えば、マコトさんキャティーニャ村に転移してきてからしばらく村長さんの家で暮らしていたっていうし、同じ村に住んでいるザックさんが王都に時々仕入れに出掛けるってことは、村長さんからマコトさんの様子を確認したりとか手紙のやりとりがあったって不思議じゃない。

・・・って!ザックさんなんで教えてくれなかったんですかっ!!って叫びたい。


憮然としながらも、宿の目の前の魔道具屋に向かう。

まあ、正面なんだけど、人通りが多いから道を突っ切るのが大変だ。

久しぶりにこんな人混みの中をつっきるよ。東京だとそれも日常茶飯事だったから、こんな時の身のかわし方も身体がなんとなく覚えていた。

特に誰かにぶつかることもなく、魔道具屋の前にたどり着くことができた。


「ここに・・・マコトさんが。」


魔道具屋さんの正面玄関に佇み、中を感慨深く凝視する私。

この魔道具屋さんも高級感溢れる佇まいをしている。それに、なんだかとても日本らしい建物をしているのだ。

見た目は時代劇とかでみたことのある大店のような作りをしている。

純和風ですっ!って感じを全面に出している作りだ。

周りの他のお店が洋風な建物ばかりだから、余計に浮いてしまっている。


「た、たのもーーーっ!!」


思わず、そう言ってしまった。

中から私のことに気づいたのか中年の品がいいおばさんが出てきた。


「うちになにか用かしら?」


「あ、あの・・・。私、キャティーニャ村から来たマユともうします。こちらにマコトさんがいらっしゃると伺って・・・。マコトさんに会いたいんですが。」


そう告げるとおばさんは眉をしかめた。


「マコトという職人はおりますが・・・。お会いできるかどうかは・・・。」


ありゃ。

どうやらマコトさんはいることにはいるようだが、会うことは難しいらしい。

なにか、理由があるんだろうか。


「お仕事中ですよね。すみません。お仕事が終わったあとにでも少しお話をさせていただきたいんですが・・・。」


「申し訳ありませんが。マコトに聞いてみないとお答えできません。ただ・・・マコトは一度魔道具の製作に入ってしまうと完成するまで作業に没頭してしまいますので、回答までにもしばらくお時間がかかるかと思います。」


「そうでしたか。そちらの都合も考えず申し訳ありませんでした。あの・・・では、もし時間が取れたらお会いできるか教えていただけませんか?向かいの宿屋に泊まっておりますので・・・。」


女性は丁寧に謝ってくれた。

そうだよね。職人さんだから、仕事を邪魔されるのは嫌がられるよね。

私も配慮が足りなかったなぁ。

とりあえずしばらく泊まる予定の宿を教えて、連絡をもらえるようにお願いする。

ただ、それだけだと本当に会ってもらえるかわからないから、メロンソーダ味の化粧水を女性に手渡した。


「これ、よかったらどうぞ。飲める化粧水なんです。」


「えっ!?こ、これは・・・!!」


女性の目が急に輝きだした。

ん?

化粧水が喉から手が出るほど欲しかった・・・とか?

いやいやいや、でも飲める化粧水って説明して飲めるということに驚いたという感じではなかった。


「幻の飲める化粧水ではありませんかっ!」


「え?幻!?」


な、何がどうなっているの!?

幻の化粧水って何!?

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