第8話
「ダンさんは、サラさんが高熱を出したからと言って、私に解熱剤を調合して欲しいと、ここに来たの」
うっとりとした表情をしながら、ソフィアさんが話し出す。その目はわずかに潤んでいる。
「私は調合の間、薬草茶を飲んで待っていてほしいと告げたの。まあ、いつものことなのよ。私が満足がいった薬草茶が完成してから、薬を買いに来る人に薬草茶を出していたのよ」
薬をもらいに来る人にもれなく薬草茶配ってたんですか。それは、なんと言うか・・・ありがた迷惑というか・・・。
「でも、今まで誰も薬草茶を飲みきった人なんていなかった。子供なんて泣いちゃってたし。ああ、マリアちゃんも泣いちゃったわよね。ふふっ」
チラッとマリアを横目で見る。相変わらず苦い顔をしている。
そうか、さっきから苦い顔をしていたのは泣き顔を見せてしまったからなのか、とやっと気がついた。
マリアってなんでも出来るから泣いた姿を見られたのが、悔しかったんだろうなぁ。
「ダンさんはね。私の薬草茶を一口、口に含んで眉を寄せたの。だから、そのまま吐き出すのかと思ったんだけど、眉間にシワがよった酷い顔をしながらも、薬草茶を全部飲んでくれたんです。」
「ダンさん、すごいわ。あれを全部飲むなんて正気の沙汰じゃないわ」
「ええ。ほんとう。でも、ここから先は私、聞かなくてもどうしてダンさんが全部薬草茶を飲めたかわかっちゃった」
「え?」
どうやら、マリアはすでにダンさんがどうして薬草茶を飲みきることができたかわかってしまったようだ。
愛の力ってやつだろうか?
でも、サラさんが熱で苦しんでいるときに、ソフィアさんにモーションかけるなんて最低なんだけど。
「ダンさんに言ったの。薬草茶全部飲みきれたのダンさんだけだわ。美味しかった?みんな不味いって言うのよ。こんなに美味しくできたのに。私の味覚がおかしいのかしらって。そうしたら、ダンさんなんて答えたと思う?」
「え?愛の力・・・とか?」
「そうね。そうね。正に愛の力だったわ。ある意味ね」
おぉう。
そうか。
愛の力だったのか。
なんだかなぁ。
一夫一妻な日本で育った私には、あまり感動できない話である。ようは、浮気ってことだよね?
「ダンさんこう言ったのよ。『サラの料理に比べたら薬草茶なんてなんともない』って。ダンさんの味覚、サラさんに破壊されてたのよ!」
ソフィアさんはそう言って、声高らかに叫んだ。
ん?
なんか、方向性が怪しくなってきたのは気のせいだろうか。
ってか、サラさんダンさんの味覚を破壊させたって・・・。破壊させるのは調理器具だけじゃなかったのか。
「それでね、私すごいなぁって。ダンさんの味覚を破壊できるサラさんを尊敬しているの。サラさんの料理を食べきるダンさん。愛の力よね。だから、私も探したのよ。ダンさんみたいな人を!」
そこっ!?
もしかして、この人、自分の薬草茶で味覚を壊せる人を探して旦那にしたの!?
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