288話 男子4人

「なぁ……お前ら生足とタイツどっちが好き?」


それは、なんてことのない昼休みのこと。その質問をした黛雄二。ただ、それは長い長い討論会のきっかけを与えてしまうことになるのだった。


「タイツ一択。生足も好きだがタイツと比べたら全然勝てない」


少しの沈黙が走った中、先陣を切ったのは皐月葵。普段なら「こいつはいきなり何を言い出すんだ……」と心の中で呟き、ため息をつきながら話を聞く側に回るが今回は違った。

この男、なかなかの脚フェチであり彼女である天音唯がタイツなんかを履いてきた日には人生の終わりを悟るほど。色に関しては問わないが、唯が履くと考えると白い肌や髪の真逆である黒を好む。

そもそもの話、唯がタイツを履くのは肌が弱く日焼けをしたくないからである。まぁ最近は葵のために履いてるが。(この時点で両者共になかなか気持ち悪いが)葵にとってタイツ派が敗れることは自身の死を意味することであった。覚悟が違う……!


「はっ!可愛い彼女の肌だぜ?見たくないわけがないだろ!!」


この話題は1歩間違えれば死の危険があることを悟っていた如月茜は慎重に動向を見守っていた。茜は別にどちらでもいい派ではあるが、何となく葵に対抗したくなったという理由で生足派に回った。言うなれば面白そうだから、である。

しかし彼女である彼方裕喜がタイツは何か嫌いと言ってるため、どちらかと言えば自分も生足派なんじゃないかと思い始めてる。

もちろん寒い冬にはしっかり防寒対策をして欲しいと思う茜ではあるが、それでも見れるもんなら見たい。そう考えるとやはり茜も生足派である。ちなみに葵に比べて覚悟は別に重くない。


「あはは……どうだろ」


ニコニコ笑ってはいるが、内心今すぐ逃げ出したいと思っているのは佐伯玲。そもそも彼女がいないため気にしたことがないのである。

唯一気にする女子と言えば瑠璃だが、特段気にしたこともなかったため生足派だとかタイツ派だとかは特に無かった。

そもそも大前提として瑠璃は容姿端麗であり、余程のことが無ければどの格好をしても映える。それに慣れすぎてしまった玲は今更どちらが好き?と聞かれても何とも言えないのである。

バチバチと葵と茜の間で火花が走る中、何とか隙を見て逃げ出せないかと思っているが何となく面白そうなので戦況を見守ることにした。


(……やべえ、やっちまったかこれ)


そんなことを葵と茜を見ながら思うのは黛雄二。自分がとんでもない爆弾を放ってしまったことに気付いた彼は玲と同様に今すぐ逃げ出したい気持ちに陥っていた。

彼からすればいつもの馬鹿話で盛り上がれれば良いという考えで話を振ったが今は全力で後悔をしている。タイムマシンがあろうものなら今すぐにでも5分前に戻りたいと思うほどだ。

ただもうどうにかできる状況じゃないと感じた雄二は全身に冷や汗をかきながら、それを表に出さないよう腕組みをしている。何様のつもりなのだろうか。


「タイツで脚がキュって細くなる感じ良くねえか?」


「いやいや、それでも生肌見れる以上のものはねえだろ」


「分かってないな。そもそも制服とタイツの組み合わせは最高だろ。しかも学生の内しか見れないしな」


「なんか今日の葵キモくね?」


「お前からこの話振ってきたんだろ」


そう、話を振ったのは他でもない黛雄二である。それを指摘されると何も言えなくなってしまい、雄二は黙るしかなかった。ただ、早く昼休み終わってくれと願うばかりである。ちなみに昼休みは30分ほど残っている。絶望しかない。


「いやいや、やっぱ実際に触ってみると生足しかないから。1回だけ履いてもらったことあるけど邪魔だったし」


「そんな生々しい話聞きたくないよ……ぼ、僕は少しトイレに」


「この場に居合わせたのが運の尽き。つか食堂来る前トイレ行ってたろ」


なぜトイレに行ってしまったんだと後悔するのは佐伯玲。別にすぐにでも行かなくてはならない状況ではなかったが混む前に行っておこうと思ったのが良くなかった。トイレを理由にこの場から逃げ出すことは許されない。


「ちょっとザラザラしてるのも含めて最高なんだが?1回しか触ったことないし茜みたいに経験豊富じゃないが」


「は?葵お前!同盟はどうなったんだ!」


「そもそも童貞同盟とかいう地獄みたいな同盟に参加した記憶はこれっぽっちもない」


「いやまぁ名誉会員だけどな?」


「頼むからその最悪の役職を今すぐ剥奪してくれ」


何となく自分が3人の中で1番遅れてしまってることに絶望を隠せない雄二。女子に対してのフットワークが衰えた速球派の球より軽いが、本当に好きになった相手としか行為に至りたくないという信念を持っているため未だに未経験である。知りたくない事実まで知り本格的に逃げ出したいと思っているが、それを許されない。


「1回で物を語ってしまうなんて葵らしくねえな。裕喜しか知らんが生足の肌触りは最高すぎる」


「如月君って一途なんだね」


「まぁずっと追いかけてたからな」


「へぇ……なんか良いねそういうの」


軽い感じの人なのかな?といった初対面時の認識を世界最速左腕の105マイルのストレートよりも速いスピードで改める玲。

自分も一途な方ではあると思っていたが、それ以上の存在を見つけて素直に尊敬の眼差しを送っている。今すぐこんな会話やめて色々話を聞いてみたいと思ってるので逃げ出したい気持ちが更に大きくなった。

ただ、そんな下衆な話は唐突に終わりを迎えることになる。


「なーにを……」


「話しているのかなー?」


両彼女の登場である。ちなみに童貞同盟やら何やらの時から居た。これには玲と雄二も全く気付かず忍者か何かじゃないかと思っている。話の中心となっていた葵と茜は震えている。それは恐怖なのかはたまた……いや、これは恐怖以外の何物でもない。


「あーかーねーくーんー?」


「あーおーい?」


「……い、いやこれはだな!ちょっとした馬鹿話というか……な?葵?」


「お、おう!これはただの馬鹿話であって別に体験談とかそういうのじゃ……」


「茜君、お話しよっか?」


「葵、私は今すぐ2人きりで喋りたい気分だよ。もちろん答えはYESだよね?」


「「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


……その後、2人の昼休みは説教続きだったという。昼休みギリギリに教室に戻ってきた2人は、二度と同じような話をしないことを心に誓ったそうな。

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