第3話
「実は、最近変な夢を見ているようでして」
男性は俯いたまま、恥ずかしそうにしていた。突然、話の途中で驚いたように顔上げ、リースの顔を見た。みるみる顔が紅潮していく。その様子に彼女はくすっと微笑んだ。
「す、す、すいません。自分、名乗りもしないで話し出してしまって!失礼にも程がありますね!すいません!」
ペコペコと平謝りした。
リースはスーツの肩をいからせながら緊張している男性の手にそっと自分の右手を重ねた。
揺れた彼女の黒髪からは何かハーブの匂いがした。その匂いに包まれ、彼はさらに顔を赤らめた。
「大丈夫。落ち着いてください。私にタロットリーディングをご依頼ですね?」
「あ、は、はい」
にっこり微笑むとリースは手を離した。その笑顔は今まで彼が見たこともないような神々しさがあった。緊張から気持ちがバタついていたが、ハーブティや彼女の笑顔のせいか次第に落ち着いてきた気がした。
「それでは、あなたのお名前フルネームと生年月日を教えていただけますか?」
「鈴木俊哉といいます。生年月日は11月24日です」
「鈴木さん。射手座の方ですね?どうしてこのお店や私のことをご存知だったんですか?」
「あ、すいません。知り合いがこの間、ここで開かれた『魔法のお茶会』に参加していまして…会の後でリースさんに見ていただいて、とても良かったというものですから。あの、」
「ああ、先週のお茶会にご参加いただいたんですね。ありがとうございます」
彼女は嬉しそうに笑った。イヤーカフスがキラリと光って見えた。
「明るいブラウンヘアーのショートボブのかただったかしら?お名前は確か、穂上さんとおっしゃいましたね。彼女のご紹介ですね」
「よく、覚えていますね。。。」
「変わったお名前でしたから、印象に残っていたんです。鈴木さんは、あの方の彼氏さんでしたか」
「お恥ずかしいですが、」
「承知しました。では、続きですが、『夢』についてのことでご相談ですね。その『夢』というのは一体どういう」
「『夢』という言葉は使いましたが、あまりはっきりとは覚えてなくて。人間は夢を毎日見るけれど覚えていないって読んだことがあるので、特に気にしてはいなかったんです。でも、ここ数日、ちょっと…」
「?」
彼は口を閉ざした。言っていいものかどうか迷っているように見えた。
リースは彼が話し始めるまで、ゆっくり待つ気だ。微動だにせず彼を見つめ続けていた。
彼はティーカップに手を伸ばして、一気に中身を飲み干すと「うん」と頷いて、Yシャツのカフスボタンをはずし始めた。
「これを見てください」
「これは?」
差し出された彼の両手を見て、リースは驚きの声を上げた。
たくし上げられた袖口から見えた両手首には赤黒くなった傷が見えた。幅5cmほどあり何かで擦れたような、あるいは縛られたような圧迫痕と裂傷痕と痛々しく残っていた。その間を埋めるように一定間隔で何かが手首に食い込んだ痕が星を散りばめたように無数に広がっていた。
SMでもしてきたような傷だ。
リースは差し出された両手を自分の手の上に置き、上下を返しながらじっくり見た。
親指で傷跡を痛みが出ない程度に押してみる。表面に凸凹があり、確かに実際についた裂傷痕だ。
「酷そうに見えるんですけど、痛みはないんです。でも、薄気味悪くて」
「いつからですか?」
「2日前からです。朝、ベッドで目覚めたらこんなふうになっていました。別に彼女とそういうプレイをしたわけじゃありませんよ!僕は至って真面目ですから、そんなプレイは…」
くすくすとリースは笑い始めた。
「夜の生活のことはともかく、この傷とあなたが最初におっしゃった『夢』の話はどう繋がるのか気にかかるところですね。まず、お話ししていただけます?あなたの主観で構いませんから」
リースは彼の両手をゆっくりテーブルの上に手放した。
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