目指せ 成仏

小梅カリカリ

第1話嵌められた一家

 夕暮れで真っ赤に染まる京の町を、護衛の者達と駕籠かきが静かに歩いている。一軒の貴族の家の前で籠が止まると、1人の尼僧が降りてきた。

「何となく、この家から嫌な気配が・・・・・・。 」

 尼僧の言葉を聞いて護衛達の顔が引きつった。


 護衛達を安心させるように、慈愛の表情を浮かべ優しく見つめる尼僧。

「こちらの家の方の様子を確認させてください。」


 尼僧に言われて護衛が家の者に向かって声をかけるが、家は静まり返っていて返事はない。

「我々が中を確認してきますので、こちらで少々お待ちください。」


 中に入ろうとする護衛を引き留めて尼僧は言う。

「私も一緒に行きます。これは私でなければ、出来ない事なのです。」

 数珠を握りしめお札を手に持った尼僧に、護衛達も何かを感じ取ったのだろう。尼僧を守るように囲みながら家の中へと入っていった。


 部屋に誰かいないか、確認しながら進んでいく一行。奥の部屋まで行くと4人の男女が倒れていた。護衛が緊張した顔で男女に近づくと手首を取って脈を確認した。

「全員亡くなっています。自殺のようですが、毒でしょうか。顔に斑点が出ていますし、あの毒薬の特徴の甘い匂いがします。」

 他の護衛達は周囲を見回している。

「最近ある罪で、地位と財産全て失った貴族がいました。噂では娘の高位貴族の婚約者が心変わりをして、娘の両親を罠に嵌めて罪をかぶせ処罰して、婚約破棄したとか。」

「酷い事を、高位貴族なんてそんな者ばかりですな。」

「気の毒に・・・・・・。 」


 全員で4人のご遺体に向かって手を合わせた。

「貴族は婚約破棄をする場合、相手に謝罪として高価な品を贈るんですよね。」

「決まっているわけではないですが、何もしないと破棄した貴族に悪評が立つでしょうね。」

「この方達は後で私のお寺で供養いたしましょう。」


 尼僧は悲しそうな表情をしたまま、庭に降りていく。

「ああ、やはり嫌な予感が当たってしまいました。」

 庭には美しい女性が倒れていた。女性の手には真っ黒な鏡が握られている。近づこうとした護衛を止め、数珠を手に尼僧は女性に近づいていく。


 倒れている女性の側に行くと鏡にお札を貼り、鏡を女性から取り上げた。

「もう、近づいても大丈夫ですよ。」

 尼僧の側に護衛達が集まり、鏡を見ないように皆目を伏せる。護衛の1人が尼僧に何が起きていたのかと質問をした。


 少し怖がっている様子の護衛達を見て、尼僧は安心させるように優しい口調で説明を始めた。

「これは、自分の命と引き換えに鏡に憎い相手を閉じ込める呪いなんです。鏡の呪いと言われていて、一部の貴族の女性達の間で秘かに流行しています。

 ただし霊力が足らないと、失敗して自分の魂が鏡に閉じ込められてしまいます。その事を知っている人は少ないようですが。」

「それでは、その鏡にはこの方の魂が入っているんですか。」

「ええ、この鏡は私の寺へと持ち帰り供養いたします。この方のご遺体も一緒に私の寺に運んで下さい。」

「分かりました。ではすぐに準備をして運ばせましょう。今回の件、私共の主人から後日お礼をさせて頂きます。」

 護衛達が手配を整えると尼僧は籠に乗って尼寺へと帰っていった。


 鏡を撫でながら、尼僧は優しく話しかける。

「お寺に着いたら、あなたの思いを聞かせてね。これからの事もゆっくりと話し合いましょう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る