第46話 イリーナとの再会は

「イリーナさん!」


 俺が何かを言う前に、リリアが扉を蹴り開けた。

 ちょっと落ち着けと言いたいところだが、リリアがやらなければ俺がやっていただろう。


 扉の向こう側には、異様な戦場が待ち構えていた。


 地下十二階のフロアは、だだっ広いホールのような場所だった。

 フロアの壁には、ガラスのような透明の巨大ケースが並んでいる。

 SF映画に出てくる培養槽のようなケースは緑色の養液で満ちており、中には狼や猿、猫、鼬など、さまざまな動物が浮いていた。

 動物たちの身体には、例の黒い影が貼り付いている。ご多聞に漏れず、影からは別の生物の頭や尻尾、腕などが突き出ていた。


 そしてフロアの中心部では、イリーナが禿頭の男と対峙していた。


 イリーナは片手に細身の剣を構え、背中に十代前半くらいの少年と、中年の学者風の男をかばっている。イリーナの鎖帷子には血がべったりと付着し、顔はやつれていたが、眼に力を込めて禿頭の男たちを睨んでいた。

 少年はスレンの弟だろう。顔がよく似ていた。学者風の男は調査隊に同行していたという古代語のスタッフだろうか。

 イリーナの足下には、兵士が一人倒れてうめいている。


 対する禿頭の男は、黒い影をまとった兵士二人と、おぞましい怪物を従えていた。兵士の方は、ゲオルが言っていた捕虜だろう。


 怪物は獅子のような巨大な四足獣だった。体長は2メートルほどありそうだ。

 それは鷲とカマキリの二つの頭を持ち、背中にコウモリのような翼が生えていた。

 さらに脇腹からは虫のような足が突き出ており、尻尾の先端には蛇の頭がついている。まるでゲームに出てくる合成獣キメラだ。


 フロアにいた者の視線が、大きな音を立てて侵入した俺たちに突き刺さる。

 禿頭の男は驚いたような表情を浮かべている。


「……ンの野郎ッ!」


 俺たちが生み出した一瞬の隙をついて、イリーナが動いた。

 イリーナは剣を捨て、影に支配された兵士に飛びかかった。そして勢いのまま押し倒したすと、兵士の胸に手を当てる。


「〈戦神マルセリスよ、御身の勇気をこの者へ! よこしまなる精神のくびきより解き放ち給え!〉」


 神聖なる祈りの言葉とともにイリーナの手に淡い光が集まり、兵士の身体に貼り付いていた影が爆散する!

 影の支配から脱した兵士の身体がびくんと跳ねた。

 神の奇跡である白魔法は、黒い影にも効くってことか!


「早く逃げな!」


 イリーナが兵士の身体を蹴とばす。兵士はよたよたと起き上がり、その場から離れようとした。


「おのれ、あばずれが! 死せい!」


 禿頭の男が叫んだ。

 それを合図にして、傍らにいたキメラが咆哮をあげ、イリーナに飛びかかった。

 カマキリの顎門あぎとがイリーナの胴をくわえ込み、めちゃめちゃに振り回す!


「リリア! 男の相手は俺がする! イリーナを助けるんだ!」

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