第22話 有名人も楽じゃない
俺のもう一つの悩み。それは——
「うおおおおおお、エイジーーーー! リリアさんから離れろおおぉぉぉおおっ!」
青空学校からの帰り道。
俺とリリアが市場によって買い物をしていると、悩みの種が向こうから飛び込んできやがった。
「どけオラアァァァアア!」
通りの向こうから全速力で走り込んできたのは、若草色の
濃い茶色をした癖毛が風に
「死ね!」
少年は俺の手前で
「やめっ! うおおおおっ!」
俺は寸前で蹴りをキャッチ——したものの勢いを殺しきれず、少年の体を抱えたままゴロゴロと地面を転がる。
『対象に接触しました。能力値とスキルセットを表示します』
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対象=ジール
▽基礎能力値
器用度=16 敏捷度=17
知力=13 筋力=10
HP=11/12 MP=15/15
▽基本スキル
短剣術=2 盗賊体術=1 パルネリア共通語=2
罠知識=2 隠密=3 宝物知識=1
▽特殊スキル
なし
※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキルの表示、およびコピーはできません。
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「
「うるせえ、避けないお前が
「そりゃこっちの台詞だ。耳元でキャンキャン叫ぶなよ。お前の声は脳に響くんだよ。さっさと立て」
この少年の名前はジール。一応は冒険者で、いまは
なんでも、以前リリアに危ないところを助けてもらったことがあるらしく、リリアに心酔している。
ジールはこれまで何度も、リリアに自分を仲間に加えてほしいと頼み込んでいたらしい。だが、リリアは例の〈発作〉があるため、誰かとパーティを組むことを断り続けていた。
そういうことがあったせいで、突然リリアと同居を始め、仲良く街を歩いている俺のことが許せないらしい。で、俺の姿を見つけるたびに、こうやってちょっかいをかけてくるってわけだ。
俺はジールの体をふりほどくと、立ち上がって衣服の埃を払った。
ついでにジールの手を取って体を起こしてやる。困ったやつだが、まだ子供だからな。
「フンッ!」
ジールはそっぽを向きながら俺の手を取って立ち上がり——
「痛ッてええええ!」
俺の向こう
そして俺の手をふりほどき、一目散に逃げていく。
「こら、ジール! エイジさんに謝りなさい!」
「いくらリリアさんの頼みでも、それだけは聞けないね! またな!」
「待ちなさーーーーーーーい!」
ジールの姿はあっという間に見えなくなってしまった。リリアは「まったくあの子ったら!」とおかんむりである。
市場のおっちゃんやおばちゃんたちは、そんな俺たちの姿を見てゲラゲラ笑っていた。
ジールはしょっちゅう俺に喧嘩を売ってくるもんだから、今回のような騒動も、市場の人々にとっては「いつものコント」くらいの認識なのだ。
「まったく、困ったもんだな」
俺が独りごちると、リリアは「あの子も悪い子じゃないんですけどね」とジールをフォローした。
いや。
ジールが悪いやつじゃないのは俺もなんとなく分かるんだが、俺の言う「困ったもん」は、実はあいつのことじゃない。
俺の悩み事——誤算。
それは「想像以上に、この街でリリアが有名だったこと」である。
リリアといっしょに街を歩けば、見知らぬ人たちにしょっちゅう挨拶されるし、市場の人はみんな親切にしてくれるし、衛兵たちも礼儀正しい態度を取ってくれる。
まぁ要するに、かなりの人気者なのだ。そりゃとんでもない美人で、(少なくとも昼間は)上品で清楚、剣の腕も立つとくれば、目立ちまくるのも無理はない。
なんでも、冒険者たちの間では「姫様」なんて
そんな「姫様」と並んで歩く俺はどうなるか。当然、目立ちまくるわけである。
しかも俺の「設定」は、記憶喪失の流れ者で、なぜか古代語が読めて、子供に勉強を教えるのがうまい。さらに、例のゴブリン退治のときの噂がいつの間にか広まっており、リリアと並ぶ剣の達人でだということになっている。噂の出どころは、あの砦の兵士だろうな……。
ともあれ、俺はあからさまに怪しい存在なのだ。
いまは幸い、リリアの信用が高いおかげで、露骨に不審者扱いされることはないが、何か変な行動を起こせばどうなるか分からない。
そう思うと、街中の人に監視されている気がしてきて、どうも居心地が悪いのだった。
「困ったものですね」
俺の横でリリアが眉をひそめた。
「ジールには、あとでわたしからキツく言っておきます」
「いや、別にいいさ。あのガキ、今度捕まえたら目にもの見せてやるぜ!」
リリアのせいで目立っているとは言えないので、俺は精一杯おどけて見せるのだった。
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