おまけ 紅魔ガールズと魔神ガール:前編
それはギルド酒場の御手洗いからの帰り道で始まった。
「さぁ、勝負よ、めぐみん!」
「またですか、懲りない人ですねぇ、いい加減ほかに遊んでくれる友達を見つけたらどうですか?」
「めぐみんとの勝負は別口でしょ!? そ、それに友達なら何人か居るもん!」
「ほほぉ、それは貴女の想像の中にしか居ないイマジナリーフレンド以外に居るって事ですか? ぜひ会ってみたいものですよ」
「ば、バカにしないでよ! …ほ、ほらそこに居る子は私の友達ですからねーだ! ヘレーン、ちょっと来てー」
何やら口論している女子の片方に呼ばれました。
「この娘が最近お友達になったヘレンよ! ね、ヘレン?」
「はい。えーっと、『もんもん』さんでしたよね。覚えていますとも」
「『ゆんゆん』よ! わざと言ってるんでしょう?!」
「そうでしたそうでした、友達なのでちょっと借りますよ(拭き拭き)」
「ちょっと! なんで私のスカートで手を拭くの? ヘレン今トイレから出てきたよね? 女の子なのにハンカチも持ってないの?!」
私とゆんゆんのやり取りをニヤニヤしながら見ているもう一人の女の子、ゆんゆんと同じ黒髪に紅い瞳、『紅魔族』という種族の仲間なのでしょう。
この娘が噂に聞くめぐみんさんです、さっきゆんゆんがそう呼んでいたので間違いありません。
「なかなかに睦まじい友情で羨ましい限りですよ、ゆんゆん」
「え?そう?… じゃなくて! はぐらかさないで! しょ、勝負よ、めぐみん!」
「やれやれ、忘れていませんでしたか。じゃあ、たまには魔法使いらしく魔法勝負と行きましょうか?」
「魔法勝負? どうするの?」
「お互い一発ずつ魔法を撃ち合って生き残った方が勝ちです。じゃあ挑戦された私の方から行きますね、『黒より黒く、闇より暗い漆黒に…』」
「待って! それ爆裂魔法だよね? 街中で私に向かって爆裂魔法使うつもりなの?!」
「仕方ないでしょう? 私は
「おかしいから! 私達の勝負で街を壊滅させるのはダメだから!」
「じゃあ試合放棄で私の勝ちで良いですね?」
「ええっ? そんなのズルいわよ… そ、そうだ! せっかくヘレンが居るんだからヘレンに魔法対決を審査してもらおうよ」
は? 嫌ですよ面倒くさい。
「ほぉ、我が爆裂魔法を前にして上級魔法程度で勝負に勝てるとお思いですか。いいでしょう、そこのチビっ子に私の芸術作品を見せて上げるのもまた一興、この勝負受けましたよ!」
「すみません、先程から私の都合を無視して2人で盛り上がってますが、私はこう見えて忙しいのでチビっ子に付き合っている暇は無いのですが?」
「ゆんゆん。貴女チビっ子にチビっ子って言われてますよ?」
「え? どう考えてもこの場合のチビっ子はめぐみんじゃ…」
「なにおうっ!」
めぐみんがゆんゆんに襲いかかります。それと同時に私の後ろで「ゴホン!」とわざとらしい咳払いが聞こえました。
受付のルナさんです。口元は微笑んでいますがこめかみに物凄い青筋が立っています。
「あなた達、ケンカするなら外でやってくださいね。あと街中で攻撃魔法を使ったら犯罪ですからね」
と言って私達3人をつまみ出しました。私は無関係なのに非道いです。
「もう、めぐみんのせいで追い出されちゃったじゃない! そのうち出禁になっちゃうよ?!」
「ふっ、最強の
「何言ってんのよ? 魔法撃ったら倒れちゃって誰かに運んでもらわないとダメなくせに、何が孤独よ?!」
「なにおうっ!」
またゆんゆんに襲いかかるめぐみん、話が進みません。
「ケンカするならお二人でお願いします。私は帰りたいのですが…」
「そ、そうね、ごめんなさい。ヘレンはもう帰ってもらっても…」
ゆんゆんの言葉をめぐみんが遮りました。
「待って下さい。せっかくなのでこのまま一日一爆裂に行きましょう。ヘレンと言いましたか? 貴女にも素晴らしい爆裂道の神髄をご覧入れますよ!」
そう言って私の手を取り引っ張ります。一日一爆裂とは一体何なんでしょう?
「あれ? 何だっけ…? 何か忘れちゃいけない大事な事を忘れている気がするんだけど…」
ゆんゆんの一言で不安感が増します。
結構歩いて小高い丘に到着しました。そこから少し離れた場所に廃棄された採石場が見えます。
「最近はあそこに見える岩塊を、いい感じに壊して回るのが日課になっているんですよ!」
めぐみんが誇らしげに言います。
「さぁ、見ててくださいよヘレン。私の最高の一撃をお見せしますから! 『黒より黒く…』」
呪文の詠唱を始めるめぐみん、と同時に周囲の魔力の濃度がグッと上がり、それが彼女の持つ杖に吸い込まれるように集まっていきます。
大抵の事では動じない自信があったのですが、この光景だけで圧倒されます。この後どれだけ凄い魔法が放たれるのでしょうか?
「思い出した! めぐみん、撃っちゃダメ!」
「エクスプロージョン!!」
2人の声はほぼ同時でした。
幾重にも重なる炎の輪、その中心を貫く雷の様な眩い光の柱、そして轟音とともに体全体を震わせる爆風、視界を覆う爆炎、破壊と暴虐を司る神が顕現したかの様な、表現しがたい光景が目に前に広がりました。
爆炎… 炎… 私の心の奥底から物凄い感情の奔流が湧き出てきます。
『恐怖』… 体の震えが止まりません。何故かは分かりませんが凄く怖いです。正気を保っていられない程に…。
「火… 火が… イヤッ… イヤーッ!!」
私は頭を抱え込みしゃがみます。別にそうしようとした訳ではなくて体が勝手に動いて、勝手に叫び声をあげました。
理性では自分の行動を冷静に観察している一方、感情は自分の物では無いかのように抑制が利きません。
「大変な事になっちゃった、どうしよう…?」
ゆんゆんの呟きが頭に響いたまま私は意識を失いました…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます