第18話 メイドのナンパはご遠慮下さい。
翌日、御影は昼過ぎに起き出した。
正直、まだ寝ていたかったが、今日はメイドカフェの営業日だ。
御影も出勤せねばならん。
「おはよう。杏はどうした?」
「どうしたって。とっくに出勤してますわ。御影さんも、もう少し早く起きたらどうですか」
クラリスは口を尖らせている。
「あぁ、そうだったな。夜の方がやる気出るんだよなぁ」
御影はかなりの夜型人間だ。
とりあえず、御影も朝食を済ませ、早々に出勤の準備をする。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
クラリスに見送られ御影は、いつもと変わらない見慣れた街を歩く。
屋敷から数分歩いた所に、経営するメイドカフェがある。
御影は扉を開いて中に入る。
「おかえりなさ……ってなんだ、オーナーか」
「お疲れ様」
店内を見渡すと今日もそこそこ客は入っているようであった。
新規さんも居れば常連さんも居る。
そんな感じか。
「御影さん。いくらオーナーでも遅刻は遅刻ですからね!」
杏がこっちを睨んでいる。
この子は怒らせたら怖いという事を最近知った。
「ごめんなさい」
御影は素直に謝った。
今日の出勤メイドは杏とルシールと天音さんか。
「さて、働きますか」
御影はよほどのトラブルが無い限りはホールには出ない。
男がいると雰囲気が崩れるからな。
奥に入って在庫の確認やら、売り上げの確認などをしている。
たまには酒を作ったりするが。
元の世界じゃ平気で裏方の男を外に立たせてるバカなメイドカフェもあったが。
そういうのを見ると虫唾が走る。
「そろそろ、新メニューとかイベントとか計画したいよな。その辺は杏とクラリスに相談するか」
そんな事を考えながら御影は果実酒を作っていた。
ふとホールの方を見ると杏が苦い顔を浮かべながら何やら話している。
「あれは、常連さんだな。何話してんだろ。よしちょっとだけ」
『感覚拡張』
御影は魔法により五感、特に聴覚を強化した。
すると、杏と客の会話が正確に聞き取れる。
「ねぇ、杏ちゃん。ぼ、僕君のことが好きで……」
「うん。いつも来てくれてありがとうね」
「僕と特別な関係になりたくない?」
「推しって事ですね!」
「いや、そうじゃなくてもっとこう、仕事じゃ無い関係みたいな」
「どういうことです?」
「だからね、お店じゃなくて、外で……」
うわ。キモ。
見た目もキモいが発言もキモい。
「そろそろ助けるか」
御影の目には怒りの灯火が灯った。
持っていた果実酒を一気に飲み干し、グラスをテーブルに叩きつけた。
「それ、お客さんの……」
ルシールが何か言ったが、御影の迫力に負けてしまったようだ。
ちなみに御影は何も聞こえていない。
「お客さんその辺にしときませんか」
御影が笑顔で割って入った。
口は笑っているが目は笑って居ない。
「な、なんだお前。ぼ、僕は店長の杏ちゃんと喋ってるんだ。下っ端は引っ込んでろ」
その言葉で御影から笑顔が消えた。
「ここのオーナーの叢雲御影だ。メイドを店外デートに誘うのはご法度だって常連のあんたなら知ってるよな?」
「お、オーナー!? 叢雲!?」
「なんだ? 俺の事知ってるのか? まあいい、お前出禁な」
「そ、そんな。それは酷くないすか?」
「ルールを破ったお前が悪い。貴族だろうが庶民だろうが、関係ねぇ。ルールは守ってもらう」
それから御影はその男を強制的に追い出した。
「たっく、バカが」
御影はいつにも増して口が悪い。
「おい、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「杏も変なのにばっか絡まれて大変だな。何かあったら話せよ」
「ありがとうございます」
そう言って杏が微笑んだので、そっと頭を撫でた。
「皆さんお騒がせして申し訳ありません。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。」
御影が他のご主人様方に詫びを入れて奥へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます