第50話 政変~契り1
遥貴の、18歳の誕生日がやってきた。宮殿のバルコニーには、尊人や君子、瑠璃子も並び、そこへ王冠をかぶった遥貴が登場し、国民の祝福を受けた。これを、一日に何度か繰り返す。国民はそのたびに入れ替わり、のべ10万人が訪れた。
首相が宮殿へやってきて、遥貴にお祝いの言葉を述べた。それから、やはりというべきか、こんな話があった。
「陛下もやっとご成人あそばされまして、何よりでございます。つきましては、王族の安泰の為に、是非王妃を迎えていただきとうございます。」
その場には遥貴と未来と、尊人と健斗がいた。場が一瞬凍り付いたようだった。尊人もかつて首相からそんな風に言われ、拒み、だが結局王妃を迎えた。
「しかし、まだご結婚は早いのでは?陛下はともかく、お相手の女性だって、18歳では早すぎるのではないでしょうか。」
未来が思わず言った。遥貴は考え込んでいて、何も言わなかった。
「形だけでも構わないのです。お子様をお持ちになるのはもう少し先でも構いませんし。ただ、公務に支障が出てきますので。お相手を年上にするという手もありますね。2歳くらい年上でも構いませんよね、陛下。」
首相は馴れ馴れしく遥貴に問いかけた。遥貴は首相の顔を見たが、返事をしなかった。
「とにかく、候補を選んでおきますので。それでは、失礼します。」
首相は深々と礼をして出て行った。
「遥貴。」
尊人が優しく遥貴に声をかけ、肩に手を載せた。
「パパはあの、麗良さんと結婚したんだよね?形だけの結婚を。」
すっかり低くなった声で、遥貴はそう言った。
「遥貴、大人になった事だし、パパは辞めて父上にしようか。健斗の事はダディでもいいけれど。」
尊人がそう言った。
「父上?そうだね、じゃあ、父上、結局麗良さんとは別れて、父上はダディと、麗良さんは他の男性と結婚したよね。僕がこれから選ばれた人と形式上の結婚をしたら、相手の女性は幸せになれるのかな?どう考えても、幸せじゃないよね?」
遥貴が言う。
「そうだね。でも、王妃を迎えないのは、現実的には難しいかな。」
尊人が静かに言う。
「僕は、未来と結婚する。」
遥貴が言うと、未来は、
「お前が誰と結婚しても、俺はずっと傍にいてお前を守る。心配するな。」
と即座に言った。遥貴は未来をじっと見た。未来は頷いて見せた。分かっていた事だ。遥貴が王妃を迎えるであろうこと、もし遥貴にその気がなければ人工授精で子供を作られる事。だが、尊人が人権が無い事に絶望したように、やはり遥貴も不自由な事、理不尽な事、人間として扱われない事に絶望感を抱き始めてしまった。子供だった頃は深く考えなかった事だが、大人になった今、どうしても考えてしまう。
最初は、未来と一緒にいるためには、この国の国王になる事が一番だった。しかし、もし今から国王ではなくなったとしても、未来と共に生きていく事は出来るはずだ。だが簡単ではない。尊人がクーデターを起こし、命の危険を冒してやっと手に入れた自由。
「遥貴が生まれたのは、そもそも今の政権の仕組んだ結果だ。遥貴は国王になるために生まれた。お前を育てた二人にはその気はなかったが、今の政権にとってはそうだ。」
未来が言った。
「今の、政権にとっては、だ。」
もう一度、未来が言った。遥貴ははっと顔を上げた。
「つまり、政権が変わると、違ってくると?」
遥貴が言った。
「そうだ。大統領制を掲げる政党が政権を取れば、お前は国王ではなくなる。」
未来がそう言った。
「だが、遥貴は国民に人気があるだろう。今も外にたくさんの国民がいて手を振ったり遥貴を呼んだりしているじゃないか。そういう状況で、政権が交代するとは思えないんだが。」
健斗が言った。
「遥貴は人気がある。だが、首相は人気があるわけではない。」
未来が意味深に言った。
「もし、政権に不祥事があれば、どうなるか。それと、大統領制になる場合、遥貴をどうするかというところで国民の意向と野党の意向が合致すれば、どうなるか。」
未来が言った。
「お前、いつからそんな事考えてたんだ?」
健斗が呆れたように言った。けれども、本当は呆れているのではなく感心しているのだ。
「18歳になれば、当然王妃の話が出るだろうと思ってな、前々から考えてはいたんだ。だが、まだ何も実行には移していないぞ。遥貴がこのまま国王を続けて、王妃も迎えるというのであれば、俺はそれでいい。」
未来が言った。遥貴は、とことこと歩いて行って、未来に抱き着いた。
「こ、こらこら。窓の外には国民がたくさんいるんだぞ。」
未来はちょっと慌てて言った。尊人はくすくすと笑った。
「さ、もう一度国民に挨拶しておいで。みんな遥貴が出てくるのを待っているんだから。」
未来がそう言って、遥貴の背中をポンポンと叩いた。
「うん。」
遥貴は頷いて、未来から離れた。そして、顔をぴしゃぴしゃと叩き、バルコニーへ出て行った。尊人も続いて出た。外からは今までよりも大きな歓声が沸き上がった。
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