第37話 子孫~芽生え2
未来は本国へ戻り、自衛官から外務省の官僚に転身した。首相は交代し、もう未来の顔を知る人物ではなくなった。与党は、国王がいなくなった今、この国を大統領制にしようという方向で動き出していた。憲法を変えるわけだから、そう簡単ではないが、世論も少しずつその方向へ動いていた。しかし、国王制を復活させたいという王制復権党という新たな政党ができ、少しずつ力を付けていった。
未来は、2~3年に一度、尊人達の元へ遊びに行った。彼らはロンドン郊外の田園都市に居を移し、畑仕事や酪農を細々とやって生計を立てていた。ほぼ自給自足のような生活だった。尊人のクローンベイビーは遥貴(はるき)と名付けられ、すくすくと育っていた。12歳まではなんとか隠しておかなくては、と未来は思っていた。帝王教育は12歳までには始めなければ手遅れになると言われている。13歳になってしまえば、遥貴を狙う者もいなくなるだろうと思っていた。
王制復権党の主張は、尊人を解放し、元通りに王制を復活させようというものだった。しかし、尊人が国王を辞めたがっていた事は多くの国民の知るところとなっているので、そう言った意味では、世論はこの政党にほとんど理解を示していなかった。だが、王制復権党の主張が変わってきた事を、未来は敏感に感じ取っていた。かの党は、「尊人様」ではなく「王家の血を引くお方」を再び国王に、と言い始めたのだ。一般的には尊人の姉たちの子供の事か、もしくは瑠璃子のいとこの子供辺りかと思われていた。だが、実はそこに男の子はいない。今は女王も認められているが、この政党は元々女王制度には反対していた議員が多く、未来はそこが引っかかっていた。女王でも良いから国王制を、と訴え始めたのか、それとも・・・遥貴を見つけたか。そもそも、クローンの話を持ち掛けたのが、この政党に関係する誰かではなかったか、と未来は睨んでいる。上手く逃げたから良かったが、そうでなければ今頃遥貴はこの国に連れて来られ、国王候補として担ぎ上げられていたかもしれない。
そうして大統領制にするか、王制を復活させるか、世論が定まらぬまま歳月は流れた。首相が更に代替わりした頃、国内の景気が悪化し、ついこの間まで人手不足だと言って外国人労働者を盛んに登用していたのがウソのように、今度は就職難。若者が職に就けないという不況が始まったのだった。好景気と不景気は繰り返すものの、不景気の時には先に光明が見いだせずに苦しいものだ。人々は、今の状態を何とか打開しようと模索し始める。多くは大統領制に、という意見だった。だが、憲法改正に至るには、まだ議論が尽くされていない状態だった。
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