第32話 再会~成就3

 「どう?ドキドキした?しなかった?」

健斗は心配そうに尊人の目を覗き込む。尊人はぎゅっと目をつぶった。そして、こくんと頷いた。

「え?どっち?」

健斗が戸惑いながら言う。

「ドキドキした。」

尊人は小声で言った。そして、左胸に自分のこぶしをぎゅっと当てた。

「!」

声にならない喜びが、健斗を襲った。思いっきりガッツポーズを作る。

「ただいまー。」

そこへ、未来が入って来た。健斗と尊人はハッとして、何となく身なりを繕う。まだ服が乱れていたわけでもないのに。未来は何食わぬ顔で部屋を横切り、ティーポットに残っている紅茶を自分のカップに入れた。

「ところでさ、本国では尊人の事はニュースになっているのか?さすがに本気で探されたら、見つかるだろうと思うんだが。捜査当局が本気になれば、俺らの通信記録からすぐに居場所が特定されるだろうよ。」

と言った。健斗は椅子に腰かけ直し、

「それがさ、ニュースになるどころか、尊人は今もあの宮殿に監禁されている事になってるんだよ。」

と言った。

「え?」

未来と尊人は同時に健斗の顔を見た。

「俺も驚いたよ。帰国する時は、そりゃあびくびくして帰ったわけだけど、難なく入国できて、職にも就けたし。それで、いろいろさぐりを入れてみたが、尊人が逃亡したというニュースは全く流れていないし、国内でそれらしき噂もない。つまり、尊人がいなくなった、という事実は無かったことになっているってわけだ。まあ、俺たちにとっては好都合だけどな。」

健斗が言った。

「あの、健斗。母上や姉上たちは、その、大丈夫なんだろうか。何か聞いたか?」

尊人が遠慮がちに言うと、健斗はにやっとした。

「尊人、俺は君子様には本当の事を伝えた方がいいと思ってな、会いに行ったんだ。」

「母上に?」

「ああ。会って、人払いをして、お前が今ここにいる事を話して来たよ。」

「母上は何て?」

「安心した様子だったよ。監禁状態ではかわいそうだから、よかった、って。まあ、会えないのは寂しいだろうけどな。」

健斗が最後は気の毒そうに尊人を見ると、尊人は目を伏せた。どんな思いがよぎっているのか、しばらく目を閉じていて、それから静かに目を開けた尊人。少し微笑んで、

「ご無事なら良かった。健斗、ありがとう。母上を気にかけてくれて。」

と言った。

「当たり前だろ、お前の大切な人なんだから。」

健斗はそう言って、優しく尊人の頭を撫でた。

「ごほん。で、お前はこのまま帰るわけじゃないよな?ずっとここにいるんだろ?」

未来が咳ばらいをしてからそう言った。

「え?」

健斗が驚いたように未来を見た。

「俺、何も考えてなかった・・・。尊人が病に倒れたから、すぐに来いって言われて、休暇を取ってそのまま着の身着のまま飛んできたんだからさ。」

健斗が戸惑いを見せながらそう言うと、

「未来!」

尊人が驚きと共に、怒って言った。なんてことをしてくれたんだ、と。だが、未来はたいして悪びれず、

「まあ、一度戻ってちゃんと準備してきてもいいけどな。そんで、健斗と入れ替わりに俺が国に帰るよ。」

と言った。

「え!なんでだよ!お前が帰っちゃったら、俺たちどうなっちゃうんだよ。」

健斗が言うと、

「そうだよ、未来、一緒にいようよ。3人で。」

と尊人も言う。すると未来はちょっと怒った風に、

「お前ら、俺に甘えすぎじゃないのか!前からそうなんだよな!だから、ずっとお前たちは・・・恋人になれなかったんだよ。」

最後はぼそぼそと言った。両想いのくせに、と聞こえないくらいの声で付け加え、

「尊人と出会った時さ、この気高いプリンスを絶対に俺が守るんだって思ったんだ。だけど、今はプリンスでもキングでもない。だから、もう俺が傍にいる意義がない。」

未来が冷たくそう言うと、尊人は目を潤ませた。それを見て、未来はふうっと息を吐いた。高ぶった感情を落ち着かせるように。そして、

「俺が本国に帰って、健斗の仕事の穴を埋めるよ。健斗、仕事始めたばっかりなんだろ。」

と言った。

「俺の仕事は肉体労働だぞ。お前はもっと、頭脳を使う仕事をした方がいいだろうよ。」

と健斗が言うと、

「自衛隊だろ?そこで出世して、いずれは国の中枢に入り込むよ。任せておけ。」

と未来が親指を立てる。健斗はちょっと考えて、

「確かに、試験受けて行けば出世していくだろうな。割と近いうちにトップに上り詰めるかも。」

と言いながらイシシ、と笑った。

「俺が上に行ったら、尊人が帰れるようにするよ。それまでは、国でいろいろ情報収集して、時々報告する。君子様にも何とか会えるように、考えてみるよ。」

未来がそう二人に言うと、尊人はがしっと未来に抱き着いた。

「未来、ありがとう!」

尊人がぎゅっとしながらお礼を言うと、

「あれ、ハグしてくれるの久しぶりだな、尊人。あの時以来・・・キスした時以来、してくれなかったもんな。」

未来がそう言うと、健斗がぴくっと反応した。

「さ、今日は3人で飲もうぜ。今、ワイン買ってきたんだよ。」

未来はそう言うと、尊人の肩をポンポンとしてから離れた。

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