第29話 逃避行~分岐3

 ロンドンは、かつて3人が住んでいたところで、知っている場所も多々ある。住む場所も決めてあった。さすが未来である。実は永住ビザも取得しており、ここで商売を始めるつもりだった。自分が起業して、そこで尊人も働くのであれば、国籍やら何やらがなくても、生活していけると思ったのだ。

 入居して、しばらく3人で暮らしたが、ある日健斗が切り出した。

「俺さ、国に帰るわ。」

「は?」

尊人と未来が同時に言った。

「なんでだよ。」

未来が言うと、健斗は未来と尊人を交互に見ながら言った。

「俺がいたら、邪魔だろ。」

未来は押し黙ったが、尊人は首を横に振り続けた。

「何言ってるんだよ。そんなわけないじゃないか。」

だが、健斗はここ数日、考えていたのだ。何をするにも尊人は未来に聞く。何をしたらいいか、どうしたらいいか、どこで買う?これでいい?何でも自分ではなく未来に聞くのだ。確かに未来は頭脳に長けている。自分は体力に長けている。今、ここで暮らしていくのに体力や武力は必要ない。けれども、それだけだろうか。結局のところ、自分は邪魔者で、未来と尊人は両想いのカップルなのではないか。いや、おそらくまだカップルにはなっていないが、それは自分がいて、二人が気を使っているからそういう関係になれずにいるのではないか。二人の、尊人の幸せを考えたら、自分はいなくなった方がいいのではないか。健斗はそう考え、身を引く事にしたのだった。

「俺は、自分の国に帰って、向こうで就職する。また、遊びに来るからさ。なっ。」

健斗はそう言って尊人の肩に手をかけたが、尊人の顔を見ることができず、すぐに去った。そして、既にまとめてあった荷物を持ち、家を出たのだった。あまりに呆気ない別れだった。尊人は呆然とし、黙って涙を流していた。未来は何も言わなかった。

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