第19話 誘拐~宣言2

 尊人は、運転手と6人のスーツの男たちと一緒に、リムジンに乗っていた。そして、どこか廃屋のようなところに連れていかれた。尊人も一応武道のたしなみはあるが、さすがにこの男たちを相手に暴れる気はなかった。

「さすがKing。落ち着いているな。」

車の中で、一人の男が英語でそう言った。尊人は何も言わなかった。そして、これをチャンスと捉え、何とか我が国の国王制を無くす方へ持っていけないか、とそればかり考えていた。ただ自分が死んだのでは、機内で話していた通り、クローンを作られてしまうかもしれない。何か、良い方法は無いものか。

 廃屋に着き、手を後ろ手に縛られた。もう外は真っ暗である。だいぶ気温も下がった。リムジンはどこかへ行った。運転手は雇われただけなのかもしれない。スーツの男たちは、順番にスーツから民族衣装に着替えた。ターバンを巻いて、猟銃を手に持っている。

「私をどうする気だ。何が目的だ。」

尊人は口を開いた。リーダーと思われる人物が分かったからだ。尊人は椅子に座らされ、足を椅子に縛り付けられた。手はやはり後ろ手に縛られている。

「これから動画を配信する。お前の国に向けてメッセージを送るのだ。我々は身代金を要求するが、それだけではない。この国に拘束されている同志を解放してもらう。」

リーダーは言った。

「動画か・・・これは使えるかもしれない。」

尊人はつぶやいた。彼らは撮影の準備を始めた。こんな廃屋でも、いろんな機材がそろっているのには感心する。

「君たちが要求を述べた後に、私から母国語で説明しよう。我が国の国民は英語があまり得意ではない。国民に分かるように、私から話す。そして、君たちの要求が通るよう、説得しよう。」

尊人がそう言うと、リーダーはじっと尊人の顔を見た。そして、

「それはありがたい。そうしてもらおう。」

と言った。

 動画の撮影が始まった。LIVEだ。同時配信という事だ。まずはリーダーが、顔を隠して尊人の隣に立ち、彼らの要求を述べた。そして、尊人に話すよう促した。尊人は一通り通訳した後、いよいよ本題に入った。

「我が国の皆さん、このような事態になって申し訳ない。この国の政府にも申し訳ない。だが・・・。」

尊人は、ここで息を大きく吸った。

「私を見捨てなさい。我が国は、これを機に国王制を廃止する。前にも述べたように、我が国に国王は必要ない。民主主義国家に、国王は無用なのだ。私は自分で逃げる。国を背負って立つのはもうやめたい。」

そして、リーダーに向かって英語で言った。

「たった今、我が国は国王制を廃止した。私はもはや国王ではない。人質としてはあまり役にたたんぞ。」

リーダーはぽかんとした。まだ動画は配信中だ。リーダーははっとして、

「動画を切れ!」

と命令した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る