第5話 僕は異世界で彼女にランチを振る舞う

 昼休み、僕はなんとか特売のマグロカツサンドを買い、屋上で食べようとした瞬間、


『汝、我が求めに応じ現れたまえ… …』


 本日2回目の召喚だ。僕は入り口の物陰に隠れた。


『出でよ、ハルアキ!』


 次の瞬間、僕は川辺にいた。チヒロさんが困った顔をしてる。


「ハルアキ、お昼の魚獲ってくれない?私、こういうの苦手で」

「魚を獲ってくれって言われても、道具がないと… …」

「あなた、今魚獲るのにいいモノ持ってるけど」


 右手に目をやると、細長い槍を持っていた。ほのかに焼けたマグロの香りがする。僕は軽くため息をつく。


「何ため息ついてるの?糸と針は持ってるから、釣り始めましょ」


 僕はチヒロさんから糸と針をもらい、ふたりで釣りを始めた。しかし、なかなか浮きは沈まない。


「釣れないね、ハルアキ」

「そうだね。でも、魚獲るんだったら、鳥系の召喚獣の方が良かったんじゃない?あいつらそういうの得意そうだし」

「そんなのつまんない! やっぱり食事は楽しまないと。しかもカッコいい人と……」


 チヒロさんの顔が赤く見える。


「えっ?」


 僕は驚いて竿と化したマグロの槍を川に落としてしまった。すると、槍の周りで魚が飛び跳ね出した。


「うわー、すごいよ!ハルアキ、槍で魚突いてみたら?」

「わかった」


 僕はタイミングを見計らって、跳ねた魚の一匹を槍で突く。すると、魚が一瞬炎に包まれ、ほどよく焼きあがった。


「ヤバい、スゴすぎるよ、その槍!もっと獲って!」

「うん!」


 チヒロさんは興奮して飛び上がっている。槍の意外な効果に僕も驚いた。同じ魚類同士惹かれ合うのだろうか?そんなことを思いながら、僕は槍の先を川面に近づける。先ほどと同じように魚が跳ね出した。僕は槍で数匹突く。香りのいい焼き魚が次々と出来上がった。10分後、僕たちは十分な量の取れた焼けた魚を食べた。


「おいしいね」

「うん」


 マグロの匂いがするのが少し気になったが、僕らは焼き魚を味わった。


 10分後、


「僕、そろそろ帰るわ」

「え、もう?」

「いや、授業あるし… …」

「あ、そうだったね… …。いつも、ありがとう。またね」

「またね」


 僕は川辺から姿を消した。別れ際のチヒロさんの顔がどこか寂しそうだった。


 次の瞬間、僕は学校の屋上にいた。右手に握られたツナ缶をポケットに入れて、僕は教室に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る