第20話 たまには豪華な夕食会
すっかり話し込んでしまったという訳で、夕食を一緒に食べていかないかとの誘いを受けたローランド達は、マコとセラの強い希望もあり、その提案を受ける事にしたのであった。
アシュラッドの使い魔からの連絡を受けたミラも加わり、ローランド達は久しぶりの本格的な料理に在り付くことが出来た。
「ふむ! 旨い! やはり肉だな!」
「うふふふ。上のふたりはもう家を出てしまって、この家には男手が夫だけになってしまったから、ローランド君みたいな食欲旺盛な子を見ていると嬉しいわ」
がつがつとかっ込むように食事を進めるローランドに、夫人はそう言ってほほ笑んだ。
「ふむ、そう言えばマコは男兄妹の中で育ったと言っていたな?」
「そうだよー。兄さんたちは騎士の道を目指して人族領域に行っちゃったけどね」
マコは少し寂しげにそう微笑んだ。
「となると、この家の警備はどうなっているのですか?」
アシュラッドは目を光らせながらそう尋ねた。
「警備? その点は大丈夫よ、定期的に衛兵が見回りに来るようになっているわ」
「アシュラッドさんは心配性ねぇ」と夫人は笑いながらそう言った。
「なにぶん、性分なもので」とアシュラッドは頭を下げつつこう続ける。
「ですが、この家には可憐な女性が3人も居る事になります。せめて祭りの期間だけでもそれを強化してい頂いた方がよろしいのではないのでしょうか?」
アシュラッドが心配しているのは新18条の事だ。正の意味でも負の意味でもラプラスの箱をよりどころにしている者たちが存在する以上、それを発表することは、どのような反発を招くのか計り知れない事だった。
その中でも気になるのはかつて大規模なテロを起こした純血派と呼ばれる過激派だ。
その構成員の大部分は逮捕されたが、生き残りは存在しており、虎視眈々と機会をうかがっているという噂もある。
死ぬほど陰気なオーラを漂わせているが、きちんと背筋を伸ばし笑みを浮かべれば、まれに見ぬ美丈夫であるアシュラッドである。そんな彼にそう言われたら、悪い気がするはずもない。
三人、特に彼の教えを受けているセラは顔をリンゴのように赤らめた。
「大丈夫よ、アシュラッドさん。そのあたりもちゃんと考えてあるわ。祭の期間中は警備の増強をお願いしておりますわ」
「それならばいいのですが」
頬を軽く紅色に染めた夫人の言葉に、アシュラッドは軽く胸をなでおろした。
と、マコは彼女の正面に座る、ローランドへ、何かを訴えかける様な瞳を向ける。
そのキラキラとした瞳に、ローランドは取りあえず胸を張り。
「安心しろ! 余がお前を守って見せる!」
と、いつのもセリフを満面の笑顔で言ってのけたのだった。
★
「いやーすみませんねぇウチの男たちが」
よそ様の家の女性たちを、無自覚の内にころりと転がしている主従を目にし、マコは隣のメイドたちにそう呟いた。
「いやー、良いじゃないですかー、男前のアシュラッドさんに、可愛らしいお坊ちゃま、両方そろってる職場なんて、ミラさん大当たりですよー」
「あははー、まぁ色々と苦労も山盛りですけどねー」
具体的には金銭面。家計を預かるミラとしてはわりと地獄のような日々である。
「えー、でも聞いた話によれば、ミラさんってお坊ちゃまとご一緒に就寝されているとか?」
「あははははは。いや、スペースの都合でね、スペースの……決して他意はありませんよ?」
「えーなんですかそれ! 羨ましい! 私もセラ様と一緒に眠りたい! 抱きしめたい! 頬ずりしたい!」
と、メイドはメイドで色々な妄想に花を咲かせていたのだった。
★
ところ変わってバーミリオンの邸宅では、生徒会の秘密会合が行われていた。
「お父様の話によれば、例の法案が可決されることがほぼ内定してしまったようですわ」
バーミリオンの父親は、エシュタット評議会の重鎮であると同時に、マコの父親とはライバル関係にあった。
血筋を何よりも重んじる貴族派の筆頭としては、新18条などと言う雑種の地位を認める条文には断固として反対の立場であったが、今回は議長の粘り勝ちという結果になってしまったのである。
「なるほどねぇ、それで最近ピリピリしてたのね貴方」
「あははははー。みりっちってば分かりやすいとこあるからねー」
ふたりは他人事のようにそう笑った。
「笑い声ごとではありませんわ。このままでは、栄光あるエシュタット記念学園に、あの山猿のような半端者が押しかけて来る危険性もあるのですわ!」
「あははー。ろらんっちはお猿さんと言うよりはトカゲさんって感じだけどねー」
「どちらでも構いません!」バーミリオンはキッとゴールディを睨みつけると、話を続ける。
「我がエシュタット記念学園は、本来上流階級にのみ開かれた、次代の都市運営を任された者たちの学びの園であったはずです。
バーミリオンは拳を握りしめそう語る。
「うふふふ。それは建前で、本音は議長の娘が羨ましいだけじゃないの?」
ワイトは妖艶な笑みを浮かべてそう語る。
「誰があんな躾のなって無い小娘の事を気にしますか!」
「あははははー。マコちゃんって公衆の面前でろらんっちに抱き付いたりしてたもんねー。
わたしあのままキスでもしちゃうんじゃないかってワクワクしてたよー」
「不純です! 話にならない!」
バーミリオンは顔を赤らめながらそう言った。
「うふふふ。相変わらず顔に似合わず
「貴方たちが性に奔放すぎるだけです!」
バーミリオンは柳眉を逆立てながらそう声を張り上げる。
「あははははー。まぁみりっちをからかうのはこれくらいにするとしても、やっぱり時代の流れってのには逆らえないんじゃないのー」
「そうねぇ、この都市のお題目は共存共栄。ある意味ではそれを最も象徴する存在と言っても過言では無いわよねぇ」
そう言って肩をすくめるふたりに対し、バーミリオンは肩をいからせながらこう言った。
「貴方たち、それ本心で言ってますの?」
「まっさかー、何処の馬の骨とも分からない雑種と机を並べるなんて反吐が出るよー」
「そうねぇ、雑種がひしめき合う都市なんて気持ち悪い。そうなったら私は他所へ行くわ」
ふたりは笑顔でそう言った。
ふたり、いやこの三人は、名のある貴族の出である。
それはすなわち、300年大戦でそれ相応の血を流した家系という事。その恨みが高々20年そこらで晴れるわけがないのだ。
表面上は仲良くしているが、それはスリルを楽しむ遊びの様なもの。
この街に来たのだって、来たくて来たのではない。新たな流れに乗り遅れまいと各陣営から派遣された斥候、あるいは生贄の様なものだ。
一皮むければ、ドロドロとした悪意がヘドロのように積み重なっているのである。
「ねぇバーミリオン、純血派の動きはつかめてないの?」
「なにやらこそこそと準備をしている様ですが、こちらにとって都合の悪い事では無いので放置しておりますわ」
バーミリオンはワイトから向けられる、柔らかな殺気を無視してそう微笑んだ。
「そう、それは賢明ね。彼らがあの日のように大きな花火を打ち上げれば、人魔共存などと言う絵に描いた餅は燃え尽きるわ」
「そうだねー。やっぱりふたつの種族は何もかもが違い過ぎるよー。一緒にやるなんて無理の無理無理。それを学ぶのに愚かなわたしたちは20年かかったって事かなー」
そう言ってふたりは涼やかな殺意を向け合った。
「ふん! ふん! ふん! ん? 何だ? 話は終わったのか?」
われ関せずと、筋トレに励んでいたスティールは、二本指で逆立ちしたまま三人の方へと振り向いた。
「……なんでアイツを呼んだのよ」
「いえ、一応彼も生徒会の一員ですし」
「あははー。すてぃるっちは平和でいいよねー」
三人娘は色々と馬鹿らしくなり、へなへなと肩の力を抜いたのであった。
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