第29話 クラウディアの偽物

そして俺は数日後に国内だけに正式な形で発表をした。

するとパレードは行われなかったがやはり街は一層どんちゃん騒ぎになったし王宮内でも貴族から娘を引き連れ挨拶に来る者も多くなった。婚約者がいるというのに!


「うちの娘をどうか将来の側室に!!」

という輩がひっきりなしに現れて俺は疲れた。


隙を見て一人でちょっと休憩していると控えめにノックされクラウディアが入ってくる。


「お疲れのようですね…ジークヴァルト様…」


「んん…人が多いのは苦手かも…」


「可愛らしい方はいました?王子の将来の側室になりたい方は多いのでしょう?」


「そんなもの置く気はないよ…」


「先程…私のグラスに早速毒が入っていたようですわ…」

それに俺は仰天した!


「なっ、何?大丈夫か?クラウディア!!」

するとにこりと笑いクラウディアは


「私を亡き者にしようとする者が早速現れましたわね…私はほんの少しだけ口に含みすぐにハンカチに吐き出しましたの…後で調べると毒が検出されましたわ。他人から渡されたものを素直に口にするものではありませんわね…王子も気をつけてください…」


「そんな…そこまでするのか!?」


「それはしますわよ……もしかしたら王子の飲み物にも何か入れて眠った隙に…その…いやらしい事をする娘が出てもおかしくありませんのよ?」


「それは…既成事実作りか!?酷い!」


「そんなものですわ…奇跡の力を求めて権力争いなども起こり得ます」


「今日は何か飲みましたか?」


「果物や水を少し…酒は飲めないし…」

するとグニャリと視界が揺らいだ。

!?


「ふふふ…王子…やはり油断はするものではありませんわね…」

するとクラウディアだったものが姿を変えた!

そして誰かは覚えていないが側室にと紹介された娘の中の一人に思い至った。


「お前はっ…」


「おほほ…私イゾルテ・ヴァイグルという辺境伯爵が娘です。先程挨拶しましたわ。殿下。私は変身能力を持っていますのよ…。ですから…殿下がクラウディア嬢をお好きならば…」

とイゾルテ嬢はまたクラウディアに姿を変えた。


「この姿で殿下と既成事実をお作りになるのもいいかもしれませんわ…殿下の子を先に宿してしまえば…ふふふ」


「ふざけるな!…俺は本物のクラウディアを愛してるんだ!」

くそっ!視界が!


「ふふふ!先程毒の話をしましたでしょう?本物はもう倒れているのではないでしょうか?」


「おっお前!クラウディアに毒を!?」

しかし俺はもう立つこともままならない。

クラウディアの偽物が俺に迫り、ソファーに押し倒す。くっ!


クラウディアー!助けてーー!!


すると扉が切り刻まれ俺の知ってる赤い髪が偽物クラウディアに巻き付いた!


「そ…そこまでですわ!」

クラウディアは息を乱して入ってきた!ヒロインも隣りにいて


「私を差し置いて偽物如きが側室狙いですの?甘いですわね!」

とレーナ嬢は偽物の腹を殴った。


「ぐえっ!」

と潰れたカエルの鳴き声がして変身が解けて床に倒れる女。


クラウディアは髪を切り、ヨロヨロと歩いた!


「ちょっと鮮血姫大丈夫?あんたも毒飲んで…」

そんな…やはり毒を!クラウディアそんな状態で俺を…うっ…

俺も視界が揺らぐ。クラウディアが俺の方に倒れ込んで…意識はそこまでだった。



気付くとクラウディアと二人またあの神殿にいた。


「あ…ここは…女神様の…」


「クラウディア!毒を飲んだのか?」


「殿下こそ…飲み物に何か…」

今ここは精神世界らしいから毒なんかの影響はないが…


「私はきっと大丈夫ですわ…」

いや毒飲んでそんな!

とそこで


「あらあら大丈夫?可愛い私の民!毒なんか飲まされて可哀想に!」

いや俺は無視ですか?


「君はただの眠り薬ですはい!」

あっ…そう…。


「本当に不甲斐ない王子で泣けますはい!しかも偽物婚約者にどーてー奪われようとしてたなんて情けなくてはい!お前がヒロインですか?はい!」


「ううう!うるせええ!変身能力持ってる女がいるなんて思わないだろうが!!」


「では私と気付かねばあの場で王子は!!」

クラウディアがちょっと怒った。


「うぐっ!いや、いやいや!そんな!クラウディアはそんな子じゃないから!超純粋だし!」

女神はボロボロ流した涙を小瓶に入れて渡した。


「何だこれ?あんたの涙?きたな…」

と言うと殴られた!


「神聖な女神の涙を汚い言うなはい!クラウディア…それは解毒剤ですはい。起きたら身体が毒で動かないのでそこのアンポンタンに手伝ってもらいなさい!いいですねアンポンタン!私の可愛いクラウディアを助けるのです!ちゃんと口移しで飲ませるのですはい!」


「「えっっっ!!?」」

口移しと聞き急に恥ずかしくなる俺とクラウディアだが女神は


「じゃあねじゃあね!さっさとしないと本当に死んじゃいますよ!はい!」

と言われて視界は白くなる!


目を覚ますと美しい少女が目の前で俺の手をガッチリ握り白い顔を蒼くして苦しそうに汗をかいている。


「クラウディア!!」

俺は起き上がり握った手を解くと手の中に小瓶があった!


「ああ、起きたんか…、さすがに鮮血姫死ぬかもと思ってベッドにあんた達を運んどいたよ…なんか知んないけどさ?その手全然離さなかったし。私の馬鹿力でも無理」


「レーナ嬢…医者を呼んでくれ」


「…もう助からないかもよ?」


「そんなことはない!女神から毒消もらったから!それより早く呼んでこい!」


「ちっ!判ったよ!今度絶対金持ち男紹介しろよ!!」

とレーナ嬢はあの偽物令嬢を引きづり部屋から出て行った。


ベッドの上では苦しそうなクラウディアが。

俺は小瓶を口に含んでクラウディアに口移しで飲ませた。

一瞬ビクリとしたが暴れないよう押さえて全部飲ませた。苦しいだろうが少し我慢してくれ…。


ゴクリと喉を通った音を確認して見守った。


しばらく過呼吸をしていたクラウディアはようやく静かになり薄ら赤い目を開けた。


「クラウディア…今医者を呼んでるから動くなよ?」

と俺は毛布をかけ部屋の洗面台からタオルを絞り額に置いた。


「ジークヴァルト様…解毒を…?」

側の空の瓶を見てほのかに頰を染めるクラウディア。


「ごめん!だってあの女神が早くしないと死ぬと言っていたし!!元気になったら殴っていいから!」


「そんな…こと…致しませんわ…」


「いつも元気なクラウディアが弱ってるとなんか凄く心配だよ!」


「ご心配をおかけしました…もし…よければ…手を…」

と白い指が伸びて俺はそれを優しく包み込んだ。

しばらく俺たちは何も言わずに見つめあった。

クラウディアの赤い目も綺麗だ。

この子が死ななくて本当に良かったと思う。

そこでユリウスくんとアルバン先生が飛び込んできた。

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