第24話 いろいろぶっちゃけた

「あの…何度も言うけどクラウディアは俺の婚約者ですので譲れません!」

 俺がきっぱり言うとクラウディアは白い頰を赤に染めた。


 全く何でこんなことに!?これじゃあ銭ゲバヒロインに押し付けるどころか、クラウディア人形さえも売り込みたくない!


「ほう?それではジークヴァルト王子!クラウディア嬢をかけて決闘しようではないか!」


「け…決闘!?」


「勝った方が彼女の婚約者の座に収まろうじゃないか?」

 何なのこいつは!人の婚約者を勝手に好きになり勝ったら寄越せって勝手過ぎんか?


「大体君達は婚約者と言えども政略結婚だろう?風の噂で聞いたぞ?大層傲慢な王子がいるとな…?

 クラウディア嬢が幸せになれるわけがない!」

 くっ!確かに以前の俺は傲慢でだらしなくブクブクした豚だった。クラウディアも実際その頃の俺には見向きもしなかったろう。


 だが今は違う!と思う!少なくとも好かれてはいるはず…。…しかし突き飛ばされたり、頭から叩きつけられたりもしたな…あれ?大丈夫かなこれ?


「クラウディアが幸せになれるかなんてお前が決めることでもないだろう?」

 そんな言い合いをする俺たちに周りが騒然としだす。


「何だ何だ?」

「決闘だってよ!ジークヴァルト様とニコラウス様の!」

「面白いではないか!」


「どうやら目立ってしまったようだな…。決闘は明日の昼!訓練場でいいだろう…もし逃げたらクラウディア嬢は私のもの…」


「逃げるかよ!首を洗って待っていな!!お前なんかにクラウディアは渡さん!」

 つい売り言葉に買い言葉で引き受けた。めっちゃ後悔した。だって俺剣もまともに振れないのに!毎日豆できるほど振ってるけど上達しない!!剣の才能皆無の俺の負けが見える!そしてクラウディアがこのヤンデレに取られて国に連れ帰られ鎖で繋がれてあんなことやこんなことをさせられると想像すると…


 とそこでにこにこ顔のクリクリした銭ゲバヒロインがとんとんと肩を叩いた。


「ジークヴァルト王子様…お話があります」

 笑顔の下に般若が見える。ひっ!決闘する前にこいつに殺される!!


「ええ…?」

 青ざめるとクラウディアが


「ジークヴァルト様に何の御用ですの?貴方また王子に誘惑するつもりでは?」

 とクラウディアが怒りに震えていた。


 しかしそこでニコラウスがしつこく


「クラウディア嬢…もっと君と話がしたいのだ!あちらで語り合おう!」

 とクラウディアの手を取るので俺はその手をバシッと振り払いクラウディアをバッと抱き抱えその場を逃げ出した!


「き!貴様!待てこら!クラウディア嬢をどこへ連れて行くのだ!」

 と追いかけてくる。


「ジークヴァルト様ああ!お待ちくださああい!お話があると言ったでしょおおお!?」

 にこにこ顔で般若から阿修羅像になったレーナも追いかけてくる!!

 捕まってたまるかあああ!俺はなぁ!

 日々の筋トレとランニングのおかげで足だけは速くなったんだ!!

 と猛ダッシュで奴らを撒いて一つの部屋に入り内側から扉が開かないよう念のためドレッサーを移動させておいた。


 はあはあ…


「ジークヴァルト様…大丈夫ですか!?」


「大丈夫…当分あいつらが諦めるまでここに…」

 おおっ!!?俺は今二人きりなことを思い出した。どうしよう!?またクラウディアが俺を気絶させたら…。クラウディアは俺のこと嫌いなのかな?婚約者だから仕方なく一緒にいるとか…!?


「いえ…明日の決闘です…」


「え…あ…」

 決闘…まずいいいい!明日決闘だしいいい!前世でも不良に絡まれたらあっさり財布を渡していた温和なこの俺が喧嘩するとか無理だし!決闘って剣持ってするやつだよな?ジャンケンじゃダメかな?ダメだよね?ジャンケンなら勝てる気がする!


「そのご様子では何も考えてなく見栄を…ニコラウス王子は…闇の能力をお持ちとの噂ですわ…どんな力かは知りませんが」


「闇の力…ヤンデレにぴったりだな!」


「ヤンデレ?」


「いや!こっちのこと!」

 するとクラウディアはまたブスっとして


「それで?またレーナ嬢と二人でなんの内緒話を?やはり秘密ですのね?」

 まずい!クラウディアははっきりしないことが嫌いだたぶん…。


「…判った…話す…もしかしたらクラウディアは信じないかもと…クラウディアだけじゃなく他の人も戯事だと言われるかと思って話せなかった…俺とレーナ嬢は…転生者なんだ…」

 俺は覚悟を決めて言う。


「転生者…」

 クラウディアは綺麗な赤の瞳で見つめた。


「なんていうかこことは違う別の世界で一回死んで魂がこの世界に移動して身体に入った。それがこの王子だったの。記憶を失ったとか言って悪かった…。転生は女神ザスキアがしてくれたんだ…」


「…そんな…ではあの豚王子の魂はどこに?」


「え?そ…それは知らないけど…今度女神に聞いてみるか…」

 そういや元の豚王子ってどうなったかなんてよく解らない。ライトノベルでもいつもその辺はぐらかされてる気がする。


「つまり…貴方は中身は王子の偽物ということですのね!?だからあんなに変わって!!」

 クラウディアが何とも言えない顔になる。

 そりゃ騙してたようなものだしな。


「………クラウディア…でも俺は…」


「とにかく!お話はよく判りましたわ!レーナ嬢もその転生者とやらなんですね?」


「ああ…そうみたい。あんまり詳しいことは知らないけどそんなかんじ」


「…あの豚王子の方の人格が出てこないなら私はこのまま貴方の婚約者でいますわ!でも出てきた時は婚約解消します!」

 余程嫌われていたんだな前の豚王子。


「…あ…それでは王子が変な歌歌ったのは私を馬鹿にしていたんじゃありませんのね?あれは記憶を失って…貴方がその身体に入ってからになりますわね」


「うっ…そそそ、そうだよ!あれはその前世…死ぬ前の俺の世界で流行っていたラップと言う独特の歌い方で魂込めて相手に伝える歌い方というか…そう言うのが好きだったからだ…この世界じゃ馬鹿にしたように見えて当然だった。まだ転生したばかりだったしあの頃…この世界がどういうものか知らなかったんだ…レーナ嬢は俺よりもこの世界のことを知ってるからさ」


「そういうことでしたの…あの変な歌…」

 そりゃまぁ変な歌だわな。この世界の人間からしたら。

 俺がしょんぼりしているとクラウディアが


「それは置いておいて…決闘はどうするのです?まともに剣もできないのに…このままでは私はニコラウス王子の婚約者としてアルデンに行かねばならなくなります!」


「そんなのヤダ!クラウディアは俺が嫌いなの?ニコラウス王子の方が好きなの?あいつヤンデレだよ?」


「ヤンデレってなんですの?」


「ヤンデレってのは…好きな相手に執着し過ぎて相手が望んでいないのに自分の好意を無理矢理押し付けることだ。例えば一生自分の元に監禁してお世話したりする。相手が嫌がっていても気にせず好意の裏返しと取り尚も逃げられないようにしていく独占欲と嫉妬で常に相手に恋愛感情を向けてないと精神が病的に不安定になり、何するか解んない奴のこと」

 と説明したらクラウディアの顔がさっと歪んだ。


「…そんな恐ろしい意味だったのですか!?相手は王子ですし私が手を出すこともできませんし…」

 クラウディアは悩んだ。


「…クラウディアは俺と婚約したままでいいの?」


「…わ…私は今のジークヴァルト様の方が好きなだけですし!そのヤンデレという王子の所には行きたくありません!」

 まぁそりゃそうか。俺が女でも傲慢な豚は嫌いだしヤンデレもごめんだわ。俺の方がマシってことね。


「本当ならレーナ嬢がヤンデレ王子とくっついてくれれば良かったんだが…レーナ嬢が俺を諦める代わりにヤンデレ王子を紹介しろってのがホワコンの協力の見返りだったんだ」


「まぁ!あの女!そんなことを!!というかレーナ嬢はそのヤンデレ王子でも構わないの?大丈夫なの?私なら怖くて無理ですわ!」


「いやあいつは変わってんだよ!クラウディアの反応が普通!金持ちで顔が良けりゃなんでもいいっていう奴なの!」


「まぁ…ある意味凄い方ね…」

 クラウディアは呆れた。

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