第16話 真っ赤なキス

クラウディア達が闘い始めて30分くらいが過ぎた。湖での殿下を見ると浄化が丁度半分くらい進んでいる。ジークヴァルト様はまるで神宿りでもしたかのように白く輝き異様に美しいと感じた。


「78!」


「76!!」

私とレーナ嬢は酷い悪臭の中闘い続けている!


「流石に…キツいですわね…」

汗が額から落ちる。


「まあ!クラウディア様!この程度でバテてるなんて!私が王子のキスを貰うのはもうすぐですわ!」

この女!!なんて図々しい!殿下は私の…。


わ…私の…何かしら?婚約者よ?もちろん?

でっでも…殿下は…ジークヴァルト様は…。

そこまで考えて異様な音が聞こえた。


ドスンドスン。


近づいてくる。


「レーナ嬢聞こえるかしら?大物よ?」


「そうみたいですねぇ…小さいのが逃げ出していきますわ!」


「なっ!なんなんです?お嬢様あ!」

ヘンリックが情けない声を出し震えた。


これはたぶん…魔物が進化した…ものだわ…。

肉塊が形を成したより強い魔物…。

第二形態のダモン!!


「ダモンですわぁ!あれは肉塊100体と数えませんこと?クラウディア様ぁ!」


「つまりどちらが早くダモンを倒せるかで勝負は決まると言うことね?」


「その通りですう!」

とレーナ嬢は拳に力を込めている!

負けるわけにはいかなくてよ!

私は髪の毛を一本に集めて巨大な斧にする。

奴の首は私が貰いますわ!!


ダモンは二足歩行の巨大な体躯に肩から翼の様なものが生えていて飛んだらお終いだわ。私はまず回り込み翼を一つ切り落とす!


「ごあああっ!」

と叫ぶダモン。怒りでこちらに巨大な拳を振り下ろす!当たればミンチですわ!

しかしその拳をレーナ嬢の小さな拳が受け止めなんとダモンの拳から血が吹き出した!


「ごあああっ!」

またダモンは痛がり離れた。


ヘンリックとフェリクスはそれを見て


「やっぱり女って怖いですね」


「そうですよね…でもまぁ…我々も従者としてお嬢様が危険になると能力を使わざるを得ませんけど」


「私はあの怪力の援護なんてしたくないなぁ…フェリクスさんどうぞ」

とヘンリックが譲った。


「いやいや、あの方は殿下の婚約者ですから私がサポートに。ですのでレーナ嬢のサポートはヘンリックさんがどうぞ」

とフェリクスも譲った。


「いやいやどうぞ」


「いえいえどうぞ」

と二人はどうぞどうぞと言い合い、ダモンがこいつらなら勝てるとふんだのかこちらに向かって大口を開けてきた。


「「あ!」」

二人はそれに気付いて咄嗟に能力を使う。

ヘンリックは瞬きで一瞬だけ相手の動きを止める能力。対象が視野にいないと発動不能。味方を巻き込む可能性がある為滅多に使えない。

だが、今はダモンしか視界にいなかったので止めることができた。


フェリクスは爪を獣のような鋭利なものに変える能力で止まっている隙に素早くダモンの後ろに回り込み足の腱を切り裂いた。ダモンは倒れ、レーナ嬢が


「留めは私よおお!!」

とこちらに全速力で走ってくる。

フェリクスはそれにヒョイと足をかけて転ばせた。


「ふぎゃ!!」

レーナ嬢がすっ転びその頭をクラウディア踏んで跳躍した。


「お嬢様!!今です!」


「頑張れクラウディア様!!」

言われなくても解ってるわとクラウディアは髪の毛を先程よりも大きな斧に変え倒れている巨大なダモンの首を斬り落とした!


瞬間かなりの血飛沫をクラウディアとヘンリックとフェリクスが浴びた。

もはや全身真っ赤だ。

そして臭い。


「うへえ……もう嫌…」

ヘンリックは泣いた。


「しかしそろそろ1時間…」

フェリクスが湖を見ると浄化が終わり湖が白く光り輝いていた!


殿下がこちらを見て


「うっわ!お前ら真っ赤じゃん!!湖で洗えよ!」

と言った。

ヘンリックが


「失礼しまーす!」

と一刻も血を洗いたくて光り輝く湖に手を入れるとジュワッと血が一瞬で消えた。


「おお!すご!」

これはとヘンリックは全身ザブリと浸かった。血はまた消えた。


「まあ…」

フェリクスとクラウディアも驚いた。


「流石王子様ー!私もすぐそちらにぃ!」

と湖に入るレーナ嬢をフェリクスが頭を抑えて


「お嬢様!早く!!勝負はお嬢様の勝ちです!!」

はっとそれに気付いたクラウディアはザバリと湖に入っていく。まだ顔をつけてないので血が頭からベッタリだ。


「クラウディア!!?大丈夫か!?真っ赤だぞ!!」

とバシャバシャ慌ててこちらにジークヴァルトが駆け寄った。


「殿下…勝ちました」


「怪我は?」


「大丈夫です…」


「でもそんなに真っ赤では!早く血をあらっ…」

クラウディアはジークヴァルトに抱きつき口付けた。


するとクラウディアに付いていた血がサラサラと浄化された。

遠くから見ていたヘンリックとフェリクスは


「「凄い…本物だ」」

と奇跡を目にした。


俺は今美少女にキスされている。

クラウディアにキスされ一瞬光り、彼女についていた血が消えていった!

これなんなの?俺の力なの?

いや、そんなことよりっ…。


クラウディアは唇を離すと顔を真っ赤にした。

たぶん俺も真っ赤だろう。


「クラウディア…」


ガボッ!!


と顔を水から上げるレーナ嬢は


「あーーーっ!ここここの卑怯者おおおお!!私と王子がキスするはずだったのにいいいいいー!!」

とギリギリと睨んだ。


ん?

こいつ…。


まさかとは思うが…俺と同じ…転生者なのでは??

そうだとしてもおかしくないな…。


しかし側に倒れてるデカイ怪物を見て俺は


「うわっ!なんだこいつっ!!悪魔か!?」

肩羽は斬り落とされ首もゴロリと転がってるけど、ゲームなんかで出てくるような悪魔みたいな怪物だ。


「これはダモンです。肉塊が進化したものです。ダモンにはいろいろな形態がありますがこんなに大きなダモンを見たのは久しぶりですわ」

とクラウディアが言う。


「ダモン…悪魔……んん…デーモン??」

なんかの訛りか!?


「それより髪の毛伸びすぎだよクラウディア…」

彼女は闘いの為に頑張ったのだろう…。


「あら失礼を…」

と彼女は髪を剣にして切った。


「あっ!!勿体ない!」

俺は切られた髪をかき集めた。

ヘンリックもフェリクスもレーナも驚いて見ていた。


「殿下…その髪…」


「何?これで俺は国を潤すんだ!無駄にはしないさ!」

と言う。

俺はクラウディアに手を差し伸べ彼女はそれにうなづき手を繋いで森を出た。


後ろでブツブツと暗い目でレーナ嬢が


「どう言うことなの?まさか…王子も…?」

と勘付いているようだが無視した。


気付かれたところでどうにもできないだろう。

例え前世を黙っている代わりに婚約しろと迫られても俺は逃げる。


俺はもうクラウディアが好きだから。

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