【田町駅】

 電車が田町駅に到着した。相変わらずポケモン野郎はスマホに夢中だ。電車が停車と同時に少し緊張が緩んだのか、ポケモン野郎の肘はヒロシ脇腹から離れていた。ヒロシの怒りも少々沈下しかけたが・・しかし、電車が発車すると揺れに合わせて再び何度も肘の当たりが始まった。そして何度目かの後、ポケモン野郎の肘はヒロシの脇腹にあたったまま圧がかかりっぱなしの状態になった。


怒りが込み上げてくるヒロシ。


 山手線の新駅ができる予定である豪徳寺付近・・高崎ゲートウェイ駅の予定地のあたりを電車が通過する時だった。電車が急減速し、これまでの中で一番の揺れが起きた。立っていた上客は思わずつり革を強く握りしめ身体が傾く。それと同時に・・、ヒロシの脇腹に圧がかかっていたところへ、さらに・・これまでで一番強くポケモン野郎の肘がのめり込んだ。

ヒロシ、

「うっ!」


ヒロシが呻いた。それと同時に、ヒロシの頭の中で音がした。

「(カチン! フザケンナ!)」


ヒロシは、キッと左のポケモン野郎に向いて、

「□×△※*#★!!!」

と、込み上げて来る怒りをぷちぶち撒けた・・・、いや、ぶち撒けようとヒロシが口を大きく開きかけた瞬間・・だった。

ポケモン野郎を挟んでヒロシの反対側に座っていたが乗客が叫んだのだ。

「いい加減にしてくださいっ! ゲームをやるのは勝手ですけど肘が当たっていますよっ!」


なんと!、ポケモン野郎を挟んでヒロシの反対側に座っていたが女性が叫んだのだ。

一瞬にして車内がシーンとして乗客が一斉に彼女を視た。ヒロシも彼女を視た。女性はビジネスウェアを小奇麗に着こなした20代と思われる。活動的な印象の女性だった。どうやらポケモン野郎はヒロシ側だけではなく両肘を広げてゲームに夢中になっていたようだ。


さすがにポケモン野郎は横から怒鳴られて、ギョッとした表情をしている。ところが「なんだ小娘か」と思ったのだろう。ポケモン野郎はムッとした表情に変わり口を開いた。


「あなたこそ、後から狭い所に座ってきてそんなこと言うなんて失礼じゃないですかっ」


なんとポケモン野郎は開き直った。

今度は乗客が一斉にポケモン野郎を視た。女性も強気で互いに睨み合っている。

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