◆第28話 何で陸が?!香南ちゃんはめられる☆
デパートを出た所で氷のように香南の体はかたまった。
その原因は。
入り口で陸が壁にもたれて立っていたのだ。
どうして彼がここにいるの?
いつもシックな出で立ちなのに
こんなちゃらちゃらした香南の格好絶対見られたくない。
ギャップがあって笑われるに決まっている。
香南がこっそり回れ右しようとするところ、がっしり桃子に両肩をつかまれた。
「あら~どこ行くのかしら?香南ちゃん」
陸はこちらに気がつくと手を上げて近づいて来る。
「ご苦労様、これお願いね」
おばさんは買い物袋を息子に渡してる。
「荷物が多くなったから、迎えに私が呼んだのよ」
いつの間に電話したんだろう。全然気づかなかった。
「ちょっと買いすぎじゃないのか」
陸は荷物を持ち両手が塞がると顔をしかめている。
「女性は男とは違うんだからこれくらい普通よ、
これくらいで文句言ってたら陸君女の子と付き合えないわよ」
「余計なお世話だ、まったく」
桃子と冗談めかして会話していた彼の視線が香南のほうに向いた。
ひっと悲鳴をあげそうになる。
逃げようにも隠れられる場所はない。
こちらを見てお、というような顔をした。
おばさんが回りこんできて香南の斜め後ろに立ち、
両肩に手を置いてくる。
「香南ちゃん可愛いでしょう」
「・・・・」
陸は黙ったままじっとこちらを見ている。桃子があおる。
「女の子が頑張っておしゃれしてるんだから、何か言ってあげなさいよ」
「ご、誤解しないでっ。これはおばさんと桃子に
強引にすすめられたから着てるだけで・・
じ、自分で好んでやってるわけじゃないからっ」
しどろもどろになって弁明する。
まじまじと上から下まで陸に見つめられる。
足ががくがく比喩でなくほんとに震えた。
ああ、笑われる。耳を塞ぎたい。もう駄目。
彼は一つ大きく頷くと口を開き、淡く笑みを浮かべて。
「ああ、すごく似合ってるよ。可愛いんじゃないかな」
「?!」
ほめられた?陸に・・。
予想だにしなかった彼のリアクション。
なんたる不意打ち。
みるみる顔が羞恥の色に染まっていく。
こんなのってない。
まだからかわれる方が何倍もましだ。
「でしょう?惚れちゃった?彼女にしたいって思うわよね」
「・・・・っ」
「御嫁さんにしたいわよね」
「もういいかげんに変なこと言うのやめてください!」
おばさんと桃子のおちょくり猛攻にたまらず香南は声をあげる。
陸も香南みたいな女と無理やりカップルなんかにされたら迷惑だろう。
「二人共からかうのもその辺にしといてやれよ。香南が困ってるだろう」
「あら、お母さん真面目に言ってるんだけど、ねえ桃子ちゃん」
「そうですとも。大事な話をしてるんです」
「やれやれ」
陸はため息をついていた。
「僕はただ見たとおり、正直な感想を言っただけだ」
桃子がつまらなそうに口を尖らせる。
「相変わらずくそ真面目ね。陸君は香南のこと好きじゃないの?」
ぶっと噴出しそうになる、
おい!何を聞いてるんだ何を。
「あのな、嫌いだったら友達付き合いしてないだろうが」
「ふむ、うまくかわしたわね」
彼の言葉にほっとする反面。
なんだろうこの気持ちの変化。
肩から力が落ちてずしりと重くなったような感覚。
もしかしてがっかりしている?がっかりって一体何に対して。
陸に冗談でかわしてもらう以外のことを望んでいる?
別の答えを期待していたというのだろうか?
そんな馬鹿なことありあえない、と香南は自嘲した。
陸も香南と無理やりカップルなんかにされたら迷惑だろう。
はっとすると桃子が意味ありげな含み笑いをこちらに向けてきていた。
おばさんも香南に片目を閉じて合図を送ってきた。
ここにいたってようやく気がついた。
おばさんが何故内緒でやってきたのかも。
陸にめかしこんだ香南の格好を見せるのが目的だったのだ。
二人はグルでその計画にまんまとはまってしまったのだ。
策略に引っかかった自分も情けないが、仕掛け人の二人を恨めしくも思った。
悔しい、と香南は頭を抱え、しゃがみこんだ。
ショッピング街からそのまま、
ご一行は陸の家に行き夕食をご馳走になることになった。
今回は香南だけでなく桃子も参加した。
色んな疲れで家に帰りたかったけど、桃子もおばさんも許してくれなかった。
もうここまで来たら今日一日長いものに巻かれ続けてやろうではないか、
と諦めぎみで抵抗する気力も失せていたのが本当の所だった。
女三人キッチンに並んで料理を作った。
桃子は香南以上に我が家にいるかのように遠野家に溶け込んでいる。
おばさんと二人楽しげに声をあげて会話し、
場の雰囲気を普段よりも全然明るくしていた。
淡々と野菜を切っているとおばさんが
声を落して香南に囁きかけてくる。
「さっきのことだけどね、陸はああ言ってたけれど、
絶対香南ちゃんに無関心ってことないんだから」
だから落ち込まないでね、と。
心の中を察せられたようで動揺する。
「何言ってるんですか。落ち込むも何も私そんなこと気にしてませんっ」
桃子が聞く。
「ちなみにおばさんはどうしてそう思うんですか?」
「私の息子のことだもの。見ていたらわかるわ」
「う~ん、さすが陸のお母さん、説得力がありますね」
おばさんの言葉にいたく感心している様子だった。
二人勝手に話を進められ非常に不愉快だった。香南はそっぽを向く。
「陸も私もお互い何とも思ってませんから」
「もう、二人とも素直じゃないんだから」
「似たもの同士ですね」
「こんな調子じゃ、益々放っておけないわね」
「ですよね~。世話焼かないと私達おばあちゃんになっちゃいますよ」
「・・・」
おばさんらの会話についていけずもう香南は唖然とするよりなかった。
陸が香南のこと好きなわけないじゃないか。
大した根拠もないのにどうして香南達をくっつけたがろうとするのか。
彼女らの目は節穴なんじゃないのか。
反論してもからかわれるネタに
されるだけのような気がしてもう何も言わなかったけれど。
ダイニングテーブルに料理の皿が並べられ皆が揃った。
「いや~今夜は食卓に女子高生が二人もいてすこぶる華やかでいいな、
おじさんうはうはだよ」
陸の父は桃子と香南のことを大歓迎モードだ。
「鼻の下伸ばしておじさんてば、スケベなんだから」
「父さん、犯罪臭い発言すると二人に嫌われるぞ」
桃子と陸に突っ込みを入れられ、
いやまいったねとおじさんは頭を掻いた。
おばさんが白い目をして言う。
「いつも花がない食卓ですみませんね、あなた」
「ひい~っ!僕はゆうみさん一筋だから、誤解しないでおくれぇぇ」
おじさんが慌てたように
顔を青ざめさせ悲鳴じみて言うと、どっと皆が笑った。
いつも賑やかな食卓だが、桃子が加わって更に和気あいあいとしていた。
おばさんと桃子がよく喋り、陸とおじさんが時々話に加わる。
香南からはあまり話すことはなかったけれど、
よく話しかけられ言葉を返し輪の中に参加した。
相変わらず香南の家庭では考えられないような光景が広がっていた。
家庭というものの温かさがこれでもかという感じでびしびし伝わってきた。
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