◆第21話 陸君は香南ちゃんのことLOVE♡だと思うんだけど、どう思う?

 お昼時、皆お腹が空いたという事で食事にすることにした。


日曜日ということもあって食事処はどこも混雑している。




桃子と香南は四人がけの席を確保し、


陸とアンパンに四人分の食事を買ってきてもらうことになった。




「はあ~、目一杯遊んだからお腹ぺこぺこ」


椅子に体を預けて桃子が言う。




香南の方は空腹と人混みにいたための疲労が体を支配していた。


先に汲んできていた水を飲んで一息つく。




ずらりと並ぶ店先には長い行列が出来ていて、


陸達が戻ってくるにはまだ時間がかかりそうだ。




「ねえ、香南」




ふと、桃子が身を乗り出してくる。


幾分顔が真剣なものに見えて思わず少し身を引いてしまう。




何か変なことを聞かれるのではないかという予感がする。


こんな風に桃子が話しかけてくる時は大概ろくでもないのだ。




「な、何よ?」


列に並んだ陸等のほうを見やり聞いてくる。


幾分声が小さい。彼らに聞かれたら不味い話なのか。




周りのテーブルは人で埋まっていてるから、


普通に話しても問題ないと思うのだが。




「あなた、陸君とは小学生からの付き合いだったわよね」


そうだけど、と怪訝に桃子を見返す。




「香南は陸君のことどう思う?」


「どうって?」




「異性としてどう思ってるかよ」


「何でそんなこと聞くのよ」




相手の出方を探るように慎重になる。


「いやね・・・・」




桃子は一つ小さな咳払いをする。




「ここだけの話だけど・・陸君ってさ、香南のこと好き・・ラブだと思うのよね」


「――」




水を喉に詰まらせせき込む、持っていたコップを落としそうになった。


「あ、あなたねぇ、いきなり何を言い出すのよっ」




思わず憤慨して非難するが構わず桃子は話を続ける。


「今までずっとあなた達のこと見てきて、思ったのよ。


これは絶対香南に気があるぞって」




まさか、ありえないわと香南は手を振って否定する。


「というか、どうしてこんな話になってるわけ」




「私だって女の子なんだから。恋の話だってしたいじゃない」


心底楽しそうに桃子は笑っている。むっとして言い返す。




「どうせ私達のことからかいたいだけでしょう。魂胆みえみえなんだから」


「違うったら。疑り深いわねぇ」




桃子がしなをつくっている。


香南は呆れ気味にため息をついた。




「でもまあ・・あの陸が、私のこと好きだなんて・・・・


天と地がひっくり返ってもないと思うわよ」


きっぱりと否定。これは本心だ。




「わからないわよ~。ちなみにどうしてそう思うの?」


「私なんかと陸じゃあつりあわないでしょう。


 彼ならもっとまともな女性と付き合うべきだと思うわ。自分で言うのもあれだけど・・


 私みたいな変な女じゃなくてね」




香南が陸の立場だったら、間違っても


自分のような変わり者の女を好きになんかならない。




香南といるのはただ陸が、世話好きのお節介だからだろう。


陸の態度はどれをとっても香南にとって保護者めいている。




「謙遜しちゃって。確かにあなたは普通の女性の規格から少々外れてるけれど・・


でもだからって自分を卑下するようなことは言ってはいけないわ」




いつも陽気そうな彼女にしては真面目な意見に少々驚く。


「香南は充分魅力的な女の子よ」




「・・・・またそんなお世辞言って、私をおだてても何にもならないんだからね」




香南の体がかっと熱くなる。


嘘でもどうしてそういう恥ずかしいことが平気で言えるのか。




顔を逸らして憮然と言うと桃子はもう、


素直じゃないんだから、と笑っている。




「陸君はさ、ああいう真面目な質だからなかなか


好意を持っているようなそぶりを見せてくれないけれど、


心底では香南のこと大事に思ってくれているわよ、きっと」




そんなことを言われても香南は頷く気にはなれない。


確かに付き合いは長く続いている、でもそれはさっき考えたように。




「ただ世話好きのお人好しってだけじゃないかしら。それか変わったもの好きだとか」


「香南もまだまだ、わかってないわね」




眉を八の字にして腕を組み難しそうな顔をしている。


香南はその態度に少しむっとした。




他人の恋愛模様を好き勝手に考えて得意げに話しているが


桃子こそわかっているのかと、突っ込んでしまいたくなる。




彼女自身アンパンから好意を寄せられていること。


こういうことに疎い香南でさえ、気づいているのだ。




まあ、アンパンの身ぶりそぶりがわかりやすいからだけど。


これまでアンパンのアプローチが桃子にスルーされて、


彼が落ち込んでる場面を何度か目にした。




案外他人のことには敏感で、自分の周りのことは見えていないのではないだろうか。


アンパンには気の毒だが。そんな香南の心配を他所に懲りずに質問してくる。




「じゃあ例えばさ、もしも陸君に告白されたら香南はどうするの?」


「はぁ?」




陸が告白。頭に思い浮かべようとした。


当たり前だがそんな場面はうまく想像できない。




ありえそうにないことだから。


それに香南自身恋愛をするような種類の人間じゃないのだ。




友人すらも自ら望まない性質なのに、特別な異性と


互いに向き合う恋愛などとてもじゃないが考えることなんてできなかった。




「断るかも」


だから間を置いてそう答えると、桃子は目を細めてこちらを見つめる。




口元にはいたずらっぽそうな笑み。


「じゃあ・・・・。私が陸君に告白しようかな?」






「え」


思考が真っ白にかたまる。嘘、どうして? 


正直、頻繁に香南の体を触ってくる桃子に対して・・レズ疑惑を持っていた。




香南自身実は狙われているのではないかと。


それなのに男性の陸に告白?




「桃子、あなた陸のこと好きだったの・・・・?」


「さあ、どうかしらね」




彼女は意地悪そうに笑っている。


まるで香南の反応を楽しんでいるみたいに。




「嘘、冗談よ、冗談。お願いだからそんな顔しないで。


香南が悲しむようなことはしないからさ、安心して」




噴出し笑いを抑えて桃子は言う。はっと顔を手で覆う。


一体今自分はどんな表情をしていたのだろう。




都合のいいようにもて遊ばれたのにようやく、気がついた。


「とおこーっ!」




怒りが沸点に達した。赤面して席を立ち、彼女に襲い掛かろうとする。


きゃ~なんて可愛らしい声をあげて、逃げようとする桃子。




笑いを貼り付けたままで。


周囲の家族連れから注目を集めてしまっても構わない。




「やだ、もう怒んないでよ、大人気ないわね」


「く・・」




ここで感情を高ぶらせたら、彼女の思う壺と思い直し自制に努めた。


香南はぷんと顔を背けて席に座りなおす。




「からかうようなことするからよ。それに陸のことがお気に入りならどうぞ、


私のことなんか気にしないで告白するなり何なりしてくださいな。


私は彼のこと何とも思ってないんだから」




「ウフフ、心配しなくても大丈夫よ。陸君を横取りなんかしたりしないから」


まだ言うか、と立ち上がりかけた時だった。




香南は思わず悲鳴をあげそうになる。


「僕がどうしたって?」




いつからいたのか手に皆の食事を乗せたトレイを持って陸が立っていた。


後ろにはアンパンもいる。




「本人のいないところで陰口を叩くのは感心しないな」


どうやら香南達の話は聞かれていなかったみたいだと脱力気味に心底ホッとする。




「やだもう、悪口なんて言ってないわよ。ね、香南。未来がある素敵なお話よね?」


キッと睨みつけるが、桃子はにこにこしてまったく効果がない。




「それならいいけど、ていうかお前達喧嘩でもしたのか?」


桃子と香南を交互に見て陸が漏らす。




「いいえ、全然そんなことないわよ」


「香南がへそを曲げてるぞ」




「とにかく飯にしようぜ、いただきます!」


アンパンは空腹が勝っているようで席にさっさとついて食事を始める。




「じゃあ、香南本人に聞いてみたら?」


「香南、何かあったのか?」




振り返って何でもないわよ、と少し強めに言ってやろうとしたが。


「っ-!」


陸と目と目があった瞬間。


香南は急に強烈な羞恥心に襲われて俯いてしまった。




さっき桃子が変なことを言ったために、


おかしな具合に陸のことを意識してしまった結果か。




「どうした、具合でも悪いのか」


陸が心配そうに顔を覗き込んでくる。




横目で桃子を見ると腹を抱え涙まで浮かべて笑いをこらえていた。




おのれ~桃子め、覚えておきなさいよと


唇を噛みしめいつか復讐してやると心に誓ったのだった。


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