◆第18話 香南ちゃんと遠野家の交流☆娘?それともお嫁さん?

「育ち盛りなんだから栄養のあるものを食べなくちゃね」


陸の家のダイニングルーム。色とりどりのおかずが並べられる。




家庭の食卓とはこんなものなのか、と正直びっくりした。


唖然と突っ立っていると空いた席の一つに座らされた。




陸、おばさん、おじさんもテーブルについた。いただきます、と皆が食事を始める。


その中で香南だけがまだ箸も持てずに、食事を口にするのを躊躇っていた。




だって他人の家でご飯を食べるなんて初めてだったから戸惑っていたのだ。




「どうした、香南。ご飯冷めちゃうぞ」


「あ、もしかして嫌いなものでもある?」


「ち、違います。そんなんじゃないですっ」




陸とおばさんの言葉に慌てて首を振ると、彼らはほっとした様子だった。




「母さんのご飯はおいしいぞ。食べてみろよ」


「うん、おじさんも味の方は保障するよ」


「もう、二人とも子馬鹿、夫馬鹿なこと言って照れるじゃない」




三人とも声をあげて笑った。


「香南ちゃん、少なくとも不味くないと思うから、食べてみて」




皆が香南に注目し食べざるおえない状況になってしまった。


おずおずと手を合わせていただきますを言い、箸を持った。




煮物料理を口に運ぶ。皆が見守る中香南は緊張して咀嚼する。


口の中に広がる味に目を見開いた。




「あ」


「どう?」


おばさんが少し真剣な顔をしている。




「すごく・・・・美味しいです」


お世辞じゃなくておばさんの料理はとても美味しかった。




「よかった。お口に合ったみたいね」


「な? 美味いだろ?」




「遠慮しないでどんどんおかわりしてね、香南ちゃん」


言われるまでもなくお箸はすすんだ。




その様子に陸もおばさんもおじさんも満足そうに笑っていた。








  陸と両親はとても仲が良いみたいで、楽しそうに会話している。




親子とはこんな風に話をするものなのかと、


両親との会話が皆無に同然の香南には新鮮に映った。




同時に彼らの存在が遠くに感じられた。


自分とは違うフィールドに属しているのではないのかと。




もちろん彼らはよそ者である香南にも明るく話しかけてくれる。


だけどもうまく溶け込めない。




彼らの言葉に一言返すだけでその後が続かない。


そんな香南の態度に気を悪くした様子もなく、絶えず話しかけてくれた。




もう少し愛想よくできばいいのに、


出来ないともどかしく感じてしまった。




折角良くしてくれたのだけども、そう思ってしまうのだからどうしようもない。




常に一人でいなくてはいけないという義務感、切迫感、使命感にも似たものが、


いつだって香南の胸にはあったから。




物心ついた時から。


だから自分は場違いの場所にいると感じざる終えなかったのだ。




本当はここに自分のような人間はいてはいけないのではないのかと。






  そんな香南の心情とは裏腹に、


何度も誘われる形で陸の家で食卓を囲むことが多くなった。




あまりにも機会が多くなってきたので、


香南は食事代を渡そうとしたが、陸の両親は頑として受け取らなかった。




「いいのよ。気にしないで、皆香南ちゃんが来てくれるだけで嬉しいんだから」


「じゃあ、せめてお料理の御手伝いと、後片付けを手伝わせてください」




別にそんな気を使わなくていいのに、


と言いお金を取らないおばさんに対して香南もそこだけは譲らなかった。




他所の家でただのご飯を食べ続けることは香南にとって


許せることではなく良心の呵責を起こさせたのだ。




「わかったわ。じゃあお願いしようかしら」


一歩も引かない香南を見つめてしばらく


考え込んでいたがおばさんはやっと折れてくれた。




次回からは約束どおり、


ダイニングキッチンにおばさんの隣に並んで手伝いをした。




料理をしたことはなく、四苦八苦した香南に


おばさんは丁寧に包丁の扱いかたから教えてくれた。




「おばさんね、もしも娘がいたらこんな風に一緒に台所に立つのが夢だったのよ」


ふとおばさんが穏やかな声でそう漏らした。




とても優しげな顔で。何だか恥ずかしくなって気のきいた返事も言えなかった。


陸はやっぱり男の子だから料理するのを嫌がるのだろうか。




家族が揃った食卓では、おじさんが料理を誉めた。


「この鯵の煮付け、美味いな」


「それ香南ちゃんがつくったのよ」




おばさんが得意げに言ってくれる。


「まだ小学生なのにこんな美味しいものつくれるなんてすごいな。


香南ちゃん、もういっそのことうちの娘にならないかい。可愛いしおじさんは大歓迎だよ」




「あの、えっ・・と」


香南はどう反応していいかわからず赤くなって俯く。




「父さん、冗談でも変なこと言うなよ、


なんかそれ犯罪臭いし香南が困ってるじゃないか」




「父親になんてこと言うんだ。陸だってその方が嬉しいだろ?」


「娘じゃなくて、陸の御嫁さんになってくれないかしら」




「母さんまで何言い出すんだよ、もう!」


「陸もその方が嬉しいんじゃないの?」




「・・・・っ!」


今度は陸がからかわれて赤くなっていた。


皆が笑う中で、香南も気がつけば自然と笑みがこぼれていた。




そんなこんなでいつの間にやら香南は


珍しいことに陸の両親に気に入られてしまっていた。




一緒に過ごす内、香南の方も他の他人に比べて


彼らが唯一、まだ幾分気を許せる存在になっていた。

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