◆第12話 おかずの山が香南を攻め立てる!ふん、でもまあ嫌いじゃないけど...。
午前の授業が終了しお昼休み。
頼みもしないのに毎日、陸達三人は香南の所に机を持ってきてくっつけると食事を始めてしまう。
当初は鬱陶しく思い、一人で静かに食事したいのに、と不満だったが、
今ではもう四人で食事する方が当たり前になってしまい、違和感を感じなくなっていた。
つくづく慣れ、習慣とは恐ろしい。
「さあさあ、飯だ飯だ。腹が減っては勉学なんか出来ないぜ」
アンパンが二段重ねになったかなり大きな弁当箱を開いている。
量にしたら三人前以上はあるんじゃないかしら。
毎回あんなによく食べれるものだと感心してしまう。
香南はどっちかというと小食だから。食に喜びを求めてない。
お腹をある程度満たせさえすればそれで良いのだ。
「お前の場合、空腹じゃなくても勉強する気ないだろう。昼の授業大概寝てるし」
「ぷふ、陸君ったら、そんな本当のこといったら駄目でしょ、もう」
「ああ~、二人ともひでーな! 俺が勉強できないの、知ってるのにそりゃねーよ」
陸と桃子にからかわれアンパンは情けない声をこっちにふってくる。
「香南、二人に何か言ってやってくれよ、こりゃ言葉の暴力だぜ」
「事実だし学問方面はあきらめた方がいいわ。あなたならスポーツ方面に行けばいいじゃないの」
数秒思案した後、思ったことを淡々と香南は告げる。
「げげっ、香南までそんなこというのか。まるで俺が体力馬鹿みたいじゃんよ~」
箸を口に挟んで恨めしそうにしている。
「そうじゃないの?」
「でぇぇぇぇー!」
アンパンが肩を落しひっくりかえりそうになっている。
「香南に言われちゃしょうがないな、アンパン、あきらめな」
こちらの肩に手をまわして桃子が言う。
「濁さずに的確なこと言ってくれるものね、香南は」
皆が笑っている。アンパンが悔しそうに陸のことを小突いているのをじっと眺めた。
ふと陸がこちらに目を向けて視線が合う。
陸は小さい時から今日まで付き合いが続いているという、
他人を望まない香南にしてみれば信じられない存在だ。
以前、休み時間の教室で陸が他の男子達に香南とのことを質問されている場面に出くわしたことがある。
彼らは話に夢中のようで教室に入ってきた香南に気づかなかった。
別に聞きたくもなかったが今更教室を出て行くものを面倒だったし、
どんなことを話しているのか、成り行きのまま聞いてやろうと思った。
どうして香南みたいな生徒とつるんでいるのか、
ひょっとして香南と付き合っているのか、と陸が問われているのを聞いて、
そんなことありえないだろうと苦笑いしそうになった。
陸ならもっと全うな女性が釣り合うだろうと考えていたから。
香南が彼女だなんて絶対ない。
どうやって二人が出会ったのか問われて、陸は覚えていないと言っていた。
けれど香南の方ははっきりと覚えていた。
あれは香南がまだ小学校に上がりたての頃だったか。
家の近く空き地のような場所で、香南は一人打ち捨てられ積み上げられた車のタイヤの上で、
膝を抱えて座っていた。
ただ何をするでもなく、ぼんやりと空を見つめていた。
家にいても両親がうっとおしかったからそうやって時間を潰していた。
一緒に遊ぶ友達は一人もいなかった。
子供たちは皆香南を見ると、一度は興味を持って近づいて来るが
香南の無機質な反応に怯えを見せて離れていく。
子供たちが仲が良さそうにしているのを見てもうらやましいだとか悲しいとは思わなかった。
ただ何も感じない無の感情だけが胸の中にすんと鎮座し冷めた表情をしていた。
視界が突然暗くなり、空の景色が遮られた。
いつの間にか一人の少年が香南の側までやってきていた。
「こんなところで何してるの?」
声をかけられた。今になって珍しいこともあるものだと、少し驚いた。
「・・何もしてないわ」
ぼんやり、そう答えると少年はじっと香南を見つめた。
きりっとした顔立ちで賢そうな子だなと思った。
いつものようにすぐに香南にかまわず去っていくだろう。
しかし少年は。
「ねえ、僕と遊ばない?」
「え?」
予想外のことを言われて香南は呆気にとられた。
返事をする前に、少年に腕を引っ張られていた。
動揺したまま、止める間もなく半ば強引に空き地から連れ出されてしまった。
それが陸と香南の初めての出会いだった。
その時の出来事から今日まで、家も近所で一人だった香南は
ずっと彼に引っ張られてここまで来た感じだった。
放っておいてほしいなとは思ったけど不思議と陸を拒絶したことは一度もない。
今でも疑問に思っている。彼はどうして公園にいた香南に声をかけてきたんだろう。
何故今でも一緒にいようとするのだろう。
面白くもなんともなさそうな一人の女の子に。
大概は接触してくるのは最初だけで誰一人香南と一緒にいようなどとはしなかったのに、
陸だけはずっと昔から香南の隣にいた。
もしかしたら香南と同じで変わり者なのかもしれないと納得することにしていた。
「またお前購買のパンだけか。ほら、僕のおかず分けてやるよ」
パンを一口かじっていると陸が弁当箱をこちらに差し出してくる。
「いいわよ、別に。私は小食なの」
香南は無下に断ろうとする。朝に弁当を作ってきてもいいのだけど面倒くさい。
それにあの両親にお弁当を作ってもらうことは期待できないし、
もちろん頼む気もさらさらない。結果昼食は購買のパンになることが多い。
「駄目よ、香南。ちゃんと食べなきゃ立派な大人になれないわよ」
自分は子供か、と心で突っ込む。
桃子は自身の弁当箱の蓋を裏返して、そこにおかずを乗せていき、
はいどうぞと香南の前に差し出してくる。
「抜け駆けはゆるさねーぜ! 香南、俺のも遠慮せず食ってくれ」
アンパンが大げさに腕まくりすると、自分の箸を逆さにして弁当のおかずを、
さっきの蓋の上に追加していく。
陸も同じようにそれに倣った。
見事におかずの山が出来た。
三人ともじーっと香南を見つめている。
「・・・・」
熱い視線が注いでくる。
「あーもう・・わかったわよ、ありがたく頂きます」
観念したように肩をすくめて息を吐いた。
手を合わせると、三人とも満足したように笑った。
おかずを口にした・・・・美味しい。
本当にお節介な連中。
そう思いながらも胸に生まれたこの何とも言えない熱っぽいものは何だろうか。
例えばもしも。
他人に彼らのこと好きかどうかと問われれば。
香南の答えは・・・
好きだとは言わないけど
・・・・でも嫌いじゃなかった。
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