第一話 堅物な陸くんと孤高の美少女香南ちゃん登場☆
早朝、朝靄も晴れない通学路にはまだ学生の姿は見られない。それもそのはず。
一般的な登校時間にはまだ早く、いるとすればクラブ活動の朝練に出る生徒くらいだ。
腕時計に目をやる。よし、今日も時間通りだ、と確認。
高校一年生の遠野陸とおのりくは閑散とした学校の正門をくぐり抜けた。
誰もまだ来ていない教室に鞄を置くと、剣道場に部活の朝錬に向う。
すがすがしい汗を流し部活を終えると着替えて職員室へ。
顔を合わせた教師達に丁寧な挨拶をし、壁棚に吊られた腕章を取りに行く。
生徒の登校がピークの時間帯、陸は正門に立っていた。
手を後ろ手に結び背筋を伸ばした堂々とした姿だった。
「おっす、おはよう。陸」
「おはよう、遠野君」
「ああ、おはよう」
見知ったクラスメイト達や他の学生達が親しげに声をかけてきて、陸もしっかりと挨拶を返す。
剣道で鍛えた声はよく通る。腕には風紀委員と書かれた腕章をつけていた。
「おい、シャツが出ているぞ。ちゃんとズボンの中に入れろ」
「こら、勝手にズボンの形を改造するんじゃない」
「先輩、スカートが短かすぎます」
「君、髪の色が昨日より若干明るいぞ」
陸は目についた生徒達に次々に声をかけ注意していく。先輩、同級生後輩関係なく。
後ろに立って様子を見ていた生活指導の教師はうんうん、と満足そうに頷いていた。
陸の実直な性質は風紀委員に向いているらしく、教師達からも評価が高いらしい。
本人としてはただ自分の思った通りに任務を全うしているだけなのだけれども。
風紀委員などをしていることからも陸は学校では優等生で通っている。
校則はきっちり守り無遅刻無欠勤。部活は剣道を嗜む。
竹刀を持って相手と戦うのがどこか性に合っていて中学の頃から続けている。
自慢ではないけれども成績も良い。授業中クラスメイト達が解けないような難問も一人解いてしまうくらいだ。
文武両道な陸ではあるけれども唯一欠点を挙げるとすれば真面目すぎて面白みに欠けるとことかもしれない。友人の冗談に真顔で返して絶句されたことがあるくらいだから。
チャイムが鳴り門を閉めようとした所で、クラスメイトの男子が必死な顔をして駆け込んでくる。
「あーっ! 遠野、待って待って待って!」
「おしかったな。もう少しで間に合ったが遅刻決定だ」
ばっさり淡々と切り捨てるように言い、陸は門を閉める。
慌てた様子で、ちょっとちょっと待って、と男子が割って入ってくる。
「なあ、そこを何とか見逃してくれよ。同じクラスなんだしさ」
「駄目だ。特別扱いはできない」
手を合わせ頼み込んでくる男子をきっぱりと拒否する。
容赦ない言い方に男子は顔をしかめ重いため息をつき独り言のように呟く。
「たく、相変わらず頭でっかちだよなぁ。もう少し融通が利けばいい奴なんだけど・・」
「何か言ったか?」
「いやいや、何でもないよ」
かぶりをふり肩を落とし、教師と共に生活指導室に向かう男子の後ろ姿を見送った。
余計なお世話だ。陸は自分でも頑固だとわかっていたが性分なので変える気もなかった。
だからこそ頑固なんだが。
教室に入り自分の机に鞄を置く。隣の窓際の席、机に頬杖をつき窓の外をぼんやりと見つめている女子生徒に声をかける。
「おはよう、香南」
「・・おはよう」
一瞬だけこちらに漆黒の瞳を向けただけで少女は外に視線を戻す。
彼女の名前は藤倉香南。陸の幼馴染だ。
「今度の日曜日、桃子が皆で遊びに行こうって言ってるんだ」
香南は関心なさそうな様子で、ちゃんと聞いているのかどうかわからない。
陸は改めてじっと香南の横顔を見つめた。藤倉香南ふじくらかな。
彼女は美しい顔立ちをしていた。
肩にかかるかかからないかぐらいの、少し茶色かかった髪。
白く透き通った肌は、太陽の光など知らないとでもいうように上質な陶器みたく麗しい。
手足は長くすらりとしてスタイルもよい。大概の男ならすれ違ったら思わず振り返ってしまうくらい、彼女は魅力的な容姿をしていた。
その証拠に陸は中学時代から側で見てきたが、
香南の類稀なる美貌に魅せられて告白した男子は数知れず。
下駄箱には大量のラブレターが溢れていたが、一つも封を開けず香南は躊躇いもしないで全部それらを捨てていた。
けれども皆がそうやって香南に好意を持つのは初めだけなのだ。
香南はいつも物言わぬ人形のように無表情で、感情をあらわにすることはほとんどない。
漆黒の瞳には光を宿さず、そこから感情を読み取るのは容易ではない。
他人からは何を考えているのかわからないと思われているだろう。
彼女はこれまでずっと自分からは誰とも関わろうとはせず、いつも周囲と距離を置いて一人きりだった。だから現在もクラスでは変わり者として一番浮いている存在だ。
かといって不器用で隙を見せるタイプではないから、いじめられているというわけでもない。
パッと見、香南は冷静沈着、言葉を語らないクールビューティーだ。
愛想を振りまかないし、人を寄せ付けないオーラみたいなものが出ているのだろう。
彼女に対して冷たい印象を持って皆近寄りがたそうに離れていってしまう。
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