宿泊と仲間
「二部屋しか空いてない? まいったな」
宿屋内のロビー。受付の前で女将からその事実を聞いたクロードは嘆いた。
「どうしてですか?」
後ろでセシールが首を傾げる。
「そうだぞ」彼女の隣でピエールも同調する。「ぼくとセシールは恋人同士だから同室で構わないし、以前は共に野宿もしたじゃないか。おまえが一緒でもいいくらいだ」
「こっちの問題でな」
困惑を口にしながら振り返ったクロードの視線。それは、二人の友人を通り越してさらに後方へと釘付けになった。
「あれ、なんでここにいるのよ?」
そんな言葉で、入り口の扉をくぐってきたスミエを発見したからだ。
「いいのか悪いのかわからんタイミングだな」
小さくぼやいてから、クロードは新たな仲間へと呼びかける。
「こちらの台詞だスミエ、用件は済んだのか。おれは参加申請と修道院での一件の報告が済んで、宿をとっておこうとしたところだ。試合準備で忙しい上にそこまでの妖精の企てなど前例もないと、騎士団がろくに取り合ってくれなかったが」
ピエールとセシールも、クロードの目線を追って未来人へと着目した。スミエはさっきの出来事を口外しようとしたが、依頼主の〝クロードにだけ伝えて〟という忠告を思い出して呑み込む。
「……そう。騎士団の件は残念だけど、しょうがなさそうね。あたしの方も、先に泊まるとこでも探そうかなと思ったとこよ」
彼らに近付きつつ女子中学生はごまかす。
「広場の道化師が怪しそうだから調べてみたけど派手な笛吹きっぽいのはいなかったし、別件で気になることもあったからね」
「彼女は?」
親友に問うたのはピエールだ。
「お知り合いですか?」
セシールも続く。
「まあ、な」いろいろ考えつつもクロードは答えた。「おまえたちと別れてから出会った、異国の旅人だ。この町まで案内を頼まれた」
実際は自称未来人なわけだが、自分でも未だ半信半疑な上に大いに揉めそうな話題は省いておくことにする。
「そうか」頷いた親友は、間近まで来たスミエに軽く会釈をする。「どうも始めまして、ぼくはクロードの友人でピエールです」
「わたくしはセシールと申します」
尼僧見習いも、軽いカーテシーと共に名乗った。
「……あっ」
それでようやく、未来人は二人とクロードの関係をぼんやりと理解できたらしい。彼らのすぐそばで立ち止まり、戸惑ったように挨拶する。
「こ、こんにちは」
おまけに、いらんことを言う。
「けどクロード、あたしは異国の旅人ってより未来の――ふがぁ!」
すぐさま、現在の同行者は少女の唇を手で塞ぐ。次いで、彼女の耳元で囁いた。
「おれ一人に説明するのさえややこしかったんだ、そういうことにしとけ」
「……はあはあ。わ、わかったわよ」
ようやく手を離され、荒い息で納得するスミエ。もちろん、抗議も忘れない。
「――けどあんた、鼻まで塞いだわよ! 窒息するでしょバカ!!」
「ん? そうだったか、慌たものでな。すまん」
「軽ッ! ちゃんと謝りなさいよ!」
たちまち口論を始める二人だった。
「なんだか、仲がよろしいのですね」
感想を洩らすセシールに、ピエールも同調する。
「その調子なら、君らも相部屋で問題ないじゃないか」
時を止めるクロードとスミエ。
後者の顔が紅に染まり前者は汗だくとなり、新たな火種が注がれたことを物語っていく。
まもなく、女子中学生は絶叫した。
「な、なによそれ! あんたと同室で寝るっていうの?! なんでそんな選択したのよ変態!!」
「い、言いそうだと思ったが。空きがないんだ、仕方ないだろ。おまえ一人じゃ慣れない国の宿屋でなにをしでかすかわからんし、野宿でも一緒だったんだからちょうどいいくらいだ!」
「同じホテルの個室でお泊りって響きがいやらしのよ!!」
「またわけのわからんこと……ゴフッ!」
ともあれ、今晩宿泊する場所は決定した。
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