第7位 不汗症(『夏の匂いは隠されていた』収録)
汗のかきかたを忘れた私は
とりたてて汗をかくための努力をせずにいた
尊厳とか外聞とか羞恥とか自己愛とか
そういうものが私の汗腺には粘土のように練り込まれていて
もう汗をかくことはない
もしかしたら走ったり怒ったり恐がったり暑がったりすれば
また汗をかくのかもしれないが
その全てが無意味で非効率的に思えて
それをしない
粘土は灰色でところどころ黒い粒が入っている
黒い粒がざらざらと肌の外で中で擦れ
生き残っている痛点を時折刺激する
なんだ なんで涙腺は残っているのか
汗の代わりにただ流し続けるその粒が
汚く発光する粘土を流しさってくれればいいのに
流れる粒も一粒や二粒で
粘土をさらにぎとぎとにするだけだ
埋もれた汗腺の下でたまに 何かが蠢く気配がある
汗腺の下で地脈のように繋がり 指の先を震わせる
それはかつて汗だったもので
もうけして汗にはならないもの
シャツは乾いたまま
ただ雨にしか濡れることはない
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