第2話 師匠と弟子
街のゴミ捨て場の近くに、鉄屑だらけの粗末な小屋がある。街の住人は日々の暮らしのなかで進んで寄り付くことはないが、家具や家屋の破損がどんな修理士に頼んでもどうにもならなかった場合、すがる思いでこの小屋を訪れるのである。
ただ、この小屋の主人が必ずしもそこにいるとは限らない。彼の一番弟子を自称し、機械いじりしか興味のない住人の身の回りの世話をしているロンという少年も、煙のようにいなくなる住人の行き先に検討もつかないのだ。
「……ということなんで、また明日にでも来てくださいよ奥さん」
「明日明日と何回言われたか! あんたのお師匠さまは一体どこをほっつき歩いてんだい?」
運悪く五日連続で待ちぼうけを食らっている客が、地団駄を踏んでとばっちりのロンに唾を飛ばす。なんでも、窓枠が歪み窓がはまらなくなったお陰で北風が家の中を縦横無尽に駆け回り、生まれて間もない子供が凍えているのだという。
「どこを、と言われましても、私にも皆目検討がつかないのです。また明日来ていただくしか……」
「その必要はねぇよ」
小屋の入り口に立つ影、それこそロンが師と仰ぐメロスであった。
「よく来てくださいました! さぁ早速仕事を」
「まぁそう急ぐな、ロン」
「……?」
メロスは依頼に来た女性を舐め回すように見る。
「幼子が凍えているんだってな」
「そ、そうなのです。北風で困っているんですよ」
「ですから、早く助けて差し上げましょう?」
工具箱を持って準備万端の弟子を、メロスは手で制した。そしてしゃがみ込み、弟子の耳元で二三言葉を紡ぐ。弟子はというと言葉を聞くや目を見開いて驚いた。
「奥さん」
「……はい?」
「ご依頼を聞く限りこっちで多少準備が必要だ。番地を言ってくれればすぐに向かう。先にお宅で待っててはくれんかね」
「な……あなたほどの腕じゃあその工具箱で十分でしょう?」
「……俺は嘘が嫌いだ。存在もしない子供で気を引いてまで、
客の女性は弾かれたように視線をあげ、メロスの顔を見て、すぐに目を逸らせた。
「あんたには関係ないことでしょう……偏屈な男に仕事を持ってきてやったんだから感謝して。黙って修理だけしときゃいいんだよ」
「ああそうだ。俺は偏屈で街の人間の嫌われ者だ。滅多に依頼が来ないもんだから食糧も満足に買えねぇ。だから特別に、癪極まりねぇが嘘つき女の依頼も受けてやるんだ、お前には客の本分がわからんらしいな」
客に喧嘩を売りつけてしまう師匠にロンはタジタジである。ことが長引かないうちに丸く収めようと、腕を組みそっぽを向く師と客をなだめすかすのであった。
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