第120話 虫かごの戦い③
カンニングネペンテスがレストを呑み込んだのには3つの理由がある。
1つ目は生産系プレイヤーの優位性である装備を消化液で破壊すること。
2つ目はHPや耐久が低めである生産系プレイヤーを消化液で倒すこと。
そして、3つ目は生産系スキルを持っているであろう
本来なら捕食袋に獲物を入れるという行為は自身にも危険が伴うけど、それ以上に1つ目と2つ目を効果的に扱い、エクストラクエストの中核である生産系プレイヤーを打倒するにはこれ以上最適な攻撃方法はない。
「ラッキーー!!宝の山だーーー!!」
何処かずれたプレイヤーではない限り。
レストは魅了の一時的な行動不能が解けた瞬間、口元を弛ませてから消化液の水面から拳を突き出した。
続けて過去一番の速度でメニューを操作しては、空のバケツを満たして【宝物庫】にしまい、新たな空バケツを取り出す作業をレストが繰り返した。
「もっと!」
甘い液体の少し粘着質な肌に張り付く気持ち悪さにも、消化液による思わず掻いてしまいそう痒い痛みも、さっきまでの絶望も、今のレストには存在しない。
「全部回収するぞ~」
なぜなら、マッドネスウルフに食べられたことを思い出し、気が付いてしまったからだ。
──これもあの時みたいに採取できるかも。
目の前に素材らしきものが沢山あることに。
「素材が沢山。最高ッー!!」
こうしてレストは、時々魅了で動きを止めながらも、ライフポーションを飲んでは
ただし後で、(アイテムではないため、しまった瞬間消滅した)消化液を入れたバケツが空だったことに、精神的なダメージを負うことになるのは、別の話。
○
「さて…どう出ようかな」
時々生成される消化液をバケツで回収したレストはホクホク顔のまま、周囲の状態を確認する。
レストは立とうと僅かに重心が動いただけで、滑る壁や足下の影響で体勢を崩し、視界が反転して頭を打ち悶えた。
「ここからジャンプして出ようと思ったけど、立つ動作もままらないか」
壁に押しつけた背と伸ばした足でバランスを取って、元の状態に近づけてから少し考えるレスト。
すると、ニヤリと口元を歪ませ、紫色と黄色の二種類の液体が入ったポーションの栓を取って、
「こういうアイテムも作ってて良かった~。さてさてどうなるやら」
マッドネスウルフの胃袋で状態異常にさせた時と同じように、捕食袋に液体を落とした。
「植物にとっての服用は分からなかったけど…。虫を捕獲して栄養を得る食虫植物なら、ここに毒薬を流せば服用扱いになるみたい」
カンニングネペンテスを鑑定していたレストの視界に毒中と、少し遅れて麻痺小が表示された。
製作したアイテムの服用時に高確率で状態異常を発揮させる効果が使えると分かったレストは、脱出から討伐兼実験に作戦を変える。
次は何を試そうかな~、と【宝物庫】を眺めながら粉系のアイテムや、消化液がある状態でやってみたりを繰り返し、カンニングネペンテスのHPが5%以下となった。
「うぉっ!?なに!?」
今までにない揺れを感じたレストが叫ぶ。
カンニングネペンテスはぎこちない動きで捕食袋の上下を変えると、開いた蓋からレストを落とした。
「危な…頭からって………えっ」
浮遊感を感じて反射的に手を伸ばして、頭から落ちるのと、受けるダメージを軽減させたレストは、上を向いて固まる。
「うそぉーー!!」
そして、根の隙間が大きくなり、その影響ではっきりと見えるようになった光景──天井部分の根が迫り落ちる“虫かごの崩壊”に絶叫した。
その光景を見て叫んだ瞬間、レストは走り出したが根の壁に遮られ、“虫かごの崩壊”からは逃れられず、根に押し潰される。
「くっ…」
レストの首や腕、胴体に足、様々な場所に絡みつき、徐々に締め上げられる。
それに加え、全身に伸し掛かる重みも増していく。
レストは首に巻き付く根を右手で掴みながら、耐えるようにうめき声を上げた。
さらに、左腕で地面との間に隙間を作り、その隙間に顔を埋めて取り出したライフポーションを口に咥えながら悪態をつく。
(よりにもよって、回避不可の絞殺圧殺攻撃かよ…)
麻痺の効果で動きが制限されている故に絞殺や圧殺する動作が本来よりも遅く、その僅かな有余にレストは打開できそうな手段を探す。
表示されるとあるアイテム名に、レストは覚悟を決めた。
(まだ試してない攻撃方法でこの状況だと自分も死ぬかもしれないけど。生き残るには一か八かこの方法しかない)
思いついたけど、爆裂玉より攻撃力は無さそうで、爆裂玉より使う場所を選ぶ、【宝物庫】を利用した攻撃方法。
レストは少しでも生存率を上げる為に、装備を変更するスキルを使うが。
「【ドレスチェンジ】」
体の周囲に障害物があった為に、装備を変えられなかった。
天へ采配を任せるように、レストは取り出したアイテムを上空に出現させるよう承認する。
そして、
「ガァッ!?」
「あぁぁぁぁあ!!あぁぁぁあ!!」
──100個の丸太の雨がカンニングネペンテスを襲った。
球根のような根の集合体の上部に上半身を晒していたことで、もろに丸太の集中豪雨を食らう。
「……」
直撃で2%ほどのダメージを負ったカンニングネペンテスはより強く締め上げながら、一部の根や蔓で自身に乗った丸太を除け始める。
「グガァッ!?」
「ぁぁぁあ!!あぁぁぁぁぁあぅあ!!」
追い討ちを仕掛けようと接近していたテンリは、第2段の丸太の雨に慌てて逃げ、さらにカンニングネペンテスを襲う。
重圧と拘束で減っていくHPを口の中に残していたライフポーションで回復させ、残りHPが1%以下の状況で、レストは折れた木を降らそうとしたが。
(このタイミングで!?くそっ、あと一手なのに!!)
魅了の行動不可で、あと数ミリの距離にあった指先は止まり、根を掴んでいた右手と共に地面へ落ちた。
そしてレストのHPは、数十秒もしない内にHPが0となることが子供でも分かるほど減少する。
だが、カンニングネペンテスもHPが減少し続けていた。
(あと一手なんだ!!早く早く!!)
それでも決定的なHPの量によって、先に終わるのが自分だと分かっているレストは悔しいそうに叫ぶ。
(くそぉ!!)
──しかし、勝者はレストだった。
勝因はレストが一人ではないこと。
テンリが大量の丸太の上に乗った瞬間、周囲にあった丸太の重量が倍以上増えてカンニングネペンテスの本体を圧殺した。
カンニングネペンテスの肉体光粒子に変わり、降り注ぐ丸太にレストは歯を食い縛る。
「へぇっ…」
大きな揺れが過ぎた後、恐る恐る上を向いたレストが見た光景は、自身の上空に浮かぶ丸太だった。
「どうやら助かったみたい」
スキルの習得を知らせるアナウンスと、少ない自動回収のログで生きていることを理解し、丸太を一瞬で片付ける。
浮かんでいた丸太があった位置にいるテンリに、レストは目を見開いて驚いた後、嬉しそうに手を振った。
「テンリ、助かったありがとう!!」
僅かに口を開けたテンリ
「あぅあぁぁぁぁぁぁあ!!」
より速く動いたフタバが泣きながら、鱗を蹴って飛び降りた。
「「……はっ(グガァッ)!?」」
僅かな空白の後、目の前のことを理解したレストが青ざめながら落下地点に、テンリが慌てた様子で追い掛ける。
フタバの近くまで降りたテンリが落下速度を減少させ、レストは落ちてきたフタバを抱き止めた。
『【
「ぁぁぁあぅぁぁあぁぁああ!うぁぁぁぁぁぁぁあ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
「……はぁー。この子は…」
色々と言いたいことがあったレストだったが、力の限り抱きつき、より泣き出したフタバを叱れる訳もなかった。
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更新再開します。遅れて申し訳ない。
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