第92話 着実に後の騒動の種は撒かれている

 坑道よりも温度が低く、吐いた息は自然と白色に可視化させ、空気に晒されて金属製の鎧の冷たさを肌に感じる場所。

 また、その場所は落盤して憎悪の下水道とは違った意味で思い通りに進めず、照明のランプが壊れて点滅を繰り返す所や、暗闇で先の見えない所が何ヵ所も存在する。

 鉄格子の扉を開け、不揃いな階段を下った先、その場所こそ。


「ここがオオテ鉱山の廃坑じゃ…寒いのぅ。体にこたえるわい」


 【灯火】の火の玉で暖まり、白い髭を撫でるマーリンが言う。

 それにレストは無言で頷き、同じく冷えた鎧を温めながら、点滅する光源で照らされた左右の一本道を見渡した。


「確か…調べた情報で一番近いやつは…こっちの方に採掘ポイントがある、っと書かれてたんじゃ」

「了解…あっそうだ……」


 右側に指を向けるマーリンにレストは頷いた後、思い出した様子でマップを開いて共有する。


「【音響察知】スキルで特定したマップだけど、その場所分かる?」

「名前からしてエコーロケーションみたいなスキルか…場所はここじゃ」


 マーリンは採集物の一部や道の記載されたマップに内心驚いたが、表情に出すことなく指先で示す。

 それに頷いたレストが靴先で固い地面を叩き、【音響察知】で周囲にモンスターが居ないことを確認した。


「その道にモンスターは居ないから、今の内にに行こうか?」

「レスト……やばい、そのスキルに男のロマンが暴走しそう」

「分かるわ…」


 老人が苦しそうに心臓を押さえるという、現実なら119番しそうなマーリンがいた。

 同意したレストが【採集】スキルを使って、同じ場所に採掘ポイントあるのを見つけた後、二人はそれぞれが持ってきたピッケルで掘り始める。

 ただし、始めは一本のピッケルで掘っていたレストだったが。

 最終的には両手と黒き衣で三本のピッケルを使って採掘をしていた。

 そんなレストの一連の行動を見たマーリンはぽつりと呟く。


「ユニークスキルって便利そうじゃ」

「うん?確かにユニークスキルは別格なぐらい便利なスキルだよ。特に【天魔波旬】は遠くの物を取ったりできるから応用が効くし。この分、MPがバカにならないほど多いかったり、操作してない時に勝手な挙動するけど」

「デメリットを上回るほどのメリットがあるじゃろ?ワシも一つぐらい欲しくなったわい」


 そう言ったマーリンは腰を撫でながら、コンパクトチェアに座って三度目の休憩に入った。

 レストもそれに釣られて座って、目を瞑る。

 すると、遠くの方にレベル36の大蜥蜴“ロックリザード”が照される。

 だが、二人とも気にした様子がない。


「いいのぅ」


 のそのそと近付いてきたロックリザードは二人を索敵した瞬間、【天魔波旬】の畏怖によって逃げ出した。

 その光景を見ていたマーリンが心底羨ましそうな声を出す。

 レストはロックリザードが遠くに気配が移動したのを確認した後、息を吐いた。

 そして、スキル習得画面を開いて言う。


「マーリンが使えそうなユニークスキルって【火の祝福】と【灼熱地獄】ぐらいしか知らないけどいい?」

「……って、知ってるのかよ!?」

「まぁ、緊急メンテナンス前に習得した」


 マーリンは呆れを多分に含んだ眼差しで見る。


「さすが天然じゃ」

「誉めてないよねそれ…」

「いや、相変わらず天然でやらかしておるな~と思っただけじゃ。巻き込まれる勇者が可哀想じゃのぅ~。フォーホホホ」

「ぐはっ!!」


 クリティカルヒットしたレストは胸を押さえて倒れ込み、その反応を見たマーリンはそっと勇者に冥福を祈る。

 レストは心が回復してから、マーリンに習得した時の状況を濁して教えた。


「卵を生んで増える害虫に対して、密室で大量の薪を入れて燃やしたら、習得した」

「場面がよう分からんが、取り敢えずいいんじゃな。それも一度に大量に」

「多分」


 深く考え始めたマーリンを余所に、暇になったレストはマーリンの採掘物の山を鑑定して仕分け始める。

 八割がただの石、一割が青銅石、五分が銅鉱石、残りが鉄鉱石とサファイアの原石(ボス戦時にドロップ)とエメラルドの原石。

 欲しがっていたルビーがない成果にレストは入手していたルビーの原石を混ぜた。

 ちなみに、レストの採掘量はこの四倍以上の量があって、割合的に石が半分ぐらいで、採掘できる素材をコンプリートしている。

 それでマーリンに渡そうと思っていたアイテムがあったのを思い出したレストは、【宝物庫】から取り出した。


「マーリン、ちょっといい?」

「うん?なんじゃ?」

「仕分けたよ」

「おっ、サンキュー…じゃ」


 マーリンが手を上げて感謝を伝えた後、インベントリに石以外をしまう。

 それを見届けたレストは立ち上がり、


「これあげる」

「これって暴獣の匂い袋と暴獣の御守りか!?」

「…おう?ついでにこれもオマケ。精霊界で入手できる火属性強化効果がデフォルトの火の石」

「マジか!!サンキューな!!これ欲しかったんだ!!今度何か返すわ!!それに火属性強化が付く素材もマジサンキューな!!」


 マーリンに二回に分けて譲渡されたアイテムが渡される。

 想像以上に感謝され、狼狽えて採掘し始めたレストは知らない。

 暴獣の匂い袋と暴獣の御守りの現在の入手しようと思ったら、一つ当たり魔力結晶並みの相当な大金を詰まないといけないことを。


 この後、採掘で反対側まで貫通させた二人は、13時前に下層の行き止まりで昼食休憩を取った。


────────────────────


ふふふ。

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