第60話 作者も忘れかけてた

 8月14日10時前。

 エアコンの冷風音が響く一室にマウスを動かし、時々頷きながらメモ帳に書き写す男が一人。


「こんなもんか」


 その男は爽やかな声音で呟いた後、パソコンをシャットダウンして、ふぅーと息を吐きながら座った体勢のまま肩や首を回し、固まっていた筋力を解す。

 解し終わると、机の上にあったVRゴーグルとデバイスを手に取り、ベッドへ寝転ぶ。 


「あいつは生産プレイヤーで初心者だから、そこまでレベル高くないはず。それにテイマーとしてのデメリットがあったから…一週間あれば越えれるだろう」


 集めた情報を脳裏に浮かべ、分析した情報からレベリングの計画を立て、そう結論付けた。

 ちらっとデバイスの時間を確認し、もう少しで10時なので『一週間後にFMGで』と友人へメッセージを送る。

 すると、すぐに返信で『了解』と送られて来た。

 それに爽やかな笑みを浮かべてVRゴーグルを付ける。


「さて、誠人の度肝抜いてやるか」


 この男はレストこと誠人の友人である神代かじろ祐介ゆうすけ

 VR歴は5年以上という経験者だ。

 性格は爽やかな見た目に反して、暴走して幼馴染みや妹に回収される系残念イケメンである。

 さらに、ゲーム内で常に正統派な騎士からお喋りな暗殺者まで演じる生粋のロールプレイ好き。

 天然が入った誠人と残念な祐介は混ぜるな危険、というのが知人たち共通の見解である。


「今から楽しみだ」


 そう言った後に爽やかな笑みを浮かべ、ゲームを作動させた。

 経験者の貫禄を見せ、誠人を驚かそうと画策している祐介は知らない。

 さっきまで見ていた公式動画や掲示板に謎の存在感を発揮していたプレイヤーが友人で、逆に驚かさせるとは。



 0~10時までのメンテナンスが終わり、友人と一週間後に会う約束をしたレストはログインする。

 場所は街でログアウトするアリスと別れ、一人で倒しに来たマッドネスクロウがいた突風の谷のテント内。

 レストは胡座で座り、アップデート内容の確認の為にメニューを開く。


「あっ、イベントクエストの存在忘れてた」


 メニューを開くと同時に現れた、イベントクエスト『暴獣討伐』のクエスト達成画面。

 素で忘れていたレストはそう言えばあったなー、といった心持ちでリザルト画面を見る。

 クエスト報酬としては以下の通りだ。


初討伐報酬

マッドネスベア討伐:1000G

マッドネスウルフ討伐:5000G、プレミアム引換券×1、イベントコイン×1


討伐報酬

マッドネスシープ討伐:イベント引換券×1

マッドネスベア討伐:イベント引換券×1

マッドネスクロウ討伐:イベント引換券×2

マッドネスラット討伐:イベント引換券×2

マッドネスタートル討伐:イベント引換券×3

マッドネスモンキー討伐:イベント引換券×3

マッドネスウルフ討伐:イベント引換券×5


特別報酬

暴獣の心晶入手:イベント引換券×5

混沌・暴獣の心晶入手:イベント引換券×24、イベントコイン×3、強化石×4、プレミアム引換券×1

マッドネスウルフ(夜)討伐:10000G、プレミアム引換券×2、イベントコイン×2、スペシャル引換券×1


 今回のイベントは討伐数を競うイベントではなく、暴獣を討伐することがメインのイベントである。

 初討伐報酬は一番最初に各暴獣を倒したプレイヤーに贈られる報酬。

 討伐報酬は各暴獣を討伐した者に贈られる報酬。

 特別報酬は文字通り特別な条件で貰える報酬。


 特別報酬にレストが入手した“混沌・暴獣の心晶”は、暴獣の心などの中で二番目に良い報酬だ。

 一番良いのはアリスが持つ“真・暴獣の心晶”で、同じ心晶でも真の方が報酬が良い。

 真や混沌にする方法が複数の暴獣の心(○)に関するアイテムを持っている事と、マッドネスウルフに勝利する事。

 その際に、獣ではないマッドネスタートルやマッドネスクロウの暴獣の心を持っていると混沌になり、持ってないと真となる。

 さらに、一つでもソロ討伐の証“暴獣の心晶”を持っていれば○・暴獣の心、暴獣の心が最高なら○・暴獣の心、暴獣の虚心が最高なら○・暴獣の虚心となる。


 ちなみに、特別報酬の“暴獣の心晶入手”は一番最初に暴獣をソロ討伐した証で、“マッドネスウルフ(夜)討伐”は夜にマッドネスウルフを討伐した証だ。


「お金持ちに…これでたくさん買っちゃおう」


 107Gしか持ってないレストは報酬で16000Gという大金を貰いニッコリ。使う先を素材と決めた。


「引換券って何だろう??」


 トータスで表示される報酬は16000G、イベント引換券×46、プレミアム引換券×4、イベントコイン×6、強化石×4、スペシャル引換券×1。

 そのイベント引換券やプレミアム引換券、スペシャル引換券の使い方が分からずレストは色々操作して方法を探す。

 方法としてアイテムからや、イベントの告知画面から引換画面へ行けることが分かった。


「期限は無しで、結構な種類あるな…」


 画面にはイベント引換券を最低1枚から交換することができ、交換出来る個数に制限があれど、何時までに交換しないといけないといった期限がない。あと、イベント引換券が多いほど、良いものと交換できる。

 種類は初級ライフポーション何点セットなどの消耗品や、銅の片手剣からマッドネスタートルの鎧などの装備、様々なモンスターの卵や召喚陣などの豊富なラインナップ。

 その中には紅に染まった黒角や紅月の首飾り、暴獣の匂い袋などのレアドロップアイテムは無かったが、暴獣のドロップアイテムがあった。

 持ってない暴獣の素材が無いか確認した後、持ってない通常の素材となるアイテムがあったが、引換券が勿体ないと思ったで止める。

 レストはプレミアム引換券かスペシャル引換券か悩んだ後、スペシャル引換券の引換画面を開く。


「ここで出るの!!」


 思わず叫んでしまったレスト。

 画面に映るのはあの日、生命水と勘違いして採らなかった生命の実などの永続的な能力上昇するアイテムが並んでいた。

 異常に強かった夜のマッドネスウルフを倒した報酬だと考えれば納得できる。

 でも、何か複雑なレストだった。

 結局、特に上げたい能力値は無く、レストはAPもかなり余ってるので交換しない。


「次はプレミアム引換券か……すげぇ!!」


 低いテンションのままプレミアム引換券の引換画面を出し、それを見た瞬間にレストが目を輝かせた。

 食い入るように見つめる画面の先には、先程無かった暴獣のレアドロップアイテムや、スキルオーブやマジックスクロールなどと言った魅惑的なアイテムが並ぶ。


「何を選ぼうかな」


 既に交換しないと言った考えは、レストには無かった。

 にやけた表情で、荒くなった息、画面に当たるぐらい近づいたレストが、両手の指を怪しく動かす。

 その状態で1時間ぐらい説明文もじっくり見てから決めた。


「楽しかった…」


 レストは画面から顔を離して満面の笑み。

 レストは残り3枚は必要な時に取ることを決め、プレミアム引換券1枚と引き換えに、とあるスキルオーブを選んだ。


────────────────────


特別報酬の参考

真・暴獣の心晶入手:イベント引換券×30、イベントコイン×4、強化石×5プレミアム引換券×1

混沌・暴獣の心晶入手:イベント引換券×24、イベントコイン×3、強化石×4、プレミアム引換券×1

真・暴獣の心入手:イベント引換券×21、イベントコイン×2、強化石×2

混沌・暴獣の心入手:イベント引換券×15、イベントコイン×2、強化石×2

真・暴獣の虚心入手:イベント引換券×14、イベントコイン×1

混沌・暴獣の虚心入手:イベント引換券×8、イベントコイン×1

暴獣の心晶(○)入手:イベント引換券(3×個数)、イベントコイン×1

暴獣の心(○)入手:(2×個数)

暴獣の虚心(○)入手:イベント引換券(1×個数)

未入手:なし

暴獣の心晶は暴獣の心晶(○)と同じ報酬で、倒した暴獣が個数となる。


思った以上に長くなったので、続きは次回に。


「あいつは生産プレイヤーで初心者だから、そこまでレベル高くないはず。一週間あれば越えれるだろう」

から

「あいつは生産プレイヤーで初心者だから、そこまでレベル高くないはず。それにテイマーとしてのデメリットがあったから…一週間あれば越えれるだろう」に変更します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る