第30話 主人公ってどっち??①

 ボス部屋も“緑園の草原”と同じく芝が敷かれ、少し遠くに見えるのは芝を越えた先に膝まで伸びたテキリスゲが生えている。

 例えるなら、テキリスゲが無秩序に自生していた場所に、ある範囲だけ芝を植えたといった場所だった。


 そこには赤黒い肌とマッドネスベアと同じ色の赤色の瞳。胴体のみ厚い桔梗色の毛で覆われている。身長はレストの2倍以上ある大きな巨体の羊。

 レストとアリスがマッドネスシープと書かれた文字を確認すると同時に、「メェェェエ!!」と吼えて動き出した。


「…作戦通りに」

「了解!!【隠密】」


 一度は言ってみたかった台詞を言い、アリスは剣を持ってマッドネスシープの方へ走り出す。

 その言葉にノリノリに答えながらレストも爆裂玉を用意した。


「…【挑発】【疾走】【体動の呼吸】」

「メェェエ!!」


 マッドネスシープと接近したアリスは【挑発】を使い敵愾心ヘイトを上げ、背後のレストへ向かわせないようにする。

 【挑発】の効果が乗った声で、ボス部屋に入ったことでリセットされたスキルを使う。

 MP消費無しの【疾走】で移動速度を上げ、呼吸のやり方が変わる【体動の呼吸】で体力減少を抑える。

 そしてより姿勢を前傾に、歩幅を広げ、もっと速く足を動かす。

 アリスは片手剣を両手に持ち、すれ違いざまに。


「…【クイックスラッシュ】」


 マッドネスシープの右前足に一閃。

 アリスは体のひねりと走ってきた勢いを乗せ、攻撃スキル【クイックスラッシュ】の威力よりも速さを求めた横薙ぎの一撃で、全体の3%ほどのダメージを食らわせる。

 悲鳴を上げるマッドネスシープを背に、その前駆けて約5メートルの所で剣を振り抜いた状態で止まり。

 靡かせた金髪が元に戻るとアリスは振り向き、マッドネスシープが体躯を動かして顔を向けた瞬間。

 アリスは再び走り出す。


「メェェエエ!!」


 マッドネスシープは頭突きで攻撃しようにも、アリスは地面スレスレを走り抜け、後ろ足へ一閃。


「メェェエ!!」

「…【デュアルエッジ】」


 アリスは怒るマッドネスシープが振り向くのに合わせて動き、【デュアルエッジ】で2連続の剣撃を尻尾の付け根へ食らわせる。


「メェェエェエ!!」


 マッドネスシープは前足を持ち上げ、アリス目掛けて踏みつけた。


「…【瞬動】【見切り】」


 しかし、アリスには当たらない。

 【瞬動】による反応速度を上げる効果と【見切り】による知覚速度を上げる効果で、初見の連撃を紙一重の回避を成功させ。

 それどころか、連続の足踏みに対して、

 まるで、攻撃されるために足は降りてきているようだ。


「メェェエ」


 連撃を終わらせたマッドネスシープが弱々しい声を上げ、顔から落ちる。

 それを、当然回避したアリスは。


「…【ライトスラッシュ】」


 【瞬動】と【見切り】の効果時間が切れる前に、攻撃力重視だが隙の少ない【ライトスラッシュ】を首へ振り下ろした。


「メェェェエエエ!!」


 弱点に入ったマッドネスシープは今までで一番悲鳴を上げ、首を振り回す。

 【ライトスラッシュ】の僅な硬直によって遅れ、体力の低下で敏捷が下がった結果。

 背後に跳ぶがギリギリ頭へ触れる。

 しかし、その直前にアリスは剣を間に挟み、受けるダメージを減らす。


「…危ない」


 背後に跳ぶと剣による防御で、アリスはHP5%以下のダメージに抑えた。

 怒り心頭と言った雰囲気のマッドネスシープは起き上がると同時に、頭を上げて息を吸い込む。

 それを想定していたアリスはマッドネスシープから全力で離脱する。


「…レス」


 アリスが指示を出す前に、マッドネスシープの後頭部から爆音が響く。

 背後では一度も攻撃に参加しなかったレストが20メートル離れた場所から、爆裂玉1投げつけていた。

 無防備な後頭部に爆撃を食らったマッドネスシープは頭から倒れる。


「…【首刈り】」


 先ほどの最高ダメージである12%を越え、アリスが与えた総合ダメージ量の25%ぐらいと同等のダメージを一撃で食らわせたレスト。

 それに理不尽と思いながらも、アリスは最後の攻撃を仕掛ける為に走り出す。

 走り出すと同時に言った【首刈り】でマッドネスシープの首に赤色のラインが付く。


「…【退魔之剣】」


 アリスはを両手で持つ。

 MPは減っていくが、HPは回復していく。

 そして底が見えていた筈の体力が戻ってくる感覚。

 今まで感じていた疲労感が無くなり、最初と同等の速度で走る。


「…【捨て身】」


 マッドネスシープに近づき、次のスキルをアリスは使う。

 アリスの全身に血管のような紅色の輝線が現れる。

 全快したHPが1となったアリスは、起き上がらないマッドネスシープの首の前に立ち、上に剣を構え。


「…【ヘヴィスラッシュ】」


 アリスが持つ攻撃スキルの中で最も隙が大きいが、最も強い一撃を放った。

 その攻撃をマッドネスシープの首の赤線に当て。


「メェェェエエエエ!!」


 過去最大級の悲鳴を上げたマッドネスシープ。

 アリスは紅色の輝線が無くなり、マッドネスシープのHPを見て。


「…私の勝ち」


 笑みを浮かべて、硬直の解除後にその場を離れた。

 こうして負けず嫌いなアリスは一撃でレストより大きい、3を与えることに成功した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る