第24話 この場面で!?

 一本のロープを力強く掴み、地面を立つように土壁に足を着け、後退りして降りていく。


 ただ、その歩みは遅い。

 ロープアクション初心者でノウハウがないという理由もあるが、足場となっている土壁が脆く常にボロボロと崩れるため、足場を確認しながら進まないといけなく。

 背後から、獣の唸り声が聞こえる暗闇や高い場所から落ちるかもしれない、という精神的な要因もあるだろう。

 仮にロープで降りた経験があれば、少し時間が経ち穴が照らされた頃ならば、今より負担なく進めた筈だ。


 だからこそ、経験がないため慎重に進み、時折背後へ視線を向け地面を確認する。


『…遅い』


 フレンドの電話機能からアリスが苦言を届く。

 それに、じゃんけんで勝って現在ロープアクション中のレストは答える。


「結構難しいよこれ」

『…私ならできた』

「足場も視界も悪いし、命綱もないから慎重に進まないと」

『…へたくそ』

「コツ分かってきた所だから…」


 揚々ない声だけど悔しそうに感じるアリスにレストは苦笑して言い。

 足の裏で土壁を固め、ロープの掴む位置を変え、一歩下がり土壁を固めるを繰り返して、今までより早く降りていった。


「うわぁー結構いる…」

『…誰かさんが集めたから』

「ごめんって」


 【夜目】スキルの見える範囲で既に20匹以上のモンスターが存在している。

 レストはこれらを今から倒していけないけど、


(各個撃破はいやだな。爆裂玉の節約をしたいし)


 とロープを握りしめ、一晩で100個以上消費した爆裂玉の節約方法を考えていた。


『…倒さないの??』

「いや、どうやって倒そうかと……あっ、ナイスアリス!!ありがとう!!」

『…えっ…どういたしまして??』


 ちょっと言い過ぎたと思ったアリスが沈黙に耐えきれず聞き、正直に答えたレストはあることを思い出した。

 アリスが言った「…私は【挑発】スキルでモンスターを集めて一撃で倒せる」という言葉と、今まで忘れてたさっき習得した【挑発】スキルの存在に。


 アリスが困惑している間に、レストは早急にメニューを操作し、スキルを確認する。


【挑発Ⅰ】

音や行動でモンスターの敵愾心ヘイトを上昇させ狙われやすくする。

必要MP20。効果時間30秒。再使用時間クールタイム180秒。


 この【挑発】は今晩の爆撃している時に習得したスキルの一つで、他にも【地形破壊Ⅰ】【罠設置:落とし穴】【土魔法Ⅰ】【アースホールⅠ】を習得した。

 欲しかった効果を持つスキルを確認してレストは面白いことを思いつき、ほくそ笑みながら【挑発】を獲得する。


「アリス。今から爆裂玉投げるから」

『…えっ』

「【挑発】そぉい!!」


 レストは爆裂玉を巻き込まれないように、反対側の少し離れた地上付近に投げた。

 穴の中に鳴り響く爆音と爆風で吹き飛ばされないように踏ん張り、それらが収まり次第レストは叫んだ。


「アホモンスターども!!ここに!!お前らを落とした張本人がいるぞぉー!!」


 【気配察知】でモンスターが集まって来るのを感じながらメニューからアイテムを取り出す。


「アリス!!今からロープ引き上げて!!頼む!!」

『…どういう状態か分からないけど分かった』

「サンキュー!!モンスターどもここだぞぉ!!集まれ!!」


 穴に【挑発】が乗った声が響き渡り、上がるロープを片手で掴んでぶら下がる。

 モンスターはレストの下に集まり、この穴にいた全部が集まった事と地上に出たことをレストが確認すると。


「あばよ。モンスターども。アリスこっちに」

「…えっ」


 炸裂薬よりも濃い赤色のポーションをモンスターたちの所へ投下し、呆けているアリスの腕を掴んで爆発の逆側へ行く。


 そして、今まで一番大きな大爆発。


 これは炸裂薬を3本一緒に煮詰めて作り出した炸裂薬の効果だ。


名称:三倍濃縮炸裂薬

種類:薬品 品質:3

耐久値:50/50 重量:1

効果:衝撃を加えると小爆発する。攻撃力+28。自爆時威力強化小。爆発ダメージ上昇小。爆発強化小。与ダメージ上昇小。爆発範囲上昇微。地形破壊効果微。爆発効果三倍。投擲可能。自爆可能。

参考:レスト作。取り扱い注意。


 爆発範囲上昇小は爆発に1メートル足した分が有効範囲になり、その他の効果で約40メートルの範囲ほどの爆発威力を発揮する。

 実験済みの在庫が9本あり、爆発範囲と威力が凄まじいことになったレストの奥の手の一つ。

 爆裂玉より数が少ない濃縮炸裂薬がこの場面に最適と思ったのかは、レスト自身も分からない。


 ドロップアイテム回収のログを目で見て、『【不倶戴天】を習得しました』のアナウンスに耳を傾け、土が雨のように降る中、レストはふぅーと息を吐いて言う。


「やり過ぎたかもしれない」

「『…やり過ぎ』」


 重複して響いたツッコミと、大きく抉れた今いる場所と穴を越えた先の森を指し、アリスは本日5回目のジト目となった。



「…これどう思う」

「隠し要素だと思う」

「…私も」

「だよね」


 先に降りたアリスがジャンプしながら降りるというレスキュー隊顔負けの行動をしたり。降下途中に伐採木に結んだロープが解れ、レストが落ちるということが起きたが。

 それが些細なことだと言えるほどのことがあった。


 それは降りた先の爆発でより深く抉れた場所。人一人通れるぐらいの隙間がある人工物の石壁。まるで、石造りの建物が土で埋まっているように存在したのだから。


「あの爆破は意味があったかな??」

「…ある意味」

「そっか。じゃあ最初に入らしてもらう」

「…うんうん、私が先」


 誰も見つけたことが無いであろう未知の場所へ行くワクワク感。

 そんな二人は暴獣のことは忘れ、石壁の方へ向かった。

 じゃんけんで勝ったアリスから順番に入ると。


「……」

「わぁーぉ」


 固まるアリスと、現実では見たことのない風景に周囲をキョロキョロする子供レストがいた。


 中は紫色の絨毯が敷かれ、見渡す限り真っ直ぐ廊下が続き、広いのに窓がないためか圧迫感があり。

 炎が灯った燭台は一定間隔に壁へ掛けられ、紫色の炎が蠢く様子は不気味。

 所々に暗い場所があり、不安を掻き立てられるような場所だった。


「おぉーい。アリス」

「……………なに」


 ウキウキなレストは反応がない、アリスの目の前に手を振って呼びかける。

 大分遅れて返ってきた返事に、レストはアリスがホラー系苦手なタイプかなと思った。


「【退魔之剣】でも使って明るくしたら」

「……そうする。【退魔之剣】…!?」

「よし、なら行ってみよう」

「…待って整理させて」

「りょーかい」


 レストもアリスと同じようにメニューを開き、マップの確認とアイテムを出す。


 そして、ゾッとする気配をに感じた。

 恐る恐るレストが振り向いた先には光の粒子になって消えていくアリスと、赤色のアイコンが浮かぶモンスターがいた。

 血色の眼光を放つ頭蓋骨、骨の手で持つ大鎌を姿に、黒のローブから出るであろう足が無い──


「死神」


 『【危機察知】を習得しました』というアナウンスが聞こえる中、頭が真っ白となったレストは震えた声で漏らす。


───カタカタカタ


 と死神から響き、構えた大鎌に血色の光を纏う。

 次の瞬間、レストは気づいた時には血色の刃で刺さり、胸部への痛みと共に視界が暗転した。

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