第42話 ヘキューリアの視点


 本日の主役であるアランが会場を出ていくと、パーティーとしてはあり得ないほど静かだった会場がいきなり騒がしくなる。きっと、みんな初めて見るアランにそれほど注目していたのだろう。

 アランの容姿は整っている。ただ、どちらかというと母の特徴を継いだために、大きな目、宝石眼、真っ白な肌、すらりと伸びた手足、そのどれもが女の子では? と思わせてしまうものだった。まあ、だんだんと男の子らしさが出てきた、気もするけれど。それに辺境伯家次男という低くない身分、宝石眼、それについこの間は日刻ミ表のことで陛下の目にも留まるということもあった。話題には事欠かない、我が家の大切な弟。案の定、彼の容姿はすぐにその場の人々の目を釘付けにした。ただ、初めから危惧されていた通り、この会はアランの体力にはなかなか厳しかったようで、終わりがけには相当顔色を悪くしていた。後で様子を見に行かないと……。


 そんなことを考えている間にも、こちらのほうをうかがう視線をずっと感じる。アランのことで探りを入れたい、単純に僕に近づきたい、きっとそんな思惑を持っているであろう貴族たちの相手は正直うんざりだ。でも、ここはアランのために耐えるしかないのだろう。マリーだってもうご婦人たちに囲われているしね。さて、最初は誰と話そうか。そんなことを考えていると、一人の男性がこちらにやってくるのが見えた。


「お久しぶりですな、ヘキューリア殿。

 ご息災なようで何より」


「お久しぶりです、ブラッレ伯爵。

 ブラッレ伯もご息災なようで」


「ああ。

 それにしても、ずいぶんとかわいらしい弟君ですな。

 彼は本当に男子なのですか?」


 にやにやと嫌な笑みを浮かべて出てくる言葉には吐き気がする。だが、ここで顔をゆがめてはのちのち厄介なことにしかならない。


「おや、ブラッレ伯は遅れてきておりましたか?」


「え?

 あ、いや、初めからいましたが?」


「ああ、失礼いたしました。

 しかし、父上やアラミレーテがカーボ家の次男であると話していたことを聞いていらっしゃらなかったご様子ですので」


 にっこりと、口に出していいぎりぎりのことを言う。馬鹿にされたと、そう正しく認識したとたんブラッレ伯の顔はみるみる赤くなっていく。何かを言いつのろうとしたのか、何度か口を開閉するものの何も言うことなく、舌打ちをすると足音荒くこの場を立ち去った。本当に、こんなにも年下の僕に言い負かされるとか……。いや、何でもない。


 その次にやってきたのは、バッカル侯爵だ。先ほどの様子を見てか、アランを女の子みたいとからかうことはなかったが、同じ年頃の息子がいるからぜひ仲良くしてくれ、という内容だった。いやいや、アランが誰と仲良くなるのか、それを決めるのは僕ではないんだけれどね?

 そのあとも、ぜひアランと自分の子供をという内容、果ては僕に婚約者を勧めるものもありながらもなんとかその日のパーティーは終了した。何とか僕の役目は果たすことができたかな?


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