第25話
「では、また屋敷で」
そういうと父上と母上はどこかへと向かっていく。僕はどうしたらいいのだろう、と戸惑っていると行こうか、と兄上に声をかけられる。どこに行くんだろう?
「あの、どこに行くのですか?」
「ああ、殿下方のところだよ」
殿下⁉ いや、どこかで会うのはわかっていた。でもそれが今だとは思わないじゃんか。え、本当に会うの? と戸惑っているうちにどこかの部屋についてしまいました。部屋の前に二人騎士が立っている時点で中にいる人が重要な人だとわかるよね。
後ろについてきていた兄上の執事が前に出て、ノックをする。すると、中からかっちりと執事服を着こんだ男性が出てくる。その男性に何かを言うと、少々お待ちください、といって再び中に入っていく。するとすぐに戻ってきて中へと通してくれた。
中に入ると、2人の男の子がいる。殿下方って言っていたし、たぶん2人とも王子様だよね。ど、どうしたらいいのかな。挨拶していいの?
ちらりと兄上を見ると、殿下方の前へ出て膝をつく。それに従って僕も膝をついた。
「こんにちは、エキソバート殿下。
お初にお目にかかります、シフォベント殿下。
ヘキューリア・カーボと申します」
「お初にお目にかかります、アラミレーテ・カーボと申します」
「顔を上げてくれ。
そのままだと話ずらいからな」
その言葉に顔を上げると、なんとも言えない顔をした兄上と同じくらいの男性がいた。
「本当に、いつになったらエリトと呼んでくれるのか。
いつでもいいんだが?」
「しかし……」
なるほど、確か兄上と第一王子は同じ年だったものね。ふむふむと勝手に納得していると、こちらが噂の弟かい? と話を振られる。噂ってなに⁉
「はい」
へえ、となんとも言えない感想をこぼしながらこちらを向く殿下と目があった。あ、きれいな目だ。第一王子ってことは、王位継承権第1位のはず。もっと人を疑うような眼をしているのかと思っていた。
「そうだ、確か弟と同じ年だったよな?
ぜひ仲良くしてあげてくれ」
「はい」
そういわれて、僕はようやく第二王子の方に目を向けた。そして目があった瞬間、襲われたのは強い既視感。絶対に初めてあったはずなのに、でも絶対にどこかで会ったことがある。
まさか、まさか……。
「へ、いか?」
「らる、へ?」
思わず零れてしまった言葉。お互い、じっくりと聞かないとわからないくらいの小さな声。でも、なぜが僕の耳にははっきりと聞こえた。
ああ、やっぱり。姿かたちは全く違う。でも。なぜかわかってしまったのだ。この人はベルタクトラ陛下、いやクロベルタだ。
「何か言ったかい、二人とも?」
まずい、つい口をついて出てしまったが聞かれてはまずいことだよね。よかった、あまり聞こえていなかったみたいで。
「いえ、何も。
よろしくお願いいたします、えっと……」
「あ、シフォベント、といいます……」
「シント?
顔が真っ青だぞ!」
どうして、僕の顔を見てそんなにも顔色を悪くするの? そんなにも僕に会いたくなかったの? 何も、していないのに。一度も彼を裏切ることはしなかった、のに。
「すまない、また後日会うのでいいか?」
シフォベント殿下の体調を心配してか、エキソバート殿下がそう口にする。それに兄上もすぐにうなずいた。戸惑ったままシフォベント殿下を見ていると、どうして、という目でこちらを見てきていた。あ、殿下ゴールドの目、宝石眼なんだ。そんなどうでもいいことを考えながら、僕は兄上に背を押されて部屋を出た。
「大丈夫かい?」
何があったのか、いまだにわからない。でも、拒絶された、そう思った。裏切られるようなこともあった、それでもずっと友人だと信じてきた。それは今でも変わらないんだけれど……。
「アラン?」
「あ、なんでもありません」
事情なんて話せるはずもない。そう答えるしかない僕に、兄上はそれ以上何も聞かないでいてくれた。
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